タイラー・ザ・クリエイター with アール・スウェットシャツ @ LIQUIDROOM ebisu

All pics by (C)creatveiman productions
フランク・オーシャンという不世出のスーパースターの存在もあって、インターネット時代の若きお騒がせグループから、今日の最重要ヒップホップ/R&Bコレクティヴのひとつとして認知されるに至ったオッド・フューチャー(Odd Future Wolf Gang Kill Them All)。その首謀者であるタイラー・ザ・クリエイターが、この4月にリリースされたばかりの自身の新作『ウルフ』を携え早々に来日公演を敢行してくれるというのは、何とも喜ばしい驚きだ(5/25まで米国内をツアーしていた)。開演直前のリキッドルームでは、自然発生的に盛大なタイラー・コールが沸き上がり、その熱気を目の当たりにしたタイラーもまた「嘘だろ……みんな、俺を騙そうとしてるんだ。最っ高だな!」と驚きを隠せない。可能な方はぜひ、6/1に横浜BAY HALLで行われる公演へと足を運んで欲しい。煽れば煽った分だけ、彼らは凄まじい熱量のパフォーマンスで応えてくれるはずだ。

「彼ら」というのは無論オッド・フューチャーの面々のことだが、今回の公演に名を連ねているタイラーとアール・スウェットシャツは、以前から2人でEARLWOLFというユニットを結成しており、公演の告知ポスターなどではその名義が用いられている。ステージ上でチェッカー・フラッグ柄のパーカーを脱ぎ捨てたタイラーも、同デザインのTシャツを着ていた。この2人に加え、マイクも握るDJとして活躍していたタコ・ベネット、レギュラーのサポートMCとしてユニゾンのライムを被せまくっていたジャスパー・ドルフィン他、どこまでがツアー・スタッフで誰がオッド・フューチャー・クルーなんだかという賑々しいステージが繰り広げられる。とりわけ、ミュージック・ヴィデオの類いでも確認することが出来る落ち着いた物腰と、優れた状況判断によって安定したラップの実力を発揮してゆくアールは見事であった。まだ顔にはあどけなさを残したティーンエイジャーなのに、である。

ベース・ミュージックのバランスと、鋭く研ぎすまされたエレクトロニック・サウンドによってライヴ用に仕立て直されたトラックの響きがまたすこぶる良くて、新作アルバムのオープニング・チューン“Wolf”の甘美なハーモニーに合わせて満場のスウェイを行ったところに突如、凶悪なベースがミゾオチをえぐってくるといった具合である。とことんナンセンスでファック・エヴリシンな崖っぷちの立ち位置から、秀逸なアウトサイダー・アートとしてのヒップホップを奪還してみせた鬼才・タイラーだからこそ、この辺りも抜かりない。序盤からオーディエンスに負けじとフルスロットルのラップを放っていたタイラーだが、次第にその野太い声の魅力を整えてゆくと「まったく、おまえらビョーキだよ」とニヤニヤしてしまっている。

矢継ぎ早に繰り出される楽曲は、新作曲をはじめタイラーの過去2作のアルバム、それにオッド・フューチャーのミックステープ『Radical』などからも幅広くセレクトされている。不穏なジャジー・ビートとダブステップが手を取り合った“Cowboy”、「GOLF!!」「WANG!!」のコール&レスポンスが渦を巻く“Domo 23”、マシンガンの銃声と張り合うように怒濤のマイク・リレーが繰り出される“Trashwang”。一貫してアップリフティングなステージであるがゆえに、ソウルフルなメロディがタイラーの内面から放たれる毒性とエモーションを強めていた新作の手応えとは異なっていたが、それでも“IFHY”や“48”といったナンバーでは渾身のラップ・パフォーマンスに触れることが出来た。イントロで大歓声を誘う“Yonkers”は、キメどころの場面なのに前線のオーディエンスと何か言葉を交わした末に、笑いが止まらなくなってラップの最中にも吹き出してしまう。まあ、それも引っ括めて痛快極まりなく、最高なのだが。

終盤には、こちらも近々、ソロのニュー・アルバムをリリースする予定のアールがコミカルなトラックの新曲を披露し、ジャスパーのフリースタイルも繰り出されるなど、日本のオーディエンスと共にオッド・フューチャーのパーティを構築してゆく。最後にはタイラーが感謝の言葉を投げ掛けながら、「この曲は、日本の音楽から大きな影響を受けているんだよ」と紹介された華々しいナンバー“Tamale”で狂騒のうちにフィニッシュである。タイラーのツイッター・アカウント(https://twitter.com/fucktyler)においても、同様のことがツイートされていた。1時間強というヴォリュームでありながら、その濃密で手加減なしのパフォーマンスはやはり素晴らしいものであった。(小池宏和)