ASIAN KUNG-FU GENERATION @ 東京国際フォーラム ホールA

『BEST HIT AKG』リリース後のツアーは東京・大阪アリーナ4公演という形だったので、オリジナル・アルバムを引っ提げての全国ツアーは前作『マジックディスク』後の超ロング・ツアー『VIBRATION OF THE MUSIC』(2010年9月~2011年3月)以来となる。そう、昨年3月11日の震災によって、東京国際フォーラム2Daysを含む終盤5公演が中止を余儀なくされたあのツアーである。そして今回、最新アルバム『ランドマーク』とともに全国をサーキットするホール・ツアー『ASIAN KUNG-FU GENERATION Tour 2012「ランドマーク」』で、アジカンはあの時実現できなかった国際フォーラム2公演を再びツアー・スケジュールに組み込んできた——という時点でオーディエンスの熱気は開演前から沸騰寸前だったが、何よりライブそのものが素晴らしかった。これこそ今、僕らに必要なロックンロールだ、と心から思える、どこまでも誠実で、情熱的で、そして自由なアジカンの音が、東京国際フォーラムの巨大な空間にダイナミックに渦巻いた2時間半。それはまさに、より困難な時代へと進みつつある僕らのなけなしの希望を照射する輝きそのものだった。

Ustream/YouTube Liveなど動画サイト&全国映画館21館で生中継された前日=国際フォーラム初日に続く、同会場公演の2日目。まだツアー中なのでセットリストの掲載は割愛するが、“All right part2”“N2”など『ランドマーク』の12曲を2時間半のステージの要所要所に配しつつ、『マジックディスク』の“新世紀のラブソング”“ラストダンスは悲しみを乗せて”から『君繋ファイブエム』の“君という花”“ノーネーム”まで幅広い楽曲群も擁しつつ、それらを丁寧に織り重ねて「今、ここ」へのメッセージとして届けていくような内容だった。

加えて、上田禎(G・Key)、三原重夫(Perc)、岩崎愛(Cho/この日は彼女の曲“東京LIFE”も披露していた)をサポートに迎えた7人編成の伸びやかなサウンドで鳴り響く『ランドマーク』の楽曲がすごい。躍動感あふれる『ランドマーク』のロックンロールに何枚も翼が増えたような、1音1音の輝度がグンと上がったような音の手触りに、驚きと感激が一気に押し寄せる。“1.2.3.4.5.6.Baby”での喜多建介のギターと上田のシンセのツイン・リード的な絡みも、“AとZ”の伊地知潔&三原のビート・バトル的な場面も、“大洋航路”での後藤正文&山田貴洋&岩崎による極彩色のコーラスワークも、ソリッド&タイトなアジカンの楽曲にあふれんばかりの豊潤さと自由度を与えている。それによって、ゴッチが「シンガー=後藤正文」に徹して、どこまでも開放的に歌とエモーションを放射していたのが印象的だった。そして、シリアスなアンサンブルとメロディを、会場丸ごと揺さぶるほどのエネルギーとともに撃ち放った“それでは、また明日”、今のアジカンのビート・ミュージックとしての強靭さをこの上なく晴れやかに鳴らしてみせた“踵で愛を打ち鳴らせ”は、終始クライマックスと言うべきこの日のアクトの中でも間違いなく大きなピーク・ポイントを描き出していた。

「このツアー中ずーっと言ってますけど、僕らの前のツアーが途中で中止になってしまって。この国際フォーラムでも2公演やる予定だったんですけど、チケットも発売してたのに中止になって。この設備自体が傷んでしまったのでライブができないっていうことだったんだけど……」と昨年3月当時を振り返るゴッチ。「震災が起きた後は、ミュージシャンがどこで音楽をやっていいかわかんないっていうか。『計画停電なんだから電気使うんじゃねえよ』『そんなことやったってどこにも届きゃしねえよ』って言われて。ムカつきましたけど、その反面、自分も震災と原発の事故のショックで、ひとりの人間としてオロオロして『どうしようどうしよう』って思って。それでも、自分は表現者だと思ってるから、このオロオロしてる自分すら書き留めておかないといけないって」。自らの葛藤を静かに述懐するゴッチの言葉に、演奏中の熱狂ぶりとは一転、5000人のオーディエンスが息を呑んで聞き入っている。さらにゴッチが語る。震災後の混乱の中、「だったら電気使わなきゃいいんだろ」とアコギの演奏を配信したりている音楽仲間の姿に勇気をもらったこと。そういう仲間と新たなプロジェクト=HINATABOCCOを始めて、3月の終わりに新宿ロフトで演奏できた時、やっと息を吸ったような気分になれたこと。「その頃、めちゃくちゃアジカン仲悪くて、解散すんじゃねえかっていうぐらいで。だけど、みんなでスタジオ入ってセッションしたら、なんかよくわかんないけど仲直りみたいな感じになって。で、1年半かけてアルバム作って、やっとツアーに出れて、これだけの人が集まってくれて……本当に本当に嬉しいです」。そんなゴッチの言葉に、広大な会場から惜しみない拍手が降り注ぐ。

「三陸のズタズタになった鉄道を見たり、山や谷を下っていろんな町に行ったりした時に感じたことを歌にした」(ゴッチ)という“レールロード”の《音をたてて進め/未来へ続くレールロード》というフレーズはどこまでも力強い祈りとして国際フォーラムの隅々まで広がっていったし、メランコリックな静寂から壮大な音風景へと駆け抜ける“バイシクルレース”のサウンドはそのまま僕らの鼓動に寄り添うように優しく、強く響いた。「本当に本当にタフな時代になったけど、それでも下を向かずに、何度も何度も上を向いて……そして、どこかのライブハウスで会いましょう!」と呼びかけていたゴッチが、「僕のリクエストで」と歌ったのは“夜を越えて”だった。《本当にこれでいいのか/本当にここでジ・エンドか/今 この場所がスタートだ》……胸をえぐるような問いかけを、この上なくアグレッシブなビート&快活な歌メロとともに叩き込んでくる。客席がさらに熱を帯びながらその音に応えていく。最高のコミュニケーションがそこにはあった。

この日は2月20日リリース予定(12/13から着うたダウンロード開始)の新曲“今を生きて”も披露していたアジカン。常に時代と向き合い、だからこそ今の日本の状況に悩み苦しみ、『THE FUTURE TIMES』創刊など独自にアクションを起こしてきたゴッチが、その切実な想いを“今を生きて”の弾むようなリズムと目映いメロディに託して歌い上げる姿は感動的なくらいにエモーショナルだったし、来年メジャー・デビュー10周年を迎えるアジカンの「その先」を自ら照らし出すようなエネルギーに満ちていた。ツアーはいよいよ神奈川県民ホール公演×2を残すのみ。そして『COUNTDOWN JAPAN 12/13』には初日=12/28・「EARTH STAGE」ヘッドライナーとして登場!(高橋智樹)
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