2011年のサマーソニック&単独公演、2012年のフジ・ロック以来となるビーディ・アイの来日である。ご存じのとおり彼らは昨年のサマソニに出演予定だったがゲム・アーチャーが階段の転落事故で頭蓋骨に亀裂骨折を負ったことを受け活動を休止したためキャンセルとなり、今回の来日は新作『BE(ビー)』を引っ提げての最新ツアーかつサマソニのリベンジ・マッチともなった単独ツアーなのだ。
ちなみに『The Rollercoaster Tour』と題された今回のツアーはアラン・マッギーのDJ、Koji Nakamura(ex.スーパーカー)のオープニング・ライヴ、そしてビーディ・アイのメイン・ライヴの三本立ての構成で、Koji Nakamuraとビーディ・アイの転換の間には『Creation Stories』というアラン・マッギーのトークショウも行われた。
のっけから素晴らしかったのがKoji Nakamuraだ。事前にスーパーカー時代のナンバーをプレイすることが予告されていたナカコーのステージ、ソロ曲やiLL時代のナンバーに加えて、つんざく悲鳴のようなギターで幕を開けた“WHITE SURF style 5.”を皮切りに、デビュー・アルバム『スリーアウトチェンジ』収録の“I need the sun”や、“aoharu youth”、“WONDER WORD”といったスーパーカー時代のナンバーが随所で閃き、ナカコーの集大成のパフォーマンスを見せていく。この日のバンドはドラムが沼澤尚(iLLにも参加している)、ギターが田渕ひさ子(ex.ナンバーガール、bloodthirsty butchers、toddle、LAMA、磯部正文BAND)、ベースに345(凛として時雨、geek sleep sheep)という布陣。ナカコーがこのメンバーと共に2014年にスーパーカーのナンバーを演ること、それはビーディ・アイのオープニング・アクトというさらっとした立ち位置で観るにはあまりにエポックメイキングなパフォーマンスだったと思う。
そんなKoji Nakamuraのステージから約30分がすぎたところで、ついにビーディ・アイが登場する。まずはすこぶる元気そうなゲムに一安心だ。スモークがもくもく焚かれたステージにドカドカ歩いて出てくるリアムは、前回来日で見せた異様にせわしない動きから、いつものどっしりふてぶてしいリアム・ギャラガーに戻っていて、最新作『BE(ビー)』収録のナンバー“Flick of the Finger”で幕開けたパフォーマンスも、そんなリアムのモードに近いと言うか、ゆったりとグルーヴが重く太く立ちあがってくる。そこから一気にギアチェンジして加速する“Face the Crowd”は、シンセサイザーのシンフォニックなレイヤーが『BE(ビー)』のカラフルでふくよかなサウンドを象徴するナンバーだ。
セットリストを『BE(ビー)』からのナンバーが大半を占めていたことも大きいだろうが、前回のZEPP公演とはパフォーマンスの質が全く異なっていたのが面白かった。簡単に言ってしまうと「余裕」が全く違う、そんな印象だ。デビュー・アルバム『ディファレント・ギア、スティル・スピーディング』を引っ提げての3年前のツアーが「とにかくロックンロールだ、難しいことは置いておいてとにかくここからもう一回始めるんだ」というリアムの焦燥にも似た急いた気分が乗り移り、全曲溜めなしでつんのめり気味な内容になったのに比べると、今回は1曲1曲を丁寧に、リアムの理想のあるべきロックンロールとして纏め上げようとする意思を感じるパフォーマンスだったのだ。デイヴ・シーテックがプロデュースを務めた『BE(ビー)』ならではのモダンなキーボードのアレンジが光る“Soul Love”や、オアシス時代のリアムからは想像もできないアシッド・ハウス調のリズム・トラックがフィーチャーされた“Second Bite of the Apple”等、前半に変化球のナンバーが並んだこともあり、ムードや勢いとしてのロックンロールではなく「ソングライター=リアム・ギャラガー」の現在地をはっきりと示す、愚直なほど誠実なステージだったと思う。
“Iz Rite”以降の中盤は『BE(ビー)』のもうひとつの大きなテーマだったサイケデリックが全編に押し出された流れで、リアム固有のリリカルなメロディ・センス――ロックンロールの初期衝動最優先だった『ディファレント・ギア、スティル・スピーディング』では脇に追いやられていたそれが、サイケデリックの色彩と空間を存分に使って今こそ花開いているのを感じることができる。
そして中盤、いきなり、本当にいきなりぽろっと始まったのが“Live Forever”だ。セットリスト的にはあまりに唐突だったそれは、同時にファンサービスとしてもあまりにそっけなく始まりそっけなく終わるという、全体的にしっかり練られた『BE(ビー)』ツアーの構成の中にあって異色の捉えどころの無さだった。リアムが何を思って今“Live Forever”を演っているのかはわからないが、いずれにしても場内は大爆発である。ちなみにリアムは喉の調子が悪いと「Maybe~」が「メイビッ」とスタッカートするのですぐわかるのだが、この日はきっちり「メイビィイイイ」と伸びていたので文句なし。やっぱりこの人の声は高速でロックンロール風にシャウトするよりも、ある程度テンポを押さえたメロディをしっかりはっきり大声で歌うのがよく似合う。
そんな唐突だった“Live Forever”に比べると「次の曲はアラン・マッギーに捧げる」と言って始まった“Champagne Supernova”は満を持しての感慨をじっくり丁寧に紡ぎだしていくパフォーマンスで、ちょっとうるっときてしまった。Bメロの転調のカタルシスの「くるぞくるぞー」という胸の高鳴りを会場にいた全員が共有していると確信できる、オアシスとリアムを愛して今ここに皆がいる、という時を越えた一体感を感じるナンバーだったのだ。嬉しかったのは、そんな“Champagne Supernova”の深い余韻の中始まった“The Roller”が、その余韻を吹き飛ばすくらい快活なビートを刻み、場内が再び大歓声に包まれたことだ。“Champagne Supernova”から最新アンセムとしての“The Roller”へのリレーは、リアム・ギャラガーの過去と現在を正しく一本の道で繋いだものだったと思う。
「ヨコハマ、次が最後の曲だ」と言って本編ラストの“Wigwam”へ。渋い。そしてアンコール、出てくるなりリアムは「ストーンズ、ストーンズ、ストーンズ…」とぶつぶつ呟いている。恐らく「ストーンズが来日していたことは知っている。だから次の曲はそんなストーンズへのトリビュートだよ」的なことを言いたかったのだろう。選んだナンバーは“Gimme Shelter”。これまためちゃくちゃ渋いアレンジでどっしりやって終わる。最後までぶれない、リアムの頑固で真っ直ぐな覚悟を見るようなエンディングだった。(粉川しの)
セットリスト
M1.Flick of the Finger
M2.Face the Crowd
M3.Four Letter Word
M4.Soul Love
M5.Second Bite of the Apple
M6.Iz Rite
M7.Shine a Light
M8.Live Forever
M9.The World's Not Set in Stone
M10.I'm Just Saying
M11.Soon Come Tomorrow
M12.Champagne Supernova
M13.The Roller
M14.Start Anew
M15.Bring the Light
M16.Wigwam
En1.Gimme Shelter