中畑大樹 主催「サポート以上、恋人未満」(peridots/plenty/ハルカトミユキ) @ 下北沢GARDEN

中畑大樹 主催「サポート以上、恋人未満」(peridots/plenty/ハルカトミユキ) @ 下北沢GARDEN - All pics by ERI SHIBATAAll pics by ERI SHIBATA
「えー……本日、そこでずっとドラムを叩きます」とステージ後方を指して照れくさそうに挨拶をするのは、この日のホストでもあるドラマー=中畑大樹。かつてsyrup16gでドラムを叩き、現在はVOLA & THE ORIENTAL MACHINE/YakYakYakのメンバーとしてだけでなく数々のプロジェクトのサポート・ドラマーとして活躍する彼だが、「私、中畑大樹がサポートでたたかせてもらっているバンドやアーティストに集まってもらい、みなさんへの感謝の意を込め、たたきまくりの一夜を企画しました」(公式サイトより)ということで、彼がサポートを務めている3組=peridots/plenty/ハルカトミユキの3アクトが下北沢GARDENに集結! 開演前にステージに立った中畑、そのパワフルなドラミングとは対照的に「最初に5分話すことになってるんですけど……」ともじもじと話す語り口が、満場のフロアにあふれる期待感をあったかい笑いでかき混ぜていく。ちなみに、「始める前に2つだけ、心構えとして訊いておきたいんですけど」とオーディエンスに挙手を募ったところ、「ぶっちゃけ、中畑大樹を今日初めて知った人」がほんの2~3人。もうひとつ、約半数の観客が挙手した質問=「24歳以下の人」というのは、中畑がドラムを始めたのが24年前だからだそうで、「表のテーマは『感謝祭』ですけど、裏のテーマは、僕のドラム人生と、今手を挙げてくれた君たちとの勝負です!」という彼の宣誓が熱い拍手を誘っていた。

中畑大樹 主催「サポート以上、恋人未満」(peridots/plenty/ハルカトミユキ) @ 下北沢GARDEN
中畑大樹 主催「サポート以上、恋人未満」(peridots/plenty/ハルカトミユキ) @ 下北沢GARDEN
トップバッターは新鋭:ハルカトミユキ。ハルカ(Vo・G)&ミユキ(Key・Cho)がフォークとグランジの接点から咲き乱れさせる、触れたら壊れそうな感情そのもののメロディと楽曲に、激しいうねりを与えていく中畑のドラム。サポート・ギター&ベースを含め5人編成のステージで、彼のリズムは“ドライアイス”のメランコリックなアンサンブルをさらにドラマチックに響かせ、“ニュートンの林檎”の《誰もが重力に負ける ただの林檎》というヘヴィなフレーズそのままに赤黒く渦巻くサウンドのエッジ感を際立たせていく。中畑自身、「女性アーティストとの仕事はほぼ初めてぐらい」と話していたが、「以前、『サポート以上、恋人くらいの感じで頑張りましょう』みたいなメールをお送りしたら、『俺はいつもそのつもりで叩いてる!』って熱いメールが返ってきました(笑)」(ハルカ)、「場を盛り上げてくれるお兄ちゃんみたいな存在で……大好きです」(ミユキ)という言葉からも、昨年11月にデビューを飾ったばかりの2人とも強い信頼関係を築いていることが窺える。peridotsことタカハシコウキをゲストに迎えて演奏した“未成年”、そしてラスト“Vanilla”の純白の轟音が鮮烈に胸に響いた。

中畑大樹 主催「サポート以上、恋人未満」(peridots/plenty/ハルカトミユキ) @ 下北沢GARDEN
中畑大樹 主催「サポート以上、恋人未満」(peridots/plenty/ハルカトミユキ) @ 下北沢GARDEN
続いてはperidots。タカハシのアコギ&歌と中畑のドラムのみ、というシンプル極まりないセットとは思えないほど、色鮮やかに広がるタカハシの歌が、《つがいの鳥などいない/未開の土地などない》(“Tokyo to Tokyo”)、《君のいない世界にだって/何らかの幸せを見出す》(“労働”)と今この時代の無常感を艶やかに照射していく。そして、タイトなリズムワークでその歌を支える中畑。その装いこそ3アクトともニュー・オーダーのTシャツ姿で通していた彼だが、1アクトごとにドラムのセッティングを変えていて、peridotsの時は1タムの極めてシンプルなセッティングで臨んでいた。「今、“労働”を歌いながら、この9年ほどのことを思っていて……」とタカハシ。「9年前、僕が音楽業界に入ってきて、右も左もわからない不安な状態の時に、大樹ちゃんは『コウキ、コウキ』ってぐいぐい――僕のほうが1個年上なんですけど、呼び捨てでぐいぐいきて(笑)、どれほど心強かったか。感謝しています」という言葉に、あたたかい拍手が広がる。ラストの“Teenagers”では「最後1曲、低音を添えて……」というタカハシのMCとともにplentyのベース=新田紀彰が登場、そのメロディにひときわ力強い推進力を与えていた。

中畑大樹 主催「サポート以上、恋人未満」(peridots/plenty/ハルカトミユキ) @ 下北沢GARDEN
中畑大樹 主催「サポート以上、恋人未満」(peridots/plenty/ハルカトミユキ) @ 下北沢GARDEN
ラストを飾るのはplenty。ドラム・吉岡紘希の脱退後、サポートを務めているplentyについて「ライヴを観に行ったら、会場がパンパンなのに、みんなシーンと観てて。すごいなあって……そんなバンドにいたような気もしますけど(笑)」と自らのsyrup16g時代を絡めて話していた中畑。1曲目“ACTOR”のハード・エッジなサウンドでも、“人との距離のはかりかた”の雄大なアンサンブルでも、そのドラム・プレイが「サポート」を超えて、今やplentyサウンドの重要な骨組みとして機能していることがわかる。この日は中畑に加えてギタリスト=ヒラマミキオを迎えた4人編成だったのだが、Wギターのアレンジによって江沼郁弥のメロディと楽曲がより確かな輝度をもって心と身体に広がってくる。ミステリアス&アグレッシブな魔力に満ちた新曲“劣勢”。イントロで立ち上がった中畑の気合い一閃のキメとともに流れ込んだ“人間そっくり”の麗しさ。ハルカトミユキのミユキを招いて「次で最後の曲です。さようなら」と披露したのは“傾いた空”。江沼&ヒラマのギターが織り成す音のタペストリーを、ミユキのシンセ・サウンドがさらに目映く彩り、新田&中畑の繰り出すリズムが悠久のスケール感をもって鳴り響いていく。あまりに美しい幕切れだった。

中畑大樹 主催「サポート以上、恋人未満」(peridots/plenty/ハルカトミユキ) @ 下北沢GARDEN
全員退場した後、1人舞台に残って「そこ(ドラムセット)に座ってるほうが落ち着くんですけど……」と言いつつ再びもじもじ挨拶する中畑。「ドラムって楽しそうでしょ? 叩くと音が出る楽器だから(笑)。スタジオ行けば必ずあるし」と、ドラムへの素朴で直球な想いを語っていたのが印象的だった。プレイの見た目のド派手さや超絶テクニカルさではなく、質実剛健でソリッドな演奏が、そしてリズムと楽曲に対するとめどない情熱が、ともに演奏するアーティストたちに何よりのエネルギーとヴァイブを与えている――ということが、この日の中畑の佇まいからリアルに浮かび上がってきた。最後、アンコールを求める声に応えて、1人ドラムセットに戻って熱血ドラム・ソロを展開して去っていった潔さも、また彼らしくていい。これからも彼のリズムをたくさん聴きたい、たくさんのアーティストと楽曲にその熱量を吹き込んでいってほしい、と素直に思った一夜だった。(高橋智樹)
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