TK from 凛として時雨 @ 浜離宮朝日ホール 音楽ホール

TK from 凛として時雨 @ 浜離宮朝日ホール 音楽ホール - all pics by 河本悠貴all pics by 河本悠貴
TKのソロ・ツアー、それもバンドではなく弾き語りをメインにしたパフォーマンスなのだが、楽曲を奏でて歌うTKを観ている、というよりも、音と言葉の巨大な化身そのものがステージ上で揺らめいているような、そんな錯覚に陥る瞬く間の1時間半だった。『TK Acoustic & Electric TOUR 2014 “Killing you softly”』は、愛知県芸術劇場、大阪市中央公会堂を経て、ファイナルの舞台となる東京・築地の朝日新聞本社敷地内にある浜離宮朝日ホールへ。キャパは最大で550余というサイズの、座席制のホールだ。

TK from 凛として時雨 @ 浜離宮朝日ホール 音楽ホール
拍手を浴びて姿を見せたTKは、まずキーボードに向き合って手元のライトを灯し、穏やかなピアノの調べに乗せて都市生活の空隙を歌い出す。今にも消え入ってしまいそうなのになぜか強く響き、残る、そんなTKの歌声だ。“罪の宝石”というタイトルの、さっそくの新曲披露であった。続いて、瑞々しくフォーキーなアコースティック・ギターの音色と共に走り出すのは、“テレキャスターの真実”。アウトロの鋭いフレーズまで気配りが行き届いた、集中力をひしひしと受け止めさせるプレイ。今回のパフォーマンスは、凛として時雨のナンバーもふんだんに盛り込まれる内容となっていったが、同時に、刺激的なエレクトリック・サウンドとは異なる、TKの繊細な音響コントロールを確認する機会でもあった。

力強さを増した歌声で放たれる“鮮やかな殺人”は、例えるならばスピード感のある小説のように、強烈な情景喚起力を発揮してゆく。音と言葉の雄弁さが、表現の重荷になっていない。高いスキルが100パーセント、コミュニケーションのために機能しているのである。ふと思い出したように「あ、TKです」と挨拶が差し込まれると、食い入るような集中力で演奏に聴き入っていたオーディエンスも、我に返って喝采を上げていた。流麗なギター・プレイと並走する“abnormalize”や、一転してパーカッシヴなミュート・カッティングで歌のエモーションを引き立てる“CRAZY感情STYLE”、更にはTKが表現へと向かう根拠をスポークンワードとして残すソロ名義曲“fourth”と、TK×ギターというスタイルの中で多彩なパフォーマンスを繰り広げてゆく。

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さて、透徹したピアノの旋律に導かれて歌われる新曲は、世界の中で感じる違和感を克明に伝える一曲だ。あからさまに衝動的なパフォーマンスではなくて、理知的に丁寧に説明するような歌詞が、後半のヒート・アップへとオーディエンスを確かに導く。丹念に磨かれた音と言葉が聴く者を掴まえるという意味で、ポップ・ミュージックのひとつの理想が形になっていた。これは、3/5にリリースされたばかりのファーストEP『contrast』に通ずるモードでもあるだろう。

ライヴ時のバンド・メンバーとしても知られる大古晴菜(Key.)を紹介して迎え入れると、ここからは2人のセッションへ。温かく浮遊感に満ちた大古のキーボード・サウンドに彩られた初恋の嵐カヴァー“涙の旅路”、そして2人で沸々とした盛り上がりを生み出してゆくアレンジの“seacret cm”と、音が関わることで演奏も変わる、そんなミュージシャン同士のダイナミックなメカニズムを伝えていった。プレーンなエレクトリック・ギターの音色に少々のリヴァーブを効かせて、ここでまたもや披露される新曲は、オーディエンスがライヴ会場に足を運ぶことにまで意味をもたらすような、ヒリヒリとしつつも親密で感動的なナンバーであった。

TK from 凛として時雨 @ 浜離宮朝日ホール 音楽ホール
“white silence”を経ての“12th laser”では、熱を帯びたアコギのプレイが迸るのだが、少々チューニングが気に入らなかったらしく、「ちょっと、もう一回やっていいですか?」と苦笑いし、オーディエンスもつられて笑い声を上げる。楽曲に集中して聴き入る緊張感と、それを解きほぐされる弛緩が心地良い。仕切り直して一気に火花をちらすようなパフォーマンスを繰り広げ、時雨のデビュー曲でもあった“Re:automation”のクライマックスでは悲痛な叫び声を上げるTKであった。本編の最後には、大古と2人がかりのキーボード演奏で音と言葉がぽっかりと浮かび上がる“illusion is mine”。EP『Contrast』には昨年末に行われたイヴェント『December’s Calling』でのライヴ・テイクも収録されていた。今回、『Contrast』収録の新曲群の披露は見送られたけれども、これはEPのタイトルを冠した6月のツアーで届けたいという思いがあったからだろう。

TK from 凛として時雨 @ 浜離宮朝日ホール 音楽ホール
アンコールに応え、再び姿を見せたTKと大古。ギターをチューニングしながら「楽しめてますか?……3年前に作った曲をやります」とTKが告げて披露されたのは、2011年3月にインターネット上で公開された美しいインスト・チューン“am326”だ。TKは多くを語らないけれど、その音楽が記憶と思いを運ぶ。そして、ステージから立ち去る大古をオーディエンスが喝采で見送ると、最後にはギター弾き語りの“Sergio Echigo”だ。髪を振り乱し、再びの鮮烈なシャウトを交え、エモーショナルにステージを締め括るTKであった。感情から生まれ来る音楽。思いをしっかりと伝えるために磨かれるスキル。楽曲の完成形に捕われず育て続け、生かし続ける力。音楽人TKの息遣いと共に、それらに触れる素晴らしいステージだった。さあ、次はバンドのツアーだ。(小池宏和)

セットリスト
01 罪の宝石(新曲)
02 テレキャスターの真実
03 鮮やかな殺人
04 abnormalize
05 CRAZY感情STYLE
06 fourth
07 (新曲)
08 涙の旅路
09 seacret cm
10 (新曲)
11 white silence
12 12th laser
13 Re:automation
14 illusion is mine
encore
01 am326
02 Sergio Echigo
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