ザ・ビーチ・ボーイズ @ QVCマリンフィールド

ザ・ビーチ・ボーイズ @ QVCマリンフィールド
まさに、夢のような海沿いの一夜だった。50年ぶりに再結成を果たしたザ・ビーチ・ボーイズの来日公演である。ビーチ・ボーイズ名義での来日は8年前にもあったが、長らく脱退状態にあったブライアン・ウィルソンが再び加わり、ブライアン・ウィルソン、マイク・ラヴ、アル・ジャーディン、デヴィッド・マークス、そしてブルース・ジョンストンとオリジナル・メンバーの5人が揃った来日は実に33年ぶりの快挙となる。50周年、再結成に際し、彼らはこの面子でニュー・アルバム『ゴッド・メイド・ザ・レディオ~神の創りしラジオ』も作り、今回の来日以外にも70公演にも及ぶワールド・ツアーが組まれている。そう、まさに本気の再結成、本気のツアーなのである。

正直、自分が生きている間にブライアン・ウィルソンのいるビーチ・ボーイズをこの目で観ることができるとは思っていなかった。そして、実際にそれを目の当たりにした今もなお、昨夜のあの光景は夢だったのではないかと、どこか非現実的な感覚に襲われているのも事実だ。誰もが知っている名曲達に誘われてサーフィン、ビーチ、カリフォルニアの陽光といったビーチ・ボーイズの代名詞たるモチーフの数々が色鮮やかに浮かび上がっては消えていく、そのフワフワした楽しさ・懐かしさと共に、哀しさ・切なさもまた溜め息のように薄く漂っていたステージだった。ビーチ・ボーイズの来日公演はまさに夢の実現ではあったけれど、それは既に失われた夢の欠片の反芻作業でもあったということを、ステージ上に静かに座っている(時に静かに座っている「だけ」の)ブライアン・ウィルソンの姿は残酷なほどはっきりと伝えていた。いや、そもそも完璧なポップ・ミュージックとは時として哀しく切ないものなのだということを教えてくれたのが、『ペット・サウンズ』だったことを改めて思い出させてくれる、そんな2時間弱のステージだったと言っていい。

ちなみにこの日の前座を務めたのは日本から星野源、そして長年盟友と呼ぶべき関係を築いてきたアメリカの2組。星野が登場したのはまだ日も高い16時半だったけれど、温い潮風が吹きつけるQVCマリンフィールドに「グッド・ヴァイヴレーション」を呼び入れる役割を果たしていた。続くアメリカは何と言っても70年代からビーチ・ボーイズと同じステージに立っているバンドなのである。“名前のない馬”や“夢のカリフォルニア”といった名曲も演る貴重なステージで、彼らのステージが進むうちにどんどんここ幕張のムードが南カリフォルニアに近づいてくる感覚を覚えた。

ザ・ビーチ・ボーイズ @ QVCマリンフィールド
そして19時ジャスト、ついにビーチ・ボーイズがステージに登場する。人一倍しゃきしゃきしているのがマイク・ラヴ(御歳71)で、ふらふらふらっと現れたのがブライアン・ウィルソン(御歳70)である。その姿を確認して、スタンドからは歓声のようなどよめきのような声が漏れる。ブライアンは心ここにあらずな表情で、時々「はっ」と我に帰るというか、スイッチがONになる瞬間があるという感じだが、なんとかキーボードの前に腰を据える。アル・ジャーディン、デヴィッド・マークス、ブルース・ジョンストンは元気そうだ。フロントの5人は皆カラフルなシャツを着ていて、常時10人以上いると思しきバック・バンドのメンバーたちは対照的に黒子のように地味なシャツを着ている。そして1曲目の“ドゥ・イット・アゲイン”が始まった。

下に記したセットリストを御確認いただければと思うが、まあ、とんでもない内容だった。全33曲のほぼ全てが誰もが知っているロック史に刻まれる名曲であり、随所でインサートされる『ゴッド・メイド・ザ・レディオ』からの新曲もまた、「あの頃のビーチ・ボーイズ」の再現に徹するという徹底っぷり。33曲やってなお2時間弱というコンパクトさからもわかるように、次から次へと間断なく畳みかける展開は言わば「夢」の保全を目指したショウであったと言える。序盤の“サーファー・ガール”辺りまでは筆者も「うわー本物だあああ!!」というアホみたいな感動で舞いあがってしまったが、それもこの夢のセットリストに免じて許してほしいところだ。

そして、少し冷静になってステージと向き合うと、改めてビーチ・ボーイズの楽曲が持つ普遍性に驚かざるを得なかった。サーフ・ロックの代名詞のごときリフが駆け抜ける“409”、サイケデリック60Sの色彩と混沌が一気に花咲く“英雄と悪漢”、“フールズ・フォール・イン・ラヴ”のドゥワップ、そして『ペット・サウンズ』からのナンバーが秘めたポップ・ミュージックの無限の可能性――それらはもちろん、70年代半ば生まれの筆者にとってリアルタイムで触れたものではないけれど、それでも当時と変わらず今ここで輝いていると確信できる、それがビーチ・ボーイズの音楽なのだと思った。たとえば彼らと同世代のローリング・ストーンズの凄さが時を経るごとに加齢を撥ね退け自分達をアップデートしていくことだとしたら、ビーチ・ボーイズはの凄さは恐らく老いてもなお軸が動かない、動きようがない、動かす必要がない楽曲の普遍であり、そしてその真空の中にポツンと存在するブライアン・ウィルソンの狂気なのだと思う。

実際みな70近い年になってよく声出るよなぁ……と感心するほど色艶完璧なコーラスだったし、それにバックバンドが異様に巧いこともあって、演奏の厚み自体は60年代のアナログの良さを残しつつも今様にパワーアップしているのもスタジアムに合っていた。また、新曲の“ザッツ・ホワイ・ゴッド・メイド・ザ・レディオ”の、バックスクリーンに映し出されるイメージ映像の演出も秀逸だった。まるでガールズかリアル・エステイトのPVかと思うような今様ドリーミーで刹那な若者達が海辺で戯れる姿といい、そしてその若者たちがビーチ・ボーイズの面々とたまたま出会うという展開といい、昨今の西海岸インディ・ロック、ドリーム・ポップの直接の起源は疑いようがなく我らがビーチ・ボーイズなのだということを、まるで彼ら自身が明言するかのような作りになっているのだ。ちなみにMCやらメンバー同士のコミュニケーションやらはマイク・ラヴがほぼ一手に引き受けていて、ブライアン・ウィルソンはたまにヴォーカルをとり、たまに演奏する以外はぼーっとしていた。しかし、たまに歌うブライアン・ウィルソンの歌声の危なっかしい音程の中に潜む剥き出しの無垢みたいなものには、どうしたって胸打たれずにはいられなかった。ブライアンが歌い、マイク・ラヴたちが裏をがっちり固めてサポートした“グッド・ヴァイヴレーション”はこの日のクライマックスだったと言っていい。

アンコール1曲目の“ココモ”ではクリストファー・クロスがゲスト・ヴォーカルとして登場し、そろそろ喉が限界に来ているマイク・ラヴの横で超絶美麗なファルセット・ヴォイスを響かせ、それにはビーチ・ボーイズのファン達も思わず拍手喝さいとなった。そして〆はアメリカのメンバーも参加しての“ファン・ファン・ファン”。終わるや否やふらふらと幕内に引っ込むブライアン・ウィルソン、笑顔のアル・ジャーディンたち、そして「ファンタスティック・オーディエンス!」と叫びいつまでも手を振りファンに笑顔を向け続けるマイク・ラヴ――それは見事な夢の終わりの風景であり、そして夢から醒めた現実の中で「明日もがんばろう」と思わされる老レジェンド達のタフネスを受け取った瞬間だった。(粉川しの)

8月16日 QVCマリンフィールド
1. Do It Again
2. Little Honda
3. Catch a Wave
4. Hawaii
5. Don’t Back Down
6. Surfin’Safari
7. Surfer Girl
8. Don’t Worry Baby
9. Little Deuce Coupe
10. 409
11. Shut Down
12. I Get Around
13. That’s Why God Made the Radio
14. Sail on, Sailor
15. Heroes and Villains
16. Isn’t It Time
17. Why Do Fools Fall in Love
18. When I Grow Up (To Be A Man)
19. Cotton Fields
20. Forever
21. God Only Knows
22. All This Is That
23. Sloop John B
24. Wouldn’t It Be Nice
25. Then I Kiss Her
26. Good Vibrations
27. California Girls
28. Help Me, Rhonda
29. Rock and Roll Music
30. Surfin’ USA
(encore)
31. Kokomo (with Christopher Cross)
32. Barbara Ann (with America)
33. Fun, Fun, Fun (with America)
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