2008年に一度瞬間的に再結成を果たしていたものの、ついに昨年、2000年の解散以来12年ぶりにパーマネントな活動を再開したベン・フォールズ・ファイヴ。1999年の『ラインホルト・メスナーの肖像』から実に13年ぶりにリリースされた昨年9月のニュー・アルバム『サウンド・オブ・ザ・ライフ・オブ・マインド』を引っ提げての来日ということで、1曲目の“マイケル・プレイターの5年後”をはじめ“ホールド・ザット・ソート”“イレイス・ミー”“スカイ・ハイ”など新作曲を軸としつつも、序盤から“ジャクソン・カナリー”で歓喜の祝砲一斉掃射のようなパンキッシュなピアノ・サウンドを聴かせて客席一丸のクラップを巻き起こし、“セルフレス、コールド・アンド・コンポーズド”のしなやかなジャズ・アンサンブルで渋公丸ごと酔わせ……といった具合に90年代のアルバム3作の楽曲をしっかりと盛り込み、さらにベンのソロ曲“ランデッド”まで披露、まさにベンの極彩色ソングライティング全方位開放的な内容になっている。
時に金属弦のカタマリとしての凄味に満ちた轟音を、時に心の琴線をまさぐるやわらかな音色を、ピアノの88鍵盤を通して広大な会場の隅々にまで響かせていくベンの圧倒的なプレイアビリティはそれだけでも最高にスリリングなのだが、それがタイトそのもののダレンのドラミング、ディストーション・サウンドからウッドベース/チェロまで自在にこなすロバートのベース・プレイと一体になって至上のグルーヴを生み出していく図は震えるくらいにエキサイティング。何より、ロバート/ダレンと3人でステージに立っているベンの、ソロでバンド・メンバーを統率している時とは明らかに異なるリラックス感がいい。曲に入るタイミングをわざとじらし合ったり、「Dマイナー」とか「Cマイナー」とかコードだけ告げて即興演奏(「ニホンガスキダ~」とか「ヒロシマ、やっちまった~」とかを繰り広げたりする場面も、いちいち「バンド」としての連帯感と遊び心に満ちていた。
ピアノ・トリオという極めてシンプルかつベーシックなスタイルながら、2000年の解散から10年以上経ってもベン・フォールズ・ファイヴの記憶をかき消すバンドは現れなかったし、ピアノだけでなく全身が楽器として鳴っているようなベンのプレイ・スタイルとソングライティングを凌駕するアーティストも現れなかった。そんな彼のホームグラウンドたるBF5という場所が今、僕らの目の前にある。その幸せを心行くまで堪能することができた、最高の2時間だった。(高橋智樹)