ブラックマーケット @ 原宿アストロホール

米アリゾナ出身、ユニークな新人バンドの初来日公演である。このブラックマーケットは大雑把に言えばUSエモ、パンクの路線上に位置する新人であり、本国ではかのグリーン・デイのマネジメントが発掘したバンドとして話題の彼らだが、その音の成り立ちはエモ!パンク!とカテゴライズの太鼓判を押すにはあまりにも不完全である。もちろん、いい意味での不完全さ、未完なのだけれども。

現段階では日本独自編集EP『ブラックマーケット』1枚をリリースしたきりで、デビュー・アルバムも未だ発表されておらず、今晩披露された楽曲も半数以上がオーディエンスにとって初聴の楽曲だった。にも拘らず2周目のコーラスでは殆どそのメロディ・ラインが頭に染み付いているほど、彼らの楽曲はキャッチーだ。そんな楽曲の強度は今後ブラックマーケットが熾烈な競争原理に支配されているUSエモ・シーンでサバイブする上で大きな武器になるだろう。

しかしその一方でブラックマーケットには不可測な音の揺らぎというか、バックドリフトのように、逆ギレのように爆発して、分かりやすいストーリーをぶち壊しにするような危険性も孕んでいる。そしてそんな彼らの危うさは、エモやパンクという「村」に囚われない可能性の契機にもなりうるということ。そう、磨けば光る原石のポテンシャルと、繊細なガラス細工のようなモロさ、それを両方とも内包しているからこそ醸し出される不完全さ、未完なのだ。目の話せない新人バンドの登場である。(粉川しの)