圧巻のスタジオコーストだった。この日のMCでアレックス(Vo&G)も言っていたけれど、新木場スタジオコーストはトゥー・ドア・シネマ・クラブが3年前の初来日で初めて立ったステージだ。ちなみに3年前はブリティッシュ・アンセムズの数あるアクトの一組としての来日で、お客さんの入りもそこそこ&30分足らずのパフォーマンスだったと記憶している。あれから3年、この日のコーストは完全ソールドアウトで1階後方通路もぎっしり、2階シートゾーンの後ろも立ち身でぎっちぎちに詰まった大入り満員状態。来日の度に会場は巨大化し、観客数も劇的に増やしてきた彼らだが、今回のツアーはセカンド『ビーコン』も大ヒットを記録し、見事UKのトップ・バンドに上り詰めたTDCCの今に相応しいシチュエーション、そして内容になった。
前座を務めたのはシチズンズ!。レーベルはKITSUNE所属でTDCCの後輩にあたるロンドン出身の期待のニューカマーだ。細身のパンツに細身のシャツに尖った靴、綺麗に7:3に撫でつけられたヘアスタイルといった外見から察しがつくようにもろニューウェイヴ&エレクトロをやるバンドで、プロデューサーがフランツ・フェルディナンドのアレックス・カプラノスというのも納得。ライヴ・パフォーマンス自体はまだまだこれからという印象だったけれど、キャッチーな曲は書けるし、その曲のアレンジにベタを回避して時々おっ!と耳引きつけられるような発想の面白さがある。TDCCのお客さんとの相性もいいタイプのサウンド&キャラなバンドゆえ、オープニング・アクトにしては珍しいくらいフロアもぎっしり詰まっていてリアクションも上々、本人達も相当嬉しかったらしく、最後にはヴォーカル君がフロア・ダイブをかましていた。
そんなシチズンズ!のステージを終えておよそ30分、会場がいよいよ立錐の余地もない状態になったところで遂にTDCCが登場し、『ビーコン』収録の“Sleep Alone”でショウがスタートする。2DCCはロック・バンドのわかりやすい煽りやポーズとは無縁のバンドだけれども、会場は瞬時にわかりやすく沸騰する。無数の手拍子が後方まで広がり祝祭ムードが数千人に共有されたところで“Undercover Martyn”→“Do You Want It All”→“This Is The Life”という『ツーリスト・ヒストリー』収録の必殺アンセムが3曲立て続けにドロップされるという容赦ないアゲのセットリストだ。“Undercover〜”は促されるまでもなくAメロが大合唱になり、“Do You Want〜”ではエレガントな高音でループするリフとこれまた優雅なファルセット・コーラスに併せてサークルモッシュが始まるという不思議な展開に突入。こんなアンバランスな光景は2DCCのライヴでしかおめにかかれるものじゃない。
4つ打ちのドラムスと小回りに高速回転するポスト・パンク・ライクなリフの融合がモダンなダンス・ロックとしての2DCCを象徴し、透明ファルセットなアレックスのヴォーカルとジョニー・マー・ライクな泣きのアルペジオの絡み合いが伝統的なメロディアスUKロックとしての2DCCを象徴する——デビュー・アルバム『ツーリスト・ヒストリー』のナンバー群とは、つまりそういうものだった。この日のセットリストもそんな『ツーリスト・ヒストリー』のナンバーが半数以上を占めていたので、UKのモダンと伝統、ダンス・ロックとインディ・ロックを折衷していくという2DCCの音楽性の基本は今夜も踏襲されていたと言っていい。ただし、そこにたとえば強烈ファンクな“Wake Up”や、ギターがサックスのような音色を奏で、アレックスのフリーキーなピアノと相まって前衛ジャズバンドのような趣をかもし出していた“Sun”といった『ビーコン』からの新曲が差し込まれることで、これまでのどこかまとまりが良すぎた優等生風情が崩れ、セットに起伏が生まれていたと思う。“Wake Up”のファンクネスの勢いのまま突入した“You’re Not Stubborn”が未だかつてない男臭くハード・エッジなアレンジになっていたのも面白かった。
中盤の“I Can Talk”は2DCCのモダンと伝統が最高地点でミクスチャーされたナンバーで、場内は大合唱にモッシュにダイヴにとえらい騒ぎになるが、ステージ上の彼らは相変わらず飄々と歌い、飄々と演奏している。2DCCの面白さは彼らの音楽やパフォーマンスに対する熱狂がステージ上の彼ら自身に集約されることなく、フロアの私達の頭上に漂う「共有財産」のように存在していることだ。そこらへんがロック・バンドのヒロイズムとは異質の、むしろダンス・アクトに近い2DCCのキャラクターだと思う。その一方で、このバンドはダンス・アクトのように楽曲を素材と捉えてリズムをループさせて引き延ばしてみたり、アレンジ加えてピークタイムを演出したりといったことは一切しない。あれだけ自由度が高く踊れるナンバー揃いにもかかわらず、きっちり3分間のポップ・ソング・フォーマットを順守してすぱっと演奏を切り上げる、だらだらパーティしない、その割り切りはいっそ気持ちいいぐらいだ。
そんな2DCCだけに、あっという間にライヴも終わる。アンコールは“Come Back Home”、そして“What You Know”の大合唱と共に最高のフィナーレとなる。そう、アンコールまで含めて18曲で1時間弱なのだから、まさに3分間ポップ・ソング・ライヴだったのだ。それでもこの日のライヴを「物足りない」と感じた人はほとんどいなかったはずだ。このバンドの簡潔さとは正しいことしかしない勇気でもあって、ロックかダンスかより何よりもポップ・バンドとしての2DCCのタレントが証明された見事な1時間だったと思う。(粉川しの)
12月15日 新木場スタジオコースト
SLEEP ALONE
UNDERCOVER MARTYN
DO YOU WANT IT ALL?
THIS IS THE LIFE
WAKE UP
YOU’RE NOT STUBBORN
SUN
PYLAMID
I CAN TALK
COSTUME PARTY
THE WORLD IS WATCHING
NEXT YEAR
SOMETHING GOOD CAN WALK
HANDSHAKE
EAT THAT UP
(encore)
SOME DAY
COME BACK HOME
WHAT YOU KNOW