【コラム】髭、2年半ぶりAL『ねむらない』によせて――髭が奏でる「無意味の意味」とは?

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  • 【コラム】髭、2年半ぶりAL『ねむらない』によせて――髭が奏でる「無意味の意味」とは? - クリーミー・レコード

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髭が新たに自主レーベル「クリーミー・レコード」を設立、10月7日に2年半ぶりとなる新作アルバム『ねむらない』をリリースすることを発表した(詳細はこちら:http://ro69.jp/news/detail/129281)。2010年に電撃加入したアイゴンの「勇退」(2013年12月)&長年ドラマーを務めた川崎"フィリポ"裕利の脱退(2014年2月)という大きな転機を経て、須藤寿/宮川トモユキ/斉藤祐樹/佐藤"コテイスイ"康一が『ねむらない』で踏み出した髭の新章。平熱のまま聴き始めたのに気がついたら雲の上的な、雑味の一切ないシンプルな音像が生み出すサイケデリックな開放感――すなわち髭の真骨頂が凝縮された「今」のモードを、すでに公開されている楽曲群からも感じていただけることと思う。

髭『S.S.』(Official Music Video)

髭『なんて素敵でいびつ』"CLUB JASON 2014"

髭『闇をひとつまみ』"CLUB JASON 2014"

一見すると安定飛行そのもののバンドの状況とは裏腹に、髭の歩みは前述のアイゴン勇退&フィリポ脱退以前も緩やかなカオスそのものだった。かつてのプロデューサー=アイゴン加入のみならず奥田民生/川西幸一/土屋昌巳/金子ノブアキが参加、どこからどこまでがメンバーかわからないほどの混沌を描き出した『サンシャイン』(2010年)。そこから一転、メンバー全員が楽曲制作に参加する「6人完結スタイル」で作り上げた、スピードスター→コロムビア移籍第1弾アルバム『それではみなさん良い旅を!』(2011年)。佐藤謙介(踊ってばかりの国)をサポートに迎えたトリプルドラム(!)の7人体制から生み出した、現時点での最新アルバム『QUEENS, DANKE SCHÖN PAPA!』(2013年)……といった具合に、ここ数作はアルバムをリリースするごとにメンバー編成や制作環境を変化させてきたし、その前にも“Acoustic”を40分1曲勝負のトリッピンな音楽世界へ編み上げた『Electric』(2008年)をリリースしてシーンを煙に巻くなど、普通に考えれば「わかりにくいこと」だらけのバンドヒストリーを繰り広げてきた。が、それこそが髭の「わかりやすいことをやるためにわかりにくくなる」という在り方を何より明確に象徴している。

先の見えない長い道程を走る上で、スタートの瞬間のワクワク感をずっと持ち続けるには、同じフォームのままではまず不可能なのと同じように、須藤も自身の初期衝動を抱き続けて前に進むために、「前作と同じ体制で盤石な環境を」とか「前作の延長線上でさらにクオリティの高い作品を」といった「わかりやすい」「安全な」選択肢を丁寧に取り除き、自ら見つけたキラーアンセムの「必勝法」すら自分の手で叩き壊してきた。そして、そんな彼らの「わかりにくい」道程はそのまま、ザ・ロックバンド感もザ・コミックバンド感も「意味ありそうだけど嘘臭いもの」も徹底的に排除した結果、無意味だけどデタラメじゃないリアルなロックになった、という髭の音楽性と地続きのものだ。

とはいえ。バンドという在り方自体にロマンはないがメンバーへのロマンはありまくりの男=須藤にとっては、フィリポの脱退は大きな出来事だったと思う。もともとは宮川に才能を見出されて、宮川&斉藤のいたバンドにヴォーカルとして「拾われた」メンバーであり、後にフィリポが加わりコテイスイが(当初はサポートで)加わり……という流れの中でソングライター/フロントマンとして覚醒していった須藤にとっては、己の中に存在する「空虚という名のカオス」とバランスを取り得る髭という場所は、紛れもないユートピアそのものだったはずだ。『QUEENS〜』リリース時の『ROCKIN'ON JAPAN』誌面のインタヴューで、彼が「実現させてみたいんですよね、『誰も辞めなかったバンド』を」と語っていたのも、まさにそんな気持ちの表れだろう。

だが、そんな変化も乗り越えた今、髭はさらなる至上のメロディとヴァイブを放っている。「ザ・ドアーズのサイケ感」「ニルヴァーナの爆発力」といったデビュー当初の謳い文句すら置き去りにするような次元に今の髭がいることを、上記の楽曲群がはっきりと物語っているのが嬉しい。アルバムはもちろん、2015年11月3日からスタートする「『ねむらない』TOUR」も、今から楽しみで仕方がない。(高橋智樹)
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