androp @ Zepp Tokyo

androp @ Zepp Tokyo - all pics by RUI HASHIMOTO (SOUND SHOOTER)all pics by RUI HASHIMOTO (SOUND SHOOTER)
andropというバンドが、なぜ音楽を通してコミュニケーションへの強い渇望を描き出し、それを可能にするのか。その理由を率直に表現し、ライヴ空間を共有するオーディエンスに大きな感動をもたらす、そんなステージだった。全国11公演のスケジュールで行われている『one-man live tour “angstrom 0.6 pm”』の5本目、Zepp Tokyo公演である。今後は札幌、大阪(2デイズ)、名古屋(2デイズ)、そして福岡と各地での公演を控えているので、以下のレポートでは詳細なセットリストや演出についての記述は控えるけれども、少々の楽曲タイトルやMCについてはネタバレを含むので、今後の公演を楽しみにしている方は閲覧にご注意を。

androp @ Zepp Tokyo
会場をソールド・アウトさせたオーディエンスの大喝采を浴び、andropの4人がステージに姿を見せる。伊藤彬彦(Dr.)はさっそく椅子の上に乗り上がって煽り立てる素振りを見せ、ライヴへの意気込みがありありと伝わってくる。4人によるド派手な音出し一発と同時に、内澤崇仁(Vo./G.)も景気の良い第一声を放って楽曲へと向かってゆく。人々が思い思いに抱えたコミュニケーションの痛みや難しさをすべて掬い上げ、緻密なバンド・アンサンブルと豊かな歌心が一気に溢れ出していった。オーディエンス一人一人との距離感を確かめるようにしながら、勢いと力強さを損なうことなく楽曲を投げ掛けてくる、そんな頼もしい4人の姿がそこにはあった。改めて内澤が感謝の言葉を織り交ぜながら挨拶し、「最後まで皆さんに楽しんで頂くために、お願いごとがあります。ソールド(アウト)なので、この辺ギュッとしてますが(笑)、隣の人が嫌な思いをしないように、思いやりをもって楽しんでください」と告げる。大きなスケール感の熱狂と興奮をもたらしながら、同時に一人一人をつぶさに見つめる。そんな、andropの音楽表現とも合致する優しさが滲み出た言葉だ。

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とは言え、andropの音楽はただ優しいばかりではない。前田恭介(Ba.)のスラップ・ショットが、ラン&ストップの挑発的なプレイで嬌声を誘いながら始まる“Amanojaku”以降も、ときにパンキッシュな疾走感の中で佐藤拓也(G./Key.)が目一杯ギターを搔き毟り、或いは4人が変則的で高度なポスト・ロック・グルーヴを構築し、「決して一人ではない歌」をバンドとして支えながら届けてくる。ステージ中央に運び込まれたピアノを前に腰掛けた内澤は、「楽しいです! ありがとうございます! 11/27に新しいシングル(『Missing』)を発表しました。買ってくれた人! うそぉ!? 今、手挙げた奴、全員買えよ! カップリングの“Melody Line”という曲をやるんですが、夢をテーマにした曲です。俺の夢っていうのは、こいつら(メンバー)と音楽を作って皆さんに届けることなんですが、夢ってさ、口にするとすごく恥ずかしかったり、チープになったりするんだけれども。するんだけれども! 他人に何を言われようが、皆さんの夢を大切にしてください。そういう歌です」と語り、歌詞のメッセージが、音のフレーズひとつひとつが、それぞれの大切な夢の形であるかのように浮かび上がる。そんな“Melody Line”を披露するのだった。

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「次は、“Missing”をやります。とても大事にしていた曲で、出来てから4年ぐらい封印していて。僕に歌を教えてくれた、もう家族のように慕っていた人が、4年前に亡くなったんですが……表現することが出来なくて、ずっと歌うことが出来ませんでした。でも、いつまでも封印していたら逃げることになるんじゃないかと思って、もっと強いヴォーカリストにならなきゃと思って、メンバーと相談して、出すことにしました。この世界には限りがあるから、みんなにも大切な人がいると思うけど、大事にしてあげてください」。内澤がそう語ってプレイされた“Missing”。改めて、凄い曲だ。この余りにも率直なメロディと歌詞を「表現することが出来なかった」と内澤は言った。andropというバンドが、コミュニケーションの難しさを抱えながらも多くの人々と交わり、思いを伝えようとするのは、無限の可能性に手を伸ばしているからではないのだ。コミュニケーションは有限であり、すべての人はいつか失われる、と知っているからなのだ。

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そして佐藤が「こっから後半戦に行くんだけどさ、ツアーの中で目標があって、andropというイメージをぶち壊してやろう、と。みんなが手を叩いて声を上げてくれたら、俺らはステージから倍返し、いや百倍返しにするんで!」と告げてからの展開は、まさにandropの音楽的コミュニケーションが新記録を樹立してしまうような、狂騒と歓喜にまみれる時間であった。音を止めてまで執拗にコーラスのレスポンスを求め、「裏声が難しいって(笑)。そういう人は、音程なんてどうでもいいんで、魂の叫びを聴かせてください!」と、佐藤がお手本とばかりにマイクレスの絶叫を轟かせてみせる。そんなふうにヒートアップし続ける中での、チャントのような歌声が広がる“Voice”は圧巻だった。内澤は「お前らの歌だ」と叫んでいたけれど、まさにオーディエンスをひっくるめて会場全体がandropと化した光景だ。《今 誰の代わりもいない君の 生まれた声を聞かせてよ》。andropが生まれ来る声を祝福するのは、失われてしまった声を知っているからである。“Voice”と“Missing”は、コインの裏表のように対になってandropの表現を支える、2013年の名曲たちだ。

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後に佐藤は、こんなふうにも語っていた。「4人が下北沢で出会って、来年で5年になります。さっきandropをぶっ壊すって言ったけど、一人の相手に距離が近い音楽をやろうとしてきました。3/23に史上最大キャパ(国立代々木競技場・第一体育館)のライヴをやるんだけど、5年の集大成とかではなく、あくまで通過点として、最高のライヴをやるので、皆さんぜひ遊びに来てください」。そこに集まった一人一人の声が作り上げる、アリーナ規模のワンマン・ライヴ。想像しただけでゾクゾクする。コミュニケーションの輪を、大切に丁寧に広げてきたandropは、ここまで来た。佐藤は、それを通過点だと言った。もちろん今回のツアーはまだ続くが、早くも2014年が楽しみだ。(小池宏和)
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