月曜日(祝日)開催となった『NANO-MUGEN FES.』の2日目。太陽光発電+蓄電の技術により、照明やスクリーンの電力を賄う方法が採用されていた今回の開催は、巨大フェス規模の音楽コンサートにおいても、こうした取り組みが積極的に成されていることが注目を集めていた。詳細は『NANO-MUGEN FES.』のオフィシャルHPで紹介されているので、ライター・高橋智樹氏による公式即日レポートを併せて、ぜひご覧ください。RO69では初日のレポート(コチラ→http://ro69.jp/live/detail/70328)と同じく、公式タイムテーブルに沿った形でレポートしていきます。アジカン/キヨシ&山田の注意事項と軽妙な下ネタを交えた前説から、いよいよ2日目がスタート。
CHARA (BAND STAGE)
朝から集まったオーディエンスに「起きてる?」と声を掛け、1曲目に《お願いちゃんと見てよ》のフレーズが面白い具合にハマる“しましまのバンビ”。みんなちゃんと観てるよ、というか、初っ端からCHARAの甘くソウルフルなヴォーカルに触れるという贅沢に、酔いしれてしまう。ツイン・ドラム編成の豊穣なバンド・サウンドに、コーラスの加藤哉子もドラムを叩く場面まである。「44歳なので息切れしちゃったわ」という言葉には当然、驚きの声が上がりまくっていたが、新曲“プラネット”から“才能の杖”、そして強烈なシャウト混じりの“やさしい気持ち”と壮麗な楽曲をアリーナの隅々まで届ける終盤3曲の流れは本当に素晴らしかった。
片平里菜 (ACOUSTIC STAGE)
続いて、BAND STAGE向かって左側のACOUSTIC STAGEに登場したのは、福島県出身・19歳のシンガー・ソングライター、片平里菜。たった一人で巨大なアリーナのオーディエンスに向き合う弾き語り“夏の夜”の歌声には、少し緊張が滲んでいたけれど、アジカンの喜多や山田を含むスペシャル・バンドのナンバーでは次第に本領を発揮。『NANO-MUGEN COMPILATION 2012』に収められていた“始まりに”が、鮮烈な歌声で感情の形を描き出していた。
10-FEET (BAND STAGE)
豪腕3ピース・サウンドで瞬く間にカチ上げながら、上昇線の中でもタイトな音像がまったくブレないところが圧巻だった10-FEET。「屋外の方が似合うということで、天井が開きます!」「場内のヴォルテージが上がると、後の座席が全部すべり台になってみんな前の方に来ます!」と横浜アリーナに無理目なサプライズを要求しつつ、そんな笑いも込みでオーディエンスがばんばか跳ね上がる。「知人に貰ったヴィヴィアン・ウエストウッドの、僕が穿くとそれはもうAV男優のようなパンツを穿き、今から何食わぬ顔で、メッセージ性の強い歌を歌います」と“その向こうへ”を、また来る新作からは“シガードッグ”を披露。TAKUMAは、アジカンのメンバーとは震災後によく話すようになったとも語っていた。笑いと爆音と熱いメッセージが等しく放たれる。つまり、いつでも臨戦態勢。10-FEETのそんな姿勢が伝わるステージであった。
MATES OF STATE (ACOUSTIC STAGE)
2日間出演となる洋楽勢の1組目は、米カンザス州出身の夫婦デュオであるMATES OF STATE。鍵盤を奏でながら艶のあるヴォーカルを届けてくるコリーと、豊かなハーモニー・ワーク&ダンサブルなドラム・プレイを担うジェイソンを中心にして、とても風通しの良い、勢いと美しさの両立した楽曲の数々を披露してくれる。トランペットの音色も華やかな演奏の世界観を押し広げていたし、ベーシストは大阪出身で、「日本でライヴをするのは始めてで、感動しています。ぜひまた帰ってきてツアーをしたいので、応援よろしくお願いします」と気持ちを露にしていた。前日のフィーダーのタカさんといい、洋楽・邦楽の垣根を壊してくれるような人物の存在が実にNANO-MUGENらしい。
チャットモンチー (BAND STAGE)
MATES OF STATE“Proofs”の日本語カヴァーである“夢みたいだ”で勢いをつけるオープニング。何をやるにも楽しそうに見えるこの2人のステージは、触れるだけで嬉しくなってしまう。加速感が凄い、それこそこの2人の呼吸でリズムが生み出されてしまうような“テルマエ・ロマン”はどうだ。多くの人が期待していたはずの、アジカン/ゴッチとのギター×2、ドラムスという編成で「きらきらひかれ」も思い切りよくプレイ。「学生さんとかに覚えて欲しいです。“渋谷で5時”じゃなくて、横浜で2時前くらい?」と“カリソメソッド”のデュエットも盛り込まれた。えっちゃんがヴォーカル/ドラムス、あっこちゃんが鍵盤の“染まるよ”辺りになると、余りの自由なカッコ良さに以前とは違う感動が溢れてくる。最高だった。翌17日発表、「謎のカープ帽」のニュー・シングルのプロデューサーは、やはり奥田民生でしたね。
PHONO TONES (GUESTReALM)
アリーナ4階に設けられた、和の情緒漂う快適空間=GUESTReALMにて、PHONO TONESのライヴ。前日にDr. DOWNERとして出演した猪股ヨウスケはベースに専念し、グイグイと動き回るフレーズで牽引してゆく。玄妙な音空間を演出してゆく宮下広輔のペダルスティールと、飯塚純の鍵盤が心地良く絡み、ギタリストとして伊賀比呂志も加わるという編成。余裕で踊れるけれど、強引に踊らせるというよりもGUESTReALMのムードに見合った「聴き入るのも可」なサウンドになっていたのが良かった。キヨシはアジカン時に見せる鋭角なビートよりも滑らかにリズムを形作るプレイを響かせていて、別動プロジェクトの醍醐味だなあ、と個人的にはそちらばかり注目してしまった。なお、このあともGUESTReALMでは岩崎愛&Kiyoshi、そしてKeishi Tanakaのライヴも行われていたのだけれど、残念ながら僕は見逃してしまいました。あとで知りました。すみません。
FOUNTAINS OF WAYNE (BAND STAGE)
初日にはアンコールの催促が上がったという米ギター・ポップのベテラン(と言って良いでしょう。もはやそれぐらいの貫禄と安定感)、ファウンテンズ・オブ・ウェイン。序盤から“Someone To Love”辺りの必殺ナンバーを投下し、アダムが哀愁漂う“The Summer Place”を紹介すると今度はクリスが「夏の次は冬の曲をやろうか」と“Valley Winter Song”に繋いでみせる。アジカンの喜多とキヨシ、そして岩崎愛がマラカスとコーラスで参加するアコースティック・セットの“Hey Julie”と、多彩な楽曲の引き出しを開け放ってNANO-MUGENに対応してみせる手捌きが鮮やかだった。表面的な新しさよりも、決して古びないことの凄さが滲み出る。
MOTION CITY SOUNDTRACK (ACOUSTIC STAGE)
喜多と山田が「スタッフによれば、普段はアコースティックのライヴをやることはほとんどないそうです。かなりレアです」と紹介していた、モーション・シティ・サウンドトラックの初日とは趣向を変えたセット。瑞々しいメロディが次々に溢れ出し、髪を逆立てた眼鏡ヴォーカリスト=ジャスティン(本人は寝グセだと言ってオーディエンスを笑わせていた)のファルセット・ヴォイスがバンド・サウンドに映える。僕は初日のエレクトリック・セットを観ることは出来なかったのだけれど、ロックのドラマ性と奥行きを充分に感じさせるパフォーマンスになった。不慣れなはずのアコースティック・セットなのに、楽曲とバンドの地肩で強い求心力を生み出している。好感度高いユーモアを交え、「もうちょっとやったら、次はthe HIATUSだよ!」とフェスそのものに積極的に関わってゆく姿勢も最高だった。アジカンとしても嬉しかったはず。
the HIATUS (BAND STAGE)
今回のサウンドチェックでは“Stand By Me”を1コーラス歌い、さっそくオーディエンスの喝采を浴びていた「何を歌ってもサマになってしまう男」=細美武士。本編は“The Flare”からバンドが一丸となってロック・サウンドの極限を目指すようなサウンドを叩き付ける。「今回の『THE FUTURE TIMES』も凄かったね。パッと見た瞬間、ますますいい新聞を作ろうとしてるなと思って、ポロッと涙が零れたよ。これからもみんなで、人生をかけて、ASIAN KUNG-FU GENERATIONを応援していってください」と熱いエールを送り、今度は『A World Of Pandemonium』モードの豊かなバンド・グルーヴへと飛び込んでゆく。スキルと経験をそれぞれに備えたメンバーが、さらにその先の可能性を手探りしてゆこうとするthe HIATUSのスリルと興奮。気持ちが昂ってオーディエンスに発破を掛ける細美が、そのMCを自分で気にしてしまう一幕もあったけれど、「大丈夫だよ!」と声を上げるオーディエンスと「マジでありがとう、救ってくれて」とやりとりを交わしていた。つくづく、一人一人のオーディエンスの心情と真っすぐに向き合うアーティストなのだ。凄い。
80KIDZ【LIVE SET】 (DANCE STAGE)
さてここで、BAND STAGE向かって右手側のDANCE STAGEが満を持してオープン。ステージ方向からレーザーが走り、80KIDZの登場だ。なんかもの凄くおいしい役回りになっている気がする。エレクトロのトラックとダイナミックなバンド・サウンドが渾然一体となったパフォーマンスに、体力を温存していたわけではないだろうけれど大勢のオーディエンスの体が跳ね上がる。単に「踊れる」ということだけではなくて、アルバム『TURBO TOWN』で一層明らかになっていた彼らのソング・ライティングが素晴らしいのだ。ときに荘厳な聖性のコーラスを混ぜ込み、ときにエキゾチックな情感が溢れるスケールの大きな旋律を導き出し、その先で共有されるべき興奮を掴まえようとしている。このタガが外れたような音楽的冒険を繰り広げ、しかも決してポップを見失わない80KIDZは、もっともっと注目されて然るべきだと思う。
SUEDE (BAND STAGE)
アジカン/喜多&山田が「ついさっき挨拶してきました。我々もいい大人ですけど、本当に素敵な大人でしたね」と紹介するのは、スウェードだ。8年ぐらい昔の自分に、「将来、アジカンが横浜アリーナにスウェード呼ぶぞ」と教えてやりたい。『NANO-MUGEN FES.』が武道館で行われたときぐらいで、スウェードは活動を休止していた。活動を再開して昨年のサマソニの舞台は絶賛の声が寄せられていたけれど、今回も素晴らしかった。細身のシャツに身を包んで腕をフリフリ、ひっきりなしに飛び跳ねて煽るブレット。サイモンが繰り出すソリッドなリズムと、その上で構築されるがっちりした演奏、そして数々の名曲たち。“Trash”、“Killing Of A Flashboy”、“The Drowners”、“Everything Will Flow”。ブレットでしかあり得ないビブラートを届けながら、何度も彼は「歌って!」とアリーナにマイクを向け、コーラスが広がる。オーディエンスに支えられて終盤は完全に無敵モードに入っていたし、UKロックのトップクラスに立ったバンドの力を多くの人が味わったと思う。時代と海を越えて届けられた“New Generation”と“Beautiful Ones”。8年ぐらい昔の自分にも教えてやりたい。
ASIAN KUNG-FU GENERATION (BAND STAGE)
ゴッチは「調子がいい」とサラリ語っていたけれど、まず演奏自体がそんなもんじゃなかった。コンビネーションや音の正確さも含めて、バンドの音像の密度が高い。その上で熱量も高い。なのに喜多もキヨシも、笑顔を綻ばせながらながら何でも無いことのように演奏している。“サイレン”で始まって“ループ&ループ”と“リライト”を続けざまに放ち、新曲“それでは、また明日”も盛り込むような選曲を、こんな表情で、こんなふうに演奏してしまうものなのかと。そして10曲目“エントランス”までを披露した後のゴッチのMC。一部抜粋になります。「インターネットの時代になってから、情報が多くなったし、人と繋がって趣味を共有したりできるようになって。それは素晴らしいことなんだけど、今度は小さなグループが出来てしまって、それがちょっと寂しいなって」「この一年、大変なことがたくさんあって、いつか自分も死ぬんだなってことを考える時間があったんですよ。俺、いま35なんですけど、驚くとこなんですけど(笑)、人生もう折り返してるなと思っていて。そうすると、ハッと、いいな、って体で思える瞬間が大切で。そういう一瞬をたくさんの人と共有できるってことは、素晴らしいことだと思います」。アンコールではチャットのえっちゃんと再びデュエットする“All right part2”も披露され、ステージにダンス・チームを招いた賑々しい“踵で愛を打ち鳴らせ”では、大勢のオーディエンスもあのMVのダンスを踊っていた。思いを重ねた上で届けるべきメッセージの順序を見つけ、辿り着くべき『NANO-MUGEN FES. 2012』の光景に辿り着いている。それが美しかった。何も偶然ではなかったのだと思う。果たされるべき目的と払われるべき努力があって、確かにそこに到達した。だから迷い無く次のステップを踏み出せる。頑強な意志の形とベクトルが、アジカンのステージにも表れていた気がする。(小池宏和)
『ASIAN KUNG-FU GENERATION presents NANO-MUGEN FES. 2012』(2日目) @ 横浜アリーナ
2012.07.16