androp @ 東京国際フォーラム ホールA

androp @ 東京国際フォーラム ホールA - pic by 橋本塁pic by 橋本塁
『one-man live tour “one and zero”』

想像を遥かに超えるスケールのスペクタクルとコミュニケーションがあった。アルバム『one and zero』リリースからは3ヶ月という時間を経て、名古屋、大阪、東京と3公演が繰り広げられたandrop初のホール・ツアーのファイナル。しかしそれは、単純に1公演あたりの動員数の拡大を意味するものではない。ホール規模の会場でこそ分かち合うことができるandropの表現があり、また、ホール規模の会場であっても決して揺らぐことのない、andropの表現の根幹が浮き彫りになるステージでもあったのだ。

開演前には二進法の、0と1が忙しなく切り替わる6ケタの数字が映し出されていて、オープニングではステージの奥と手前、2重のプロジェクターを用いた、緻密にして刺激的な幾何学模様のCGアニメーションが視界一杯に広がってゆく。手前のヴェール状のプロジェクターの向こうにメンバー4人の姿が透かし見えると客席からは大喝采が上がるのだが、メンバーの表情を包み隠すヴェールは、ナイーヴで、だからこそ何よりも先に音楽の力で人々と繋がろうとする、かつてのandropの匿名性の高い活動を思い出させるものでもあった。そして、前田恭介(Ba.)の叩き付けるような迫力のベース・プレイに続き、“Boohoo”で堰を切ったように迸る内澤崇仁(Vo./G.)の歌い出しと共にヴェールが一気に引き剥がされる。《ミタイミタイミタイ 君の意志を》。andropのヴェールを剥ぎ取るのは、彼ら自身と、そして広大な客席を埋め尽くしたオーディエンスの双方による意志の力だ。

一曲ごとに趣向を凝らされた映像と、決して光量に訴えるわけではないがドラマティックに楽曲を演出してみせるライティングの視覚効果は、会場のスケール・アップと比例して圧倒的なものになっている。そして何よりも、内澤の少年性を帯びた歌心を支えるバンド・サウンドは、“Bell”での佐藤拓也(G./Key.)の美麗で広がりのあるギター・プレイにしても、歌に寄り添いながらの高度な32ビートを刻む伊藤彬彦(Dr.)にしても、序盤から初の大型ホール・ツアーをものともしないような頼もしさに満ちている。というかむしろ、彼らandropはこれぐらいの規模のライヴを予め目標として視野に入れて活動して来たのだろうな、と思える嵌り具合だ。素晴らしい視覚効果に意識を奪われそうになりつつも、出来うる限りの手段を用いて演奏に加わってゆくような、オーディエンスの積極的な参加姿勢も美しい。「すごいっすね。後ろの方までびっちり。初めて観る人もいると思いますけど、古い曲も新しい曲も、たくさんやりたいと思います。ファイナルってことで、めちゃくちゃ気合入ってます!」と、改めて告げる内澤であった。

androp @ 東京国際フォーラム ホールA - pic by 太田好治pic by 太田好治
イマジネーションを刺激するストーリーテリングがホール内の隅々までじっくりと広がってゆくような“Traveler”や“Nam(a)e”といった過去作のナンバーもプレイされ、その“Nam(a)e”で空間系エフェクトの効いた鮮やかなギターを披露していた佐藤は、「俺しか覚えていないかも知れない話だけど」と前置きして、まだライヴの予定も決まっておらず下北沢のスタジオに籠っていた頃、内澤が「ホール・ツアーの出来るようなバンドになりたい」と語っていたと振り返り、実現した喜びを伝える。高度な演奏技術をひたすらぶつけるだけではなくて、アコースティック・ギターを取り入れて美しく磨き込まれたメロディや心地よいバンド・グルーヴで魅せる“Clover”、“Radio”、“HoshiDenwa”、“Rainbows”といったステージ中盤でandropの豊穣な表現世界を描き出しながら、内澤は「周りに合わせなくて良いんで、自由に、自分のペースで楽しんでください」と言葉を投げ掛けた。“Boohoo”や『one and zero』の世界観にも繋がるような言葉。つまりandropは、キャリア最大級の会場でパフォーマンスを繰り広げながら、すべてのオーディエンスと1対1の対話を行おうとしているのだ。

決して浮き足立つことなく丁寧にステージを進め、ナイーヴな歌と高度なバンド・アンサンブルにレーザー光線が走る。“Colorful”から“Party”、“Message”へと連なる華やかなクライマックスは、ステージ面積を一杯に使って佐藤と前田が両翼に広がり、飛び跳ねながらオーディエンスを煽り立てていた。辿り着いた本編の最終ナンバーは万感の“End roll”だが、ピアノを前にした内澤がここで残した言葉は極めて真摯で、赤裸々で、飾り気がない故に美しいものだった。100パーセント正確な聴き取りではないけれども、彼はこんなふうに語っていた。

「“End roll”なんですけど、すごいネガティヴだった時期に出来た曲で。もう音楽やめちゃおうかなとか、死んじゃおうかなと思っていた時期に、一生懸命にステージを作ってくれるスタッフとか、ライヴを観に来てくれるお客さんに支えられて、そんな中で出来た曲です。だから今日、この瞬間が、僕の生きる意味なんです。この日のライヴを選んで来てくれた皆さんにとっても、生きる意味になれれば嬉しいです……未来のことは分からないし、僕は今、嘘をつくかも知れないんですけど……僕たちの音楽を選んでくれる人がいる限り、音楽を鳴らしてゆくと誓おうと思います。それぐらい凄いことなんです。もし誰か、今を生きるのがつらいなって人がいたら、そんなに悪いことばかりじゃないってことを、知っておいてください。」

androp @ 東京国際フォーラム ホールA - pic by 橋本塁pic by 橋本塁
演奏を終え、エンド・ロール=スタッフロールが映し出された本編が余りに美しく完結していたものだから、アンコールの場面で佐藤がおもむろにツアーのグッズ紹介をしたり、J-WAVE『THE KINGS PLACE』で使うという写真の撮影を始めたりする姿には思わず笑ってしまったけれども、“Image Word”と“MirrorDance”でパーフェクトな歓喜を形作ったステージである。《嘘つきが抱きしめる嘘/たった一つのステージ立った》。内澤のあの言葉と、“End roll”の後に鳴り響く“MirrorDance”は、アンセムとしてまたひとつ確かな成長を遂げ、新たな命が吹き込まれている気がした。フォトグラファー橋本塁氏が、オーディエンスをバックにしたandropの記念撮影を行い、4人が肩を組んで礼をする大団円。「もっとたくさんの人に届けたいというイメージが出来ている」と語っていた佐藤は、2013年の秋〜冬に行われる『one-man live tour “angstrom 0.6 pm”』についても告知していたので、andropのオフィシャルHPなどでぜひチェックを。(小池宏和)

01. 0
02. Rising Star
03. Boohoo
04. AM0:40
05. Bell
06. Traveler
07. Bright Siren
08. Nam(a)e
09. Clover
10. Radio
11. HoshiDenwa
12. Rainbows
13. Tonbi
14. Plug In Head
15. Human Factor
16. Colorful
17. Party
18. Message
19. World.Words.Lights.
20. End roll

EN-1. Image Word
EN-2. MirrorDance
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