インディー・レーベル兼マネジメント事務所であるUKプロジェクトが主催し、今年で3年目を迎えるイベント「UKFC on the Road」。過去2回は全国のライヴハウスを回るツアー形式だったが、今年は新木場スタジオコーストを舞台に3DAYSで開催。BIGMAMA/[Champagne]/THE NOVEMBERS/POLYSICS/the telephonesら初回から参加の5アーティストに加え、「UKプロジェクトに所属している「かつて所属していた」「新たに所属しはじめた」など何らかの形で関わりのある計30組以上のアーティスト(DJアクト等も含む)が3日間いずれかのアクトに登場する、という形式で行われた。
さらに今年はホール内に設けられた2ステージ(FRONTIER STAGEとFUTURE STAGE)に加え、ホール外のロビーエリアにDJフロア(RIGHTTZA TENT)も出現。開場時刻の13時から終演時刻の22時近くまで、常に会場のどこかでパフォーマンスが行われているというフェスのような空間に。その1日目の模様をセットリストとともにレポートします。
BIGMAMA(FRONTIER STAGE)
1. until the blouse is buttoned up
2. 最後の一口
3. the cookie crumbles
4. alongside
5. RAINBOW
6. 荒狂曲”シンセカイ”
7. CPX
UKプロジェクト社長・遠藤幸一氏の「初日のテーマは若向きロックの最高峰です!」という前説に続き、ドヴォルザークの“新世界”に乗って登場。1曲目のイントロから超満員のフロアでシンガロングが沸き起こり、ハンドクラップが発生するといういつものワンマンライヴのような盛り上がりなのだが、なんと言ってもセットリストがよかった。東出真緒(Violin)の奏でるストリングスの旋律をフロアからコールが後押しした“最後の一口”、フロアのあちこちで肩車が林立した“the cookie crumbles”、「皆さんとこの夏を楽しむために書きました!」(金井政人・Vo/G)と披露された“alongside”……と、もうすべてがハイライト。ラストはUKプロジェクトからのデビュー曲“CPX”で華やかに締めくくった。「普段であれば体調に気をつけながら楽しんでねとか温和なことを言うんですけど、今日はどうか全部見て帰ってください。必ずいい出会いがあると思うので」という金井のMCにもイベントに対する思い入れが感じられる、最高のスタートダッシュだった。
つづくバンド(FUTURE STAGE)
1. 唇
2. 眠らぬ街の眠れぬ夜
3. 水中
4. 未来のバトン
5. メロス
SEも挨拶もなしに唐突にスタートした1曲目から、その歌の力に引き込まれる。どこか気だるい色気と妖しさを纏いながら、一筋の光を求めるように高揚していくメロディ。滑らかなアルペジオと、ゴリッとしたリフやビートが交錯するアンサンブル。そして何より、時にスタンドマイクに覆いかぶさるように、時にギターを掻き鳴らしながら熱唱する都筑祥吾の、焦燥感に満ちたヴォーカルがいい。音程が微妙に外れていたり、声量が安定しなかったりと危なっかしい部分もあるんだけど、だからこそ彼の中にうごめくヒリヒリとした感情がダイレクトに刺さってくる。中でも「バンドの歌を歌います」という紹介から演奏された“未来のバトン”は、さらに多くの人に届いていくだろう可能性を秘めた、スケールを持っていた。MCもなく粛々と進行したステージだったけど、その切迫した歌の数々は、オーディエンスの心に確かな爪跡を残したはずだ。
LOST IN TIME(FRONTIER STAGE)
1. バードコール
2. 列車
3. 8月7日の夕焼けを君は見たか
4. ジャーニー(新曲)
5. 30
6. 希望
サウンドチェック中からBIGMAMAの“かくれんぼ”を歌い、観客を沸かせていた海北大輔(Vo/B/Key)。改めて本編で登場すると、鍵盤の音色に彩られた“バードコール”から、大きく伸びやかな歌声を響かせていく。大岡源一郎(Dr)が鳴らす重厚なビートと、三井律郎(G)が爪弾く透明なアルペジオ。それらが海北のキーボードやベースと絡み合って生まれるアンサンブルの緻密さには目を見張るが、何より心奪われるのは、そこから立ち上る抒情に富んだ情景の美しさだ。“ジャーニー”に入る前に、「旅がテーマの新曲をやろうと思います。目的地のない旅のことをジャーニーといいますが、それは、僕やあなたが過ごす毎日、何気ない繰り返しの先に何があるのかを求める自問自答の日々と似ている気がします」と海北は言っていたけれど、LOST IN TIMEの音楽には、まさしく日々の生活を慈しむかのように、目の前の風景や心情を丹念に綴っているような趣がある。ラストは“希望”でフロアの拳を突き上げさせて大団円。生真面目なほどに自らの表現と真正面から向き合う彼ららしさが溢れるステージだった。
伊藤文暁(FUTURE STAGE)
1. Shadow
2. Re::Pair
3. シースルー
4. Dry Bird
5. スローガン
銀河の彼方へ飛び越えていくようなピアノの音色に乗って、独特の透明感と揺らぎを帯びた歌声が伸びていく。another suunydayのヴォーカルとしても知られる伊藤文暁。彼がソロで描くのは、現実世界を軽々と超越した、高い美意識に裏打ちされたファンタジックな世界だ。キラキラとした音で埋め尽くされた“Re::Pair”も、深い海の底へ落ちていくようなバラード“シースルー”も、己の描く理想郷をまっすぐと見つめるような凛とした強さがある。だからこそ、どんなに内向的なことを歌っていようとも、決して暗く閉じたものにならない。「大きな会場でやると音が広がって楽しいなあ」と言ってフロアの笑いを誘っていた、彼の飾らない人柄も影響しているのだろうか。真っ赤な血がドクドクと脈打つような“Dry Bird”にしても、「ダーク」や「スリリング」といった負の言葉よりも「活き活きとした躍動感」といった陽の言葉が似合っていた。
POTSHOT(FRONTIER STAGE)
1. SOMEONE TO LEAN ON
2. FREEDOM
3. RADIO
4. ANYTIME
5. UNDER THE BLUE SKY
6. LOVE CHANGES EVERYTHING
7. EVERYDAWN
8. PARTY
9. EVERY RAIN LETS UP
10. MEXICO
11. BE ALIVE
12. CLEAR
さっきまでじっと聴き入っていたフロアが、打って変わって興奮のるつぼと化していく。冒頭の“SOMEONE TO LEAN ON”からホーン音が轟くスカパンクを連射して、フロアを熱狂に導いたのはPOTSHOT! 2005年に解散し、8月31日の「RUSH BALL 15th」で一夜限りの再結成を果たすことがすでに報じられている彼らが、ここにも登場。そんなわけで、この日はじめてPOTSHOTを観る人も多いはず。しかしフロアの盛り上がりは完全にホーム。RYOJI(Vo)が「俺たちの場合はウォーウォーイェーイェー言ってれば何とかなっちゃうから!」と言ったり、CHUCKY(トロンボーン)がここぞという場面でハンドクラップや拳を煽ったりと、初対面のお客さんへの気遣いを随所で見せていたけれど、そんなサービスなしでも聴き手のテンションを無条件に上げてしまうパワーを彼らの曲は持っていた。終演後はメンバーがステージを去っても鳴り止まない拍手。周囲では、「このバンド好きかも!」と頬を紅潮させながら話す若い女の子もいる。この圧勝ぶりを受けて、次なる一手へ向けてメンバーの気持ちがわずかでも動くことを期待したい。
paionia(FUTURE STAGE)
1. Boredom
2. Paionia in Rutsubo
3. 売り物の俺は
4. 東京
5. 素直
誤解をおそれずに言えば、見た目はいたって普通。どこか垢抜けず、純朴で、素直なギター・ロックを奏でる3ピースに見える。が、1曲目の“Boredom”が始まって驚いた。大波のようにうねるビートの上で透明なアルペジオがふわふわと浮遊するサウンドは、中毒性抜群。一転して性急なリズムの“Paionia in Rutsubo”では、多彩なアレンジが施された極彩色のアンサンブルが疾走する。一方、牧歌的なサウンドに乗って高橋勇成(G/Vo)の朗々とした歌声を軸としたオーソドックスな3ピース・バンドらしい一面も。隣のお兄ちゃんのような取っつきやすい表情を見せたかと思えば、びっくりするほどサイケな音で聴き手を未知の世界にトリップさせてしまう。《素直な歌を歌いたい 素直に君と話したい》という絶唱が胸に響いたラスト“素直”。その真意やいかに?と勘ぐってしまいたくなるほど、さまざまな魅力をナチュラルに開放していくバンドの姿に翻弄されたアクトだった。
TOTALFAT(FRONTIER STAGE)
1. PARTY PARTY
2. Highway Mark 4
3. Place to Try
4. Room45
5. Jungle Fever
6. World of Glory
7. Overdrive
赤い短パン一丁で威勢よくステージに現れたのは、TOTALFATと高校の同級生というよしみでこの会場に駆けつけたという、グッドモーニングアメリカのベーシスト、たなしん。「入場SEを僕が歌いたいと思います!」と“PARTY PARTY”をアカペラで歌ってメンバーを迎え入れると、早速TOTALFATの4人はその“PARTY PARTY”を投下! 一気にフロアが沸騰するする。その後も高速ビートとエモーショナルなメロディで攻め立てるメロディック・パンクの嵐がスタジオコーストを強襲! 今年4月にUKプロジェクトと新たにマネジメント契約を果たしたTOTALFAT。「下北系に似つかわしくないガテン系!」とShun(Vo/B)は自嘲気味に言っていたけれど、その熱き歌とメッセージは、UKプロジェクトに新風を巻き起こす強力な仲間としてオーディエンスからしっかり受け入れられていたと思う。最後まで、強烈な光を放って力強くまい進していくサウンドの勢いは衰えることはなかった。
RIDDLE(FUTURE STAGE)
1. STARFIELD
2. COWRD
3. ANOTHER WISH ANOTHER FUTURE
4. DRUMSESSION
5. MYSTERY
6. SIREN
7. G.D.C.P
1曲目から、鋭利なリフとビートが青白くスパークする硬質なロックンロールが放たれる。「RX-RECORDS」の第一弾アーティストであるRIDDLE。結成11年目とキャリアは長いが、そのサウンドは生まれたての衝動を封じ込めたようにシャープな煌めきを持っている。“ANOTHER WISH ANOTHER FUTURE”でシンガロングを呼び起こし、Sunsuke(B)がタムを乱れ打ちしたドラムセッションでフロアを熱狂させたところで、“MYSTERY”へと繋げる柔硬自在な構成は、さすがの貫禄。「やっぱりあっち(FRONTIER STAGE)に立ちたいです!」(Shunsuke)とまだまだ飛躍していく気概も覗かせ、性急なナンバーの連打で凄まじいモッシュの波を生み出してステージを去った4人。一瞬たりともゆるみのない、常に張りつめたテンションで鳴らされる轟音に、世界に敢然と立ち向かうバンドの意志が透けて見えたような、高潔なロック・アクトだった。
UNISON SGUARE GARDEN(FRONTIER STAGE)
1. 水と雨について
2. シャンデリア・ワルツ
3. マスターボリューム
4. 桜のあと(all quartets lead to the?)
5. きみのもとへ
6. オリオンをなぞる
7. フルカラープログラム
UKプロジェクトからメジャーへと逞しく飛躍していったアーティストとして、この日のUNISON SQARE GARDENは「大正解!」と花丸つけたくなるようなアクトをやってくれた。UKプロジェクトからリリースした『流星前夜』収録曲の“水と雨について”で勢いよくスタートを切ると、その後はイントロが鳴った途端に大歓声とハイジャンプが勃発するキラー・チューンの乱れ打ち。斎藤宏介(Vo/G)に至っては、「去年はUKFC観に来たんですけど、楽屋でプールに飛び込んだら、それを社長にヤル気と勘違いされたみたいで。今ここに立ってます」と笑わせつつ、「今日はUKプロジェクト時代のCDを持ってきているので是非そちらを購入してください。でも秋にはシングルがでるので、そちらも……」と宣伝までしてしまう見事なMCさばきだ。そのリリース予定の新曲“桜のあと(all quartets lead to the?)”では、キレのある歌声とポップなメロディが猛スピードで駆け抜けるユニゾン・サウンドが炸裂。ラストは再びインディー時代の楽曲でフロアをカラフルに染め上げた。最後の締めでは鈴木貴雄(Dr)が頭上に放り投げたスティックを取り損ね、バランスを崩して椅子ごと倒れるシーンもあったけど、それもご愛嬌。
BAZRA(FUTURE STAGE)
1. レクイエム
2. TAKE DA No.1
3. 雨
4. ジャンプ
5. ワイパー
6. フリーダム
7. G.G.Yo!
この日のラインアップの中でも、明らかに異彩を放っていたと思う。勿論いい意味で。ジャーン!という最初の一発で聴き手を切り裂いてしまいそうなハードエッジなギターリフ。ズシンズシンとフロアを揺らす強力なドラム。縦横無尽にうねりまくるベースライン。それらが一切引くことなく、くんずほぐれつしながら濃厚すぎるグルーヴを生み出していく。耳をつんざくような井上鉄平(Vo/G)のしゃがれた歌声も、殺傷力抜群だ。そんな圧巻のパフォーマンスを前にして、オーディエンスはダンスすることも忘れて固唾を呑んで見守っている様子。5曲目“ワイパー”では両腕で「Y」と「P」の文字をかたどる振りつきコール&レスポンスを展開したり、“フリーダム”のブレイクではステージをガムシャラに動き回ってのギター・パフォーマンスで沸かせたりと親しみやすい一面を見せつつも、破格の熱量と演奏力に裏打ちされたスリリングなサウンドに、場内全体が戦慄させられた壮絶なアクトだった。
[Champagne](FRONTIER STAGE)
1. Waitress, Waitress!
2. city
3. Stimulator
4. Forever Young
5. Kick & Spin
6. Starrrrrrr
アンコール
7. 言え
8. Cat 2
そして、後方までギッシリと埋め尽くされたフロアの前に、初日のヘッドライナー・[Champagne]が登場。昨年のUKFCでもトリを務めている彼らだけに、アゲ方を熟知している。“Waitress, Waitress!”“city”、そして新作『Me Do No Karate.』から“Stimulator”と、盛り上がらないわけがないナンバーを畳み掛け、フロアを激しく揺さぶっていく。「今日はレーベルへの感謝の気持ちを込めて歌いたいと思います。僕らがUKプロジェクトに所属する前に路上でやっていた曲です」と演奏された“Forever Young”では、エヴァーグリーンなサウンドも響かせる。終盤は再びアップ・チューンを連打して、モッシュとシンガロングが絶え間なく沸き起こる狂騒空間に! 孤独や絶望を原動力としたヘヴィな轟音が、聴き手ひとりひとりの心と共鳴し、現実を乗り越えていくアンセムとして高らかに鳴り響く――その感動的なまでの歓喜が生まれたクライマックスに華を添えるように、ラスト“Starrrrrrr”では金色の紙吹雪がキラキラと舞った。
アンコールでは、「この中にバンドマンいる? 結構いるね。(UKプロジェクトに)デモテープ送ってみたら?」と川上洋平(Vo/G)。“言え”で再び絶頂に上り詰めて終幕かと思いきや、川上、メンバーそれぞれに耳打ち。そしてセットリストの予定になかった“Cat 2”を演奏し、UKFC初日を豪快に締め括った。
RIGHTTZA TENTには片平実と神啓文のGetting Betterの面々のほか、石毛輝(the telephones)と木下理樹(ART-SCHOOL)も登場し、大盛況となった初日。個人的には、9時間ぶっ続けのイベントにもかかわらず、場外で休んだり飲食エリアに溜まったりしているお客さんが恐ろしく少ない点が印象的だった。まるで「どれひとつとして見逃せない」とでも言わんばかりの気合いの入りよう。長らく日本のインディー・シーンを支えてきたUKプロジェクトに相応しい、心からの音楽ファンが集っていることがよくわかる、素晴らしいイベントだった。
ちなみに「神出鬼没通りすがりアクト」として3日間連続でラインナップされているゾンビちゃん、私、見逃しました。どうやら台車に乗って場外で弾き語りをするなど色々やっていたらしいんですが。(齋藤美穂)