ハナレグミ・So many tearsのどこまでいくの180分 @ SHIBUYA-AX

「タガが外れたような」という表現は、こんなライヴにこそ相応しい。6月から全国で9公演が行われて来た、ハナレグミ+So many tears(茂木欣一・加藤隆志・柏原譲)、更にはサポートとして沖祐市も加わるといった豪華編成ツアーのファイナルである。この日はちょうどスカパラの新作『Diamond In Your Heart』はもちろん、So many tearsのセカンド・アルバム『LOVE&WANDER』、及び沖祐市ソロ・アルバム『Gospel』のリリース日というセレブレイト感にも後押しされたステージであった。欣ちゃんは「『どこまでいくの180分』というタイトルでチケットを買ってくれて、ありがとうございます。ワクワクするとともに、一抹の不安もあったと思うんだよね(笑)」と語っていたけれど、まさに、百戦錬磨の音楽人たちが、そのクリエイティヴィティと野心を全解放させるといった印象のパフォーマンスだった。

なにしろ、序盤からいきなりのカオスである。派手な色使いの衣装に身を包んだ茂木(Dr./Vo.)、加藤(G.)、柏原(Dr.)、沖(Key.)の4人がまったく隙の見当たらない爆裂ファンキーなセッションを繰り広げたところに、“FUNKYウーロン茶”のユーモラスなギター・フレーズが続き、「最高にソウルフルでファンキーな、あの男を紹介するぜ!」とハナレグミ=永積タカシの登場を予感させるのだが、ここで姿を見せたのは謎の女性ダンサー。長い髪を振り乱してハイ・ヴォルテージのダンスを踊りまくる。苦笑いしつつ続いて登場したハナレグミは「今日はね、癒されると思ったら大間違いだよ!」と改めて“FUNKYウーロン茶”を歌い出す。と、そこに今度は池田貴史a.k.a.レキシの御館様が乱入、勝手に「縄文土〜器! 弥生土〜器!」とコールを巻き起こすわ、自前のキーボードを持ち出して弾きまくってみせる。オーディエンスとしては当然、ハナレグミやSo many tearsの楽曲はもとより、フィッシュマンズや東京スカパラダイスオーケストラの楽曲も期待せずにはいられないステージだ。それを見事に引っ掻き回してくれる飛び入りゲストたち。さっそく、脳内の情報処理がパンク寸前になってしまうような光景であった。

それでも、カヴァー/セルフ・カヴァー含む多彩な楽曲を、鉄壁の演奏能力によって筋を通しながら繰り広げてゆくバンドのおかげで、場内の熱気が冷めることはない。“音タイム”には加藤の情感豊かなギター・ソロが浮かび上がり、ダブ処理が施されたサウンドの“いかれたBaby”はまさに「ファンの中で生き続けている歌」といったふうにシンガロングが巻き起こされる。So many tearsのレパートリーである欣ちゃんシングスの“SUNSET”は、軽快な歌心を伝えるロック・チューンとして表現のレンジを押し広げ、スティーヴィー・ワンダーの“迷信”を彷彿とさせるアレンジになっていたSUPER BUTTER DOG“踊る人たち”には、ハナレグミのフリースタイル・スキャットを沖がキーボードのメロディで再現する、という高度な音遊びも込められていた。辣腕ミュージシャンたちの人海戦術アンサンブルばかりではなく、ハナレグミ×加藤の「Wタカシ」による静謐で優しい“HUMAN NATURE”のカヴァーは、一度の仕切り直しこそあったものの、どこまでも夢見心地な名演となっていた。

「いらっしゃいませ……」「マスター、ハイボールひとつ」と欣ちゃんが一人寸劇を見せている間、ムードたっぷりに爪弾かれるピアノの旋律は“ウイスキーが、お好きでしょ”。この曲、ハナレグミがカヴァー・アルバム『だれそかれそ』に収録していたのは周知の通りだが、当のハナレグミは曲を歌うでもなく唐突にフロア後方に姿を見せ、オーディエンスをどよめかせたりしている。そこからロックステディなグルーヴをキープしつつハナレグミ・ナンバーの数々がメドレーで放たれ、スカパラ“追憶のライラック”もその流れの中でプレイされるのだった。沖の新作『Gospel』を踏まえた2曲は、強烈なバンド・グルーヴが鳴り響いていた中に一服の清涼剤をもたらすような時間帯。ハナレグミがヴォーカル参加している“青いライオン”も奥行きのある情感を湛えたナンバーだったが、オリエンタルな旋律が溢れ出すソロのピアノ・インスト“女神大橋”が珠玉であった。そして、まだレコーディングも行われていないというAsaのカヴァー“360°”や、“光と影”では穏やかでありながら真摯なメッセージが歌声に乗せて届けられる。四つ打ちの正確無比なダンス・グルーヴと、どこまでも広がる生々しいサウンドスケープに彩られた“Amazing Melodies”で本編を締め括ったところで、既に開演から2時間半が経過していた。

ところが、このあとのアンコールがまたとんでもなかった。キャンドルライトが灯されたステージ上の“ナイト クルージング”で、この日最も重厚な音響空間が生み出されてゆく。ファンク、ロックステディ、ダブ、ロックとバンドのグルーヴを自在に支えていた柏原のベースも、ここに来て更に強烈な確信をもって鳴らされているような手応えがあった。アーティストやファンがフィッシュマンズの遺志を継いでいるというよりも、生きている音楽が今日の人々を自然に衝き動かしている。近年のフィッシュマンズ・プロジェクトの数々においても確認することができた感覚だ。ただ感傷的だけではない、時間が止まっているわけではない、生き続けているこの感覚。今回のツアーは、参加アーティストやファンにとっての、そんな「今も生きている音楽」への思いが交わる時間だったのかも知れない。

そして、これまた嬉しい“オハナレゲエ”を挟み、最後にはカーティスのファスト・ファンクでスパートをかけてゆく。演奏中に「これをもちまして、本日の公演は終了致します。ご来場頂き、誠にありがとうございました」と影アナが被さってくるのだが、「そんなの関係ねえんだよ〜っ!」と構わずパフォーマンスが続けられる。時刻はちょうど22時を回っており、会場は音を止めなければならない時間であった。ここでハナレグミは高台に乗り上がり「みんなの声が♪ 右目を書かせる♪」とだるまの右目を書き入れるパフォーマンスを披露。会場スピーカーからの音が止まり、客電が点いても、謎の女性ダンサー&レキシが再登場して賑々しく煽り立てている。池ちゃんはハンカチから鳩(の人形)を出すマジックで歓声を攫っていた。ずるい。長尺の演奏がようやく鳴り止むと、本来は客出しSEとして使用されるはずだったというオアシス“ドント・ルック・バック・イン・アンガー”をラジカセでプレイし、ここでもシンガロングを巻き起こしてしまうといった具合なのだ。ひたすら音楽に衝き動かされた結果としての180分超の時間であったことは、誰の目から見ても明らかだったろう。なお、So many tears『LOVE&WANDER』のリリース記念ライヴは9月に東京と大阪で開催予定なので、こちらもぜひチェックを。(小池宏和)

01. WALKING IN THE RHYTHM / FISHMANS
02. FUNKYウーロン茶 / SUPER BUTTER DOG
03. SAME OLD THINGS / The Meters
04. 音タイム / ハナレグミ
05. いかれたBaby / FISHMANS
06. SUNSET / So many tears
07. 踊る人たち / SUPER BUTTER DOG
08. コミュニケーションブレイクダンス / SUPER BUTTER DOG
09. HUMAN NATURE / Michael Jackson
10. TIME / So many tears
11. ハナレグミ・メドレー
 0)ウイスキーが、お好きでしょ
 1)Alton's Groove~家族の風景(Funky Kitchen)
 2)Jamaica Song
 3)愛にメロディー
 4)Crazy Love
 5)追憶のライラック / 東京スカパラダイスオーケストラ
 6)オリビアを聴きながら
12. 女神大橋 / 沖祐市
13. 青いライオン / 沖祐市
14. 360° / ハナレグミ
15. 明日天気になれ / ハナレグミ
16. 光と影 / ハナレグミ
17. Amazing Melodies / So many tears
EN-1. ナイト クルージング / FISHMANS
EN-2. オハナレゲエ / ohana
EN-3. MOVE ON UP / Curtis Mayfield
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