フォールズ @ EX THEATER ROPPONGI

昨年のフジ・ロック以来となるフォールズの来日、単独公演としては2011年の東名阪ツアーが最後だから3年ぶりの公演となる。最新作『ホーリー・ファイア』(2013)が全英初登場2位、本国イギリスで商業的にも批評的にも大きな成功を収めたフォールズは、2000年代後半デビュー組の中でも群を抜いたステイタスを確立したバンドだと言っていい。しかもフォールズがすごいのは彼らの音楽はけっして商業主義に阿らず、実験精神とフロンティア精神をキープし、むしろ鋭化させながら多くの人に支持を広げてきたということなのだ。

そんなフォールズの音楽のすごさ、特異性が明らかになる場がライヴだ。彼らのライヴ自体もデビュー当初のシンプルなポスト・パンクからキャリアを積み重ねる中でどんどん複雑かつプログレッシヴなパフォーマンスに移り変わってきたのだが、複雑かつプログレッシヴになりつつも本能・直感で興奮できるダイナミズムもまた増幅していく、という二重構造が彼らのライヴの面白さだ。この日のステージも冒頭は『ホーリー・ファイア』のオープニングを飾るナンバー“Prelude”の長大なインスト・ヴァージョンで始まった。繊細な音の襞を一枚ずつ重ね、「曖昧さを正確に描く」ようにじわじわとアブストラクトな音響が立ちあがってくる。ヤニスが最初の一声を発するまで優に5分はじらしただろうか、こういう曖昧かつ緊縛した時間、爆発の予感をドキドキしながら待つ時間がフォールズのライヴには随所に設けられいて、ショウに彼らならではのメリハリを与えている。

ヤニスが「アリガトー!」とEX THEATER ROPPONGIのフロアを埋めたオーディエンスに向かって叫んだところで、満を持して“Total Life Forever”が始まる。オープニングで徹底して曖昧さを描いたぶん、カチッと全ての歯車が噛みあい走り始める瞬間の快感も桁違いだ。バンドの個性が詰まった記名性の高いギター・リフを鳴らすという点では、現在のUKシーンではフランツ・フェルディナンドとこのフォールズが二大巨頭だと思うが、フォールズのリフはよりミニマムで幾何学的な洗練の下で作られていることがよくわかるナンバーだ。“My Number”はベースとドラムスが主導するファンク・アレンジで、その弾みしなるリズムを縫うように曲間のコーラスをオーディエンスがばっちり決めて色を添える。

中盤に入り、ライヴは徐々に「減速」していく。クライマックスにむけてどんどん加速していくライヴはよくあるが、フォールズが面白いのは彼らには減速ゆえのカタルシスがあるという点だ。思えば『アンチドーツ』(2008)でマス・ロックと呼ばれ、素早く簡潔なカタルシスを鳴らすことで評価された彼らが。セカンドの『トータル・ライフ・フォーエヴァー』(2010)で悠久のサウンドスケープに転じ、そして『ホーリー・ファイア』で緩急自在のギアを手に入れた、そんなフォールズの歩みはまさに「速度」に纏わる物語だったと言ってもいいかもしれない。

なかでも「楽しんでる? 日本に戻ってこれて嬉しいよ。東京のみんなはほんと最高のオーディエンスだからさ」とヤニスが言って始まった“Milk & Black Spiders”は圧巻だった。まさに1曲の中でこのフォールズの速度を十二分に体感できる多展開多スピードのナンバーで、後半のエクスペリメンタルな轟音に至る組曲的な構成が最高! そしてしびれてボーッとなった頭に一転、超絶カオティックなファンク・ナンバー“Providence”が間髪入れず打ちおろされる。早くもヤニスがフロアに背面ダイヴを決め、場内は鉄火場のような盛り上がりを記録する。この日の照明は基本バックライトでステージの彼らの足元から数本の光線が立ち上る以外は薄暗く押さえられていたのだが、“Providence”でステージ全体が真っ白く発光するくらいのライトがたかれ、視覚的にもビリビリきた。そしてそんな“Providence”から再びふっと空気が緩んで“Spanish Sahara”の美しいイントロがトロトロと流れ込んでくる恍惚。この後半の3曲の流れがメリハリという意味でもこの日のハイライトだったと思う。

「アー・ユー・レディ・トーキョー?」とヤニスが叫んで始まった本編ラスト・ナンバーは彼らの最新アンセムにして『ホーリー・ファイア』のエッセンスが凝縮された“Inhaler”。フォールズの加速と減速の物語も、シグネチャー・サウンドとしての幾何学リフも、『ホーリー・ファイア』で初めて獲得したカオティックなファンクネスも、ヤニスのファルセットも、全部がこの曲には詰まっていて、それが爆音でのたうちまわる圧巻の光景に歓声が何度も何度も沸き上がる。そしてアンコール・ラストはもちろんこの曲“Two Steps, Twice”!アンコールまで含めてトータル80分ちょいとコンパクトなセットだったとは思えないほどの濃い体験となったパフォーマンスだった。(粉川しの)