開演早々“Call Her”から“ネバーランド”へ雪崩れ込んだ瞬間の、割れんばかりのクラップとともに弾け回る目も眩むような多幸感。研ぎ澄まされたアンサンブルと躍動感そのものの演奏が織り成す、音楽という名の無上のユートピア……メジャーデビューアルバム『NEVERLAND』を引っ提げて、昨年11月22日・京都GROWLYを皮切りに行われてきた、Czecho No Republicの全国ツアー『エンジョイ!冬のネバーランドリリースツアー』。HAPPY/The Flickers/キュウソネコカミ/Kidori Kidori/SAKANAMON/THE NOVEMBERSといった精鋭バンドとの対バン・シリーズ、札幌・仙台・名古屋・大阪・東京のワンマン・シリーズといった形で行われてきたツアーも、ツアー完売記念の福岡ワンマン追加公演(3月30日)を控えてはいるものの、この日の東京・LIQUIDROOM ebisu公演をもってひとまずフィナーレ!ということで、武井優心(Vo・B)の「今日は、ここにいるお客さんを、みんなハッピーな気持ちにさせることに、メンバー全員で全力を注ぎ込もうと思ってるので。最後までよろしくお願いします!」という言葉通り、正味2時間のライブがフェス丸1日分くらいに思えるような濃密な高揚感に満ちたアクトで、ぎっちぎち満場のリキッドルームを一大ダンス空間へと塗り替えてしまっていた。

US/UKインディー・ロックの自由奔放な開放感を胸いっぱいに吸い込んで、極彩色のコーラス&アンサンブル越しに2010年代日本にでっかく解き放ったような、Czecho No Republic独自の音楽世界。特に、ギターもシンセも操る八木類(G・Cho・Syn)/タカハシマイ(Cho・Syn・G・Perc)という2人がいることによって、「八木&タカハシのWキーボード編成→途中からタカハシがアコギを弾き始めて八木&砂川一黄(G)とともにトリプルギター編成に」とか「八木:ギター、タカハシ:パーカッション」とかいった具合に、曲ごとにというか、瞬間ごとにくるくるとフォーメーションを変えながら、ただでさえ鮮烈な楽曲をそのサウンド面でより彩り豊かに描き出すことが可能になっている。さらに、“絵本の庭”では八木が、“ファインデイ”ではタカハシが、“ウッドストック”では砂川がヴォーカルを取る場面もあったりして、およそ「5人編成のバンド」という範疇には収まらない音楽的自由度と色彩感を生み出していく。それらのテクスチャーのひとつひとつが、武井の歌う高純度なメロディ&山崎正太郎の熱量溢れるドラミングと一丸になることで、あたかも音の理想郷のような磁場が生まれていく。

「第一期チェコ集大成」とも言うべき作品だったアルバム『NEVERLAND』からは、“Call Her”をはじめ“レインボー”“絵本の庭”など初期(といっても2010年結成だが)の楽曲もこの日のライブでは多く演奏されていたが、それらの楽曲は格段に力強い訴求力をもってリキッドルームに響き渡っていたし、“ネバーランド”“MUSIC”といった「チェコの現在地」を象徴する楽曲群の輝度は何より、サウンドの面からもマインドの面からも、「触れる者すべてを一点の曇りもないハッピーな場所へ連れて行くという闘志」をリアルに伝えてくれるものだった。エレドラ音色のパッドでビートを刻むディスコ・テイストの新曲から、“MIKA”スリリング&ミステリアスな16ビートの疾走感、さらに武井の奏でるグロッケンの調べから流れ込んだ“国境”の凛とした雄大な音風景への流れは、チェコの5人の世界観の奥行きと深度をまざまざと見せつけていたし、「僕、サラリーマンを一瞬やってて、サラリーマンを辞めた時の喜びを叫びたい!と思って」という八木の言葉とともにパンキッシュに鳴っていたもうひとつの新曲(“JOB”と紹介していた)は、ロック/パンク系のバンドにも決して劣ることのないチェコのバンド・アンサンブルの爆発力と推進力を雄弁に物語っていた。刻一刻と高揚の頂へ昇り詰めていくような“幽霊船”のエネルギッシュな展開。《大丈夫 アイラブユー 間違いなんてない ごらん もともと傾いたワールドなんだ》と現実丸ごと祝祭感で抱き締める“Festival”……それらがひとつひとつ織り重なって、至高の熱狂空間を生み出していく。


「2013年10月30日に『NEVERLAND』を出して、メジャーデビューという形でツアーに行ってきたんですね。デビューして3ヵ月、表立った活動で言ったら、CD出してツアーして、東京に帰ってきて、楽しそうじゃん、っていう感じだと思うんですけど……」と、終盤のMCで切々と語る武井。「でも、この3ヵ月でほんと凝縮された時間があって。メンバーみんなすごく成長できたような気がしてます。忙しくなって、メンバーとしょっちゅう会うようになって。バンドでもっと勉強しないといけないし、過信してた部分もきっとみんなあって、『このままじゃいけないな』という気持ちもあって……『成長した』って勝手に言われても困るかもしれないけど、こうやって東京でファイナルができたことを、嬉しく思います。ありがとうございます」。ものすごい勢いで極限進化を続ける5人の「今」を伝える真っ直ぐな言葉に、惜しみない拍手がフロアに広がる。武井の亡くなった愛犬への想いとともに披露した“ノンストップ”で一瞬センチメンタルな空気が広がったものの、ラストの“ダイナソー”ではフロア一面クラップ&ダンス空間へ! そこへなんと、チェコの元メンバー=吉田アディムも登場! 銀テープのキャノン砲を武井めがけてぶっ放し、最高のライブのクライマックスにさらなる歓喜を注ぎ込んでいた。

アンコールを求める拍手に応えて、武井と同じくチェコの創設メンバーである山崎がオン・ステージ、「めっちゃ気持ちいいっすよ、リキッドルーム!」と呼びかけ、これまでの足跡を振り返って語っていく。2010年の3月結成のチェコが初めてここリキッドルームに出たのは同年11月、The Mirrazのオープニング・アクトだったこと。その時はまだアディムがギターだったこと。そのライブの時に初めて八木と会ったこと。当時の八木は柄シャツも着てなくて「イギリスから来た好青年」みたいだったこと。「その時はまだ、ここでワンマンできるなんて全然思ってなかったし。バンドを続けてきて、成長して、自分たちの力でリキッドルームでワンマンができて、こんだけのお客さんがいて、ドラムが台の上に乗っかってて(笑)、めちゃめちゃ景色がいい! 俺はすげえ感動しています!」。熱い拍手が広がる。「ライブでやれなくなってきた曲」を一気にメドレーで演奏した後、“ショートバケーション”で大団円……かと思いきや、鳴り止まないアンコールの手拍子に応えて5人がまたもステージへ。最後は“DANCE”でひときわ熱いクラップが湧き起こっていく中、タカハシが高らかにパーカッションを打ち鳴らし、武井がフロアへベースを掲げ、5人のプレイがカオティックなまでに熱を増して……終了。あまりに激しく美しい、圧巻の幕切れだった。
3月30日には福岡grafにて『エンジョイ!冬のネバーランドリリースツアー追加公演~完売記念ワンマン~』を行うCzecho No Republic。そしてこの日、武井から開催が発表されたのが、5月21日に東京・SHIBUYA-AXで開催されるチェコ企画イベント。そのタイトルは『AXドリンクバイトをクビになった武井がついに演者として帰ってきた!最初で最後!武井のAX帰還ギグ!~そして伝説へ~』。バンドとしての進化を、チェコの5人が楽しんでいることが伝わってきて、なんだか嬉しくなった。後日発表される対バン相手の情報も含め、今から楽しみで仕方がない。(高橋智樹)
セットリスト
01.Call Her
02.ネバーランド
03.レインボー
04.トリッパー
05.絵本の庭
06.1人のワルツ
07.マサチューセッツ
08.Don't Cry, Forest Boy
09.ファインデイ
10.新曲1
11.MIKA
12.国境
13.新曲2
14.ウッドストック
15.幽霊船
16.MUSIC
17.Festival
18.RUN RUN TIKI BANG BANG
19.ノンストップ
20.ダイナソー
Encore 1
21.メドレー(エレクショナリー~Good Bye~Nowhere Boy~魔法~Sunshine~ABCD Song)
22.ショートバケーション
Encore 2
23.DANCE