今回のライヴは月刊誌『CUT』主催のイベント「CUT NIGHT」の一環として行われたものであり、場所は代官山蔦屋書店の店内ライヴスペース。さらに前半は映画コラムニスト・山田ルキ子ことlukiと編集長・渋谷陽一とのトークショー、そして後半がシンガーlukiによるアコースティック・ライヴという趣向を凝らした構成で、彼女の多面的な魅力をまざまざと伝えてくれる演出になっていた。
lukiのライヴが始まったのは、開演から約1時間15分後。それまではメガネにジャケットとブラウスという知的な出で立ちで映画を語り、天然混じりの話芸でトークショーを盛り上げていた彼女が、いったん退場してシンガー・lukiとして再びステージに登場する。メガネを外し、白いワンピース姿に着替えた彼女から、さっきまでとは全く異なる強靭なオーラが立ち上っている。いっぺんに会場の空気まで塗り替えるような、心地良い緊張感が場を支配するのがわかる。そしてステージには彼女を挟んで左側に丸山天使(G)、右側に山本哲也(Key)という合計3名のバンド編成で演奏がスタート。観客に深々と一礼したlukiが愛用のハーモニカを吹くと、両側のふたりがそれに応えるように演奏を始めて、インスト・ナンバーでライヴはスタート。単にブルージーな様式美ではない、いきなり爆発するような彼女のハーモニカの強烈なエモーショナルさが、立ち上がりのウォーミングアップと呼ぶにはあまりにも濃厚に伝わってくる。
「どうもありがとうございます。lukiです」と改めて挨拶して、『パープル』の曲の中でも非常にポップで壮大なメロディが印象的だった“まだ間に合うから”では、オーガニックなアンサンブルに乗せて《君は希望 愛しあおう》《君は平和 憎しみ超えて優しい涙地上に降らす》といった力強いメッセージをまっすぐに歌い上げるluki。続く”白い月”では、正面の壁に映像作家・三嶋章義の手がけた映像アート作品が投影され、チルウェイヴ風な打ち込みのビートが鳴らすクールな躍動感と相俟って、いよいよlukiの声とメロディが持つ空間性/映像性のアンニュイな美しさがくっきりと立ち上がっていく。
ここで、これからの曲はすべて映像とのコラボレーションになることと、バンドのメンバー紹介を経て、「今日のために作った曲を聴いてください」と言って演奏されたのが新曲“パラレルワールド”。モノクロ時代の映画をコラージュして作られた、まさにこの日のイベントとピッタリ呼応する映像作品の前で披露されたのは、これぞlukiワールドのポップな進化形をはっきりと示す1曲だった。四つ打ちのビートに乗って、「わたし」と「あなた」がそれぞれ見る世界の隔たりと、それを承知のうえで無効化する愛への信頼をテンション高く「歌」として描き出す彼女。その表情の豊かさは、アンニュイでフェミニンな雰囲気で自身の印象を一新した『パープル』の先で、lukiがさらに何を掴もうとしてきたのかをはっきりと伝えてくれるものだと思った。一際盛大な拍手の後、硬質な打ち込みテクノビートの響きとスローで切なく映しだされる打ち上げ花火の映像が呼応する中、抑えたトーンで歌うlukiの声が凄みを感じさせる“スイッチ”を挟んで、ラストはさらに新曲“100年後のあなたへ”が披露された。
震災後、まだ仮設住宅で暮らす人々のこと。原発のこと。MCでlukiは、この日この場で音楽が鳴らせることへの感謝を踏まえつつ、我々の上に重くのしかかる問題について触れると、「この世に生を受けたからには、希望というか、未来にいいものを残したいと思うんですが、そんな願いを込めた曲を聴いてください」と言って曲名を告げて演奏を始めた。アコギのフレーズがリフレインされて、後ろのスクリーンには月面の映像が流れ、lukiがゆっくりと歌い始めた3人のアンサンブルが、途中から差し込まれる打ち込みのハイテンポなビートに乗って一気に加速する迫力が素晴らしかった。「100年後の、あ、な、た、へ」と噛みしめるように発語して歌うlukiのハスキーなヴォーカルが、賛美歌のように清らかな祈りを帯びつつ、パワフルに歌い上げられる様に圧倒されてしまう。『パープル』では、わたし/あなたといった二者の関係性の中でとことん凝縮されて様々に繰り広げられたlukiのコミュニケーションが、いまや必然ともいえる社会性や政治性をまっすぐに捉えながら、鮮やかに進化している。しかも、それが本質的な意味でのポップさにダイレクトに繋がっているところが、この人の才能の底知れなさであることを、改めて痛感させられた。
盛大な拍手の中でlukiが退場すると、再び渋谷陽一が登場し、イベントを総括するコメントの後で第2回「CUT NIGHT」が1月14日に催されることが早くもアナウンスされた。ここでは違う映像と違う楽曲で、またlukiの貴重なライヴが披露されるとのこと。そして、12月31日にはCOUNTDOWN JAPAN 13/14のASTRO ARENAにlukiが登場して、パフォーマンスすることが決定している。どちらも彼女のライヴが見られる非常に数少ない機会となるので、ぜひお見逃しなく。(松村耕太朗)