「EIKICHI YAZAWA 40th ANNIVERSARY LIVE『BLUE SKY』」@日産スタジアム

「40年、きましたー! 6万3千・4千人、サイコー!」という矢沢永吉の、もうすぐ63歳になるとはとても思えないエネルギッシュな叫び声に、日産スタジアムを埋め尽くした永ちゃんファンから湧き起こる、雄叫びのような大歓声! 1972年のCAROL結成&デビューから40周年アニバーサリーをファンも含め一丸となって祝いまくる、一夜限りの記念ライブ=『EIKICHI YAZAWA 40th ANNIVERSARY LIVE 「BLUE SKY」』。ただでさえ超弩級の迫力とスケールの矢沢永吉のステージ(18時開演予定)に加え、15時30分からはマキシマム ザ ホルモン/The Birthday/ギターウルフ/怒髪天/ザ・クロマニヨンズによるアクトまで行われるという、聞いただけで感激のあまり泣くか笑うか震えるかしかないというスケールの、まさにこの日限りのメモリアル・ライブ。来る11月~12月には日本武道館5Days(!)を含む一大ホール・ツアー『JAMMIN' ALL NIGHT』が控えているが、このスペシャルな一夜に立ち会うべく集まった6万人以上のオーディエンスの熱気は、ワンマン・ライブとはまた違った気迫に裏打ちされたものだった。

 午前中まで雨に見舞われていた日産スタジアムだが、15時30分、スペシャル・アクトのトップバッター=マキシマム ザ ホルモンのステージがスタートする頃には雨も上がり、終演までの約5時間半は時折雨粒がパラつく程度、心地好い風が吹き抜ける絶好のコンディション。永ちゃんが登場するメイン・ステージの両脇にサブ・ステージが1つずつ設置されており、向かって左側にまずホルモンが、続いて右側にThe Birthdayが……といった具合に交互にバンドが登場、各アクトが20分交替(!)で展開されていくというタイムテーブル。いずれも中堅以上のキャリアを持ち、ロック・シーン最前線の存在感を備えたこの5バンドも、永ちゃんから比べれば「若手」である、というスケール感に目が眩みそうになったが、それだけにこの5バンドとも(アウェイな空間でこそあるものの)強いリスペクトをもってこの場所に臨んでいることがびりびり伝わってきた。

 開演早々“What's up, people?!”を叩きつけては「怖い音出してごめんなさい! こんにちは、トリンドル玲奈です!」(ナヲ)と笑いをとり、「40周年ですよ! 全員やんなかったら40回やりますよ!」と恒例の「恋のおまじない」まで盛り込んでみせたホルモン。「最高だね! この場所に立つ機会を与えてくれたこと、感謝します。ありがとう!」というチバの真っ直ぐなMC以上に“なぜか今日は”から“ROKA”“さよなら最終兵器”“涙がこぼれそう”という直球勝負な選曲で一気に駆け抜けたThe Birthday。「よく来てくれたぜ!」というセイジの絶叫と“ジェット ジェネレーション”などフルテンの爆音でスタジアムの空気を震わせたギターウルフ(ほぼ持ち歌化している“アイ・ラヴ・ユー、OK”はさすがにやらなかった)。「40周年おめでとうございます! 俺も約30年、46歳になりました。矢沢さんに憧れて、カッコいい不良に憧れて……今ではドラムが痛風になりました。体調不良!」という増子兄ぃの名調子と“歩きつづけるかぎり”が唯一無二の熱血節として響いた怒髪天。「永ちゃんサイコー!」「長い1日、最後の最後まで楽しい気分でいてくれー!」というヒロトの掛け声を交えつつ、20分の中に“タリホー”から“雷雨決行”“ナンバーワン野郎!”までアンセム6曲を凝縮してみせたクロマニヨンズ……ロック・フェスのヘッドライナー級のバンドたちが40周年の祝祭への熱気をぐいぐいと高めていくという、実に贅沢な時間だった。

 そして……場内のあちこちから「永ちゃん!」コールが沸き、巨大なスタンドにウェーブが何度も起こる中、18時の開演予定を20分ちょっと過ぎた頃に場内が暗転。頭から黒いマントをかぶった人影がサイリウムを光らせながらアリーナ通路を埋め尽くしたーーと思ったら、ステージ上には多数のダンサーが登場、そしてステージに何本もの火柱が立ち上がる!と息つく間もなく矢継ぎ早の演出が繰り広げられる中、いよいよロック・レジェンド:矢沢永吉がオン・ステージ! 「ようこそ!」と叫びながら、ギター:山本恭司&トシ・ヤナギ/ベース:ED POOLEとともに意気揚々とアリーナ中央に伸びる花道へと歩き出し、8月1日にリリースされたばかりの最新アルバム『Last Song』1曲目の“IT'S UP TO YOU!”で盛大にキック・オフ! 辣腕ミュージシャン揃いのパワフルなロック・アンサンブルが、そして夜空を貫いてどこまでも飛ぶ永ちゃんの絶唱が、満場のオーディエンスをいきなりクラップの嵐へと巻き込んでいく。

 そのまま“鎖を引きちぎれ”(78年/『ゴールドラッシュ』収録)から1stアルバム『I LOVE YOU, OK』(75年)の“恋の列車はリバプール発”へ……と流れ込めば、キャリア40年分のYAZAWAロックンロール超特急はもう止まらない。そんな中に、「僕は広島から来たんですけど、横浜でケツが痛くて痛くて、途中で降りたんですけど。21~22の頃から、チャンスが来るのをこの街で狙ってたんだけど……」とか「横浜に来た頃、食べるところと寝るところを探して、やがて日ノ出町まで来て。山に上がる道を昇っていって。それが野毛山だったんですけど。展望台に上がって、下を見て……それが3月の終わりくらいで。寒いなあ、怖いなあ、俺どうなっちゃうんだろうなあ、って思ったのを覚えてます」とかいった「若き日の矢沢永吉と横浜」の物語を切々と綴るMCが随所に盛り込まれ、彼自身のこの日に懸けた想いがオーディエンスの熱気とより密接にシンクロしていく。

 アコギを奏でながらしっとりと歌い上げた“チャイナタウン”。ツイン・リード・ギター渦巻くハード・ロック・サウンドを、圧巻の熱量とキレと備えたヴォーカリゼーションで乗りこなしていく“ガラスの街”。あの白いマイクスタンドをいとも鮮やかにぶん回し、巨大なステージを袖から袖まで歩き、軽快なステップを踏みながら、名曲の数々を惜しげもなく披露していく。永ちゃんが指揮者のようなアクションで会場中のシンガロングを誘った“YES MY LOVE”。エレピの響きとともに情感あふれる歌声が広がった“時間よ止まれ”。大編成のブラス・セクションとともにゴージャス&スウィンギンな快楽を鳴らしてみせた“Rolling Night”……曲の合間に永ちゃん自身が何度もジャケットを着替えてみせる小粋な演出だけでなく、さっきまでスペシャル・アクトで使用していたステージ左右のスペースがいつしかオーケストラ・ピット的スペースと化していて、何十人もずらり並んだストリングス奏者とともに“ひき潮”の麗しのサウンドを紡いでみせるなど、とにかくステージングの1つ1つが緻密で、しかも規模がでかい。「オーディエンスを楽しませるために必要なものは何でも導入する」的なアグレッシブなYAZAWAの熱意が、長大編成のバンド・メンバーの陣容のみならず演出の至るところから窺えて、観ているだけで嬉しくなる。何より、矢沢永吉自身の歌とパフォーマンスの圧倒的なエネルギーとクオリティ! これまでの永ちゃんのライブでも「よくなかった」場面は1秒たりとも観たことがないが、それでもこの日の、彼自身の情感も重なったアクトが放射するヴァイブは、感激と戦慄を同時に覚えずにはいられないほどのものだった。

 そんな「この日ならでは」の会場のスペシャル感にさらに火がついたのは本編後半のこと。「キャロルも入れて40年! たった2年半だったんですけど……キャロルの曲も」と永ちゃんがアコギを構えて歌い上げたのは“涙のテディー・ボーイ”。そして、「懐かしい……」と言いつつ、なんと革ジャンを構えてベースを構える永ちゃん。そこへ登場したのは、CAROL時代のギタリスト:内海利勝! 75年の解散ライブ以来実に37年ぶりの共演で“ファンキー・モンキー・ベイビー”! さらに、大勢のオールディーズ風ダンサーが踊り回る中、CAROLのデビュー曲“ルイジアンナ”へ。永ちゃんからのこのプレゼントに、YAZAWAタオルやスーツでバッチリ準備をキメたファンが盛り上がらないわけがない。

 “SOMEBODY'S NIGHT”から“Wonderful Life”へ、さらに“PURE GOLD”の爽快な高揚感へ……と流れ込み、花火が夜空を彩る中、本編が終了。熱烈なアンコールの手拍子に応えて再び舞台に現れたバンド・メンバーと永ちゃんが、“サイコーなRock You!”に続いて、あの“止まらないHa~Ha”へ突入、6万人の頭上にタオルが乱れ飛んだ……と思ったら、曲の途中で突如会場中の照明が暗転。「停電か?」とざわめきが広がる中、銃声のような爆発音。そして場内を赤く染めるサイレン。舞台袖から飛び出してきたバイクが高々とジャンプ! どうやらバイク陣はギャングの一味という設定らしく、車に乗ってアリーナ後方へと逃げる永ちゃん。そして、そこからなんと気球に乗ってアリーナ上空へと飛び上がる! 花道へと飛翔しながら“止まらない~”の続きを歌う、神々しいくらいにドラマチックなその姿を讃えるように、オーディエンスがひときわ高くタオルを舞い上げたことは言うまでもない。

 そのタイトルから「まさか引退か?」とファンのみならず世間的にも少なからず驚きが走った『Last Song』というアルバムは、現在62歳の彼自身が「40年歌い続けてきた自分自身のキャリアにもいずれ終わりがくる」という命題と真っ向から向き合ったからこそ生まれた名盤だったし、「だから今この瞬間の喜びを全力で燃やしていく」という新たな決意を生んだ作品でもあった。そんな矢沢永吉というアーティストの、誰も追いつけない「現在地」の充実感を、正味2時間半以上のヴォリュームでもって提示してみせた、最高のロック・アクトであり、最高のエンターテインメントだった。アンコール最後“So Long”の、《good bye so long my sweet heart》という歌声が、そして「帰りにうまいビール飲んでね!」という永ちゃんのコールが、痺れるような余韻とともに胸に熱く残った。(高橋智樹)