東京スカパラダイスオーケストラ @ 国立代々木競技場第二体育館

4月から全国各地のホール及びライヴ・ハウスを巡ってきた『TOKYO SKA PARADAISE ORCHESTRA 2012 TOUR【Walkin’】』のファイナルは、国立代々木競技場にある第二体育館の2デイズ。屋内だろうが野外だろうが場所を選ばないスカパラのライヴは、これまでにもお隣の第一体育館や両国国技館、また東京体育館など競技施設でも行われてきたけれど、なんというか単にライヴ・ツアーのファイナルというよりも「決勝戦」みたいなムードが手伝って血がたぎる。なお、このレポートは2デイズの初日(7/5)を観て、書いたものですが、アップは2日目(7/6)の終演後となります。ご了承ください。

今回のステージは、アリーナのやや東寄りに設置されたステージから西方向に花道が伸び、それを360度、客席が取り囲むという形。つまり東側の観客席にあたるA、B、C、飛んでT、Uブロック辺りのオーディエンスは、基本的にスカパラ・メンバーの背中を見つめることになる(もちろん、スカパラの面々は頻繁にそちらの客席の方を向いて煽り立てていた。「後の人が味方みたいで良い」とは後の大森の弁)。開演時間を迎え、唐突に客電が落とされた場内で、スカパラはいきなり驚きのパフォーマンスを見せつけてくれた。バイクのけたたましいエグゾースト・ノートのSEが響き渡る中、ステージ袖から登場するものとばかり思い込んで見つめていたら、なんと西側の客席通路に姿を現したのだ。当然のように巻き起こる大歓声である。

この時点で登場したのは、加藤隆志(G.)、川上つよし(B.)、沖祐市(Key.)、茂木欣一(Dr.)、大森はじめ(Perc.)の5名のみ。この編成で、新作アルバム『Walkin’』の中でもひときわロック色の強い、歪んだ爆音をぶっ放す“Ruturn of Supercharger”をスタートさせてしまう。個人的に披露されることを強く期待していたナンバーだけれど、この曲から始まるとは思っていなかった。そこにホーン・セクションの4名、NARGO(Tp.)、北原雅彦(Tb.)、GAMO(Tenor Sax)、谷中敦(Baritone Sax)が加わって、“ルパン三世'78”、“MONSTER ROCK”といったキラー・チューン群が畳み掛けられる。花火(見た目の華やかさよりも派手な炸裂音重視)やリボンキャノンも発射され、なにこれクライマックスなの? もう終わるの? という、もの凄い高揚感を煽り立てる冒頭3曲であった。「すごいね、360度。やっぱり何度戻ってきても、東京は嬉しいです。俺たちにとって特別な夜になるんで、思いっきり楽しんでくれよ。用意はいい? 戦うように楽しんでくれよー!!」と谷中の決め台詞も届けられる。

この代々木第二体育館は音楽コンサートのために設計された建物ではないし、屋根が漏斗を逆さまにしたような形状になっているので、天井が場所によっては低くなっている。そのためか、深くくぐもったような音の響きになってしまうのだけれど、むしろこれが面白かった。とりわけ欣ちゃんのバス・ドラムや川上のベース音が、ナチュラルにエコーがかってダブしてしまうような音響になっているのがヤバい。またセット・リストは、もちろん『Walkin’』の収録曲も多く配置されるのだけれど、新作やライヴの人気曲だけには捉われない選曲も含まれ、しかも今ツアーならではの趣向がハイライト的に盛り込まれるという、予測不能でスリルに満ちたものになっていた。

欣ちゃんが細かくビートを刻みながら伸びやかに歌い上げる“Twinlke Star ~頼りの星~”に続いては、フリッパーズ・ギターのカヴァーである“クールなスパイでぶっとばせ”を驚異的なコンビネーションで轟かせる。リミックス集に収められていた“Lonesome Eddy”では、スモークをかいくぐって花道の先端に躍り出る川上が、リフトに乗ってオーディエンスの頭上へと上昇しながら超絶ファンキーなベース・プレイを披露してくれていた。そしてここで歓声に包まれながら姿を見せるのは、ゲストとして今ツアーでも活躍してきた中納良恵(EGO-WRAPPIN’)だ。なんと“マライの號”で力強くソウルフルなリード・ヴォーカルを届けてくる。スカパラの演奏に対しては「胴上げされてる気分です」と思わず頷いてしまうような的確なコメントを残し、音源に客演した“縦書きの雨”ももちろん披露してくれた。谷中は「歌声を浴びて気持ちいいです」と告げていたが、これまた確かに「浴びる」という表現がピッタリだ。

大森のパーカッション大活躍で強烈なラテン・ビートが渦を巻き、客席ではイエローとグリーンの手旗が振られる“Brazil”。欣ちゃんはこの曲のメロディをオーディエンスにシンガロングさせ、そこからクイーンの名曲“ウィー・ウィル・ロック・ユー”のサビに繋げるのだが、声量に納得せず「イギリスからのスペシャル・ゲスト、フレディ・マーキュリー!」と唐突な呼び込み。沖さんにそっくりのフレディが、シンボルでもある脚部の無いスタンド・マイクを振りかざして(芸が細かいのが可笑しい)ソロのヴォーカル・パートを熱唱し、大合唱へと持ち込む。今度は花道の先端で巨大なフラッグを振りかざす欣ちゃんであった。音楽の自由な遊びの中に、多くの人々を巻き込む光景が美しい。

“STORM RIDER”でバリトン・サックスのアドリブを軽やかに吹きこなす谷中にしても、“daytime walkin'”で長くユーモラスなソロを披露したGAMOにしても、“水琴窟 -SUIKINKUTSU-”で余りに美しく自由闊達なピアノを奏でていた沖さんにしても、“SKA ME CRAZY”の電飾メロディカでまた新しいイントロを加えたり、“LET ME COME THE RIVER FLOW”では被り物をしてトランペットで馬の嘶きを再現してしまうNARGOにしても、ドット柄のトロンボーンをスタッフと大きく投げあい、至る所で聞き覚えのあるメロディをねじ込みまくる北原にしても。スカパラは賑々しい大所帯バンドだけれど、いざメンバー個々の力量を見せつけるとなれば誰も彼もがとんでもないことをやってのけてしまう。それぞれの強い個性があってこそスカパラというチームが成立している。今回はそのことを改めて思い知らされるステージでもあった。

いよいよの本編ラストは「みんな腕を上に挙げろー! そのまま腕を下ろして、隣の人と方を組め!」という谷中の言葉を合図に、客席に幾筋ものスクラムが生み出される“All Good Ska is One ”だ。華やかなだけじゃない。踊れるだけじゃない。メンバー間の限りなく遊びに近い音の真剣勝負に、オーディエンスも参加を求められるということ。確かな足取りで人生を歩んでゆくというゲームに、参加すること。これがスカパラのライヴだ。アンコールでは再び中納良恵が、そしてなんと特別にEGO-WRAPPIN’のギタリスト=森雅樹もステージに呼び込まれ、エゴ+スカパラというスペシャル・バンドで“くちばしにチェリー”を披露。森が掻き鳴らすボ・ディドリー・モデルの真紅の四角いギターと向き合いながら、ここにきてますますヒート・アップする加藤である。彼はこのあと、『WOMAD UK 2012』 (英ウィルトシャーのチャールトン・パークで開催)へのスカパラ出演を指し「日本代表として、音楽のオリンピックに出場してきます!」と告げていた。

これまで3年連続で夏に行われてきたスカパラの企画フェス『トーキョースカジャンボリー』は、残念ながら今年はお休み。ただし、今年は9/30に新木場スタジオコーストにて、新企画『トーキョーナイトクルージング』が開催されることが、この日発表された。「スカに捉われない、スカパラと縁のある人たち」も出演者として招かれるそうなので、オフィシャルHPでのニュースをはじめ続報に期待していて欲しい。(小池宏和)


SET LIST
01: Ruturn of Supercharger
02: ルパン三世'78
03: MONSTER ROCK
04: Walkin'
05: Hungry Beast
06: STORM RIDER
07: Twinlke Star ~頼りの星~
08: クールなスパイでぶっとばせ
09: HURRY UP!!
10: Lonesome Eddy
11: マライの號
12: BONGO TANGO
13: 縦書きの雨
14: daytime walkin'
15: Brazil
16: 水琴窟 -SUIKINKUTSU-
17: SKA ME CRAZY
18: LET ME COME THE RIVER FLOW
19: White Light
20: All Good Ska is One

encore
01: くちばしにチェリー
02: Just a little bit of your soul
03: DOWN BEAT STOMP