【コラム】でんぱ組.inc×浅野いにおのコラボはなぜこんなに「儚い」んだ!? 今、『あした地球がこなごなになっても』を聴く意味

【コラム】でんぱ組.inc×浅野いにおのコラボはなぜこんなに「儚い」んだ!? 今、『あした地球がこなごなになっても』を聴く意味

9月16日に発売になったばかりのでんぱ組.incの最新シングル『あした地球がこなごなになっても』。このシングルが漫画家・浅野いにおとのコラボであることは、7月の「かがやきツアー」で早くから発表されていたため、長らく楽しみにしていたファンも多いと思う。メンバーのえいたそ(成瀬瑛美)は、浅野いにおの『ソラニン』が大好きで、「モーレツに感情移入してしまいハマりまくって一人で何回も何回も聖地巡礼に行きまくった」と、過去にブログでも語っているように、大ファンであることを公言している。でんぱ組.incと浅野いにお、おそらく、両方好きだというファンはとても多いと思うのだが、この両者にシンパシーを感じる理由って何なのだろう。

『あした地球がこなごなになっても』

このタイトルの言葉だけが、7月にインプットされたとき、まず思ったのは「でんぱ組.incらしい」ということだった。『あした地球がこなごなになっても』。このあとに継ぐ言葉としてファンが思い描いたのは、「それでも一生懸命生きる」「それでも歌う」というような、でんぱ組.incのメンバーが言ってくれそうな、というか、言ってほしいと期待する頼もしい言葉だったはずだ。なんとなく曲調も想像したりして。畳み掛けるような、背中を押してくれるような、今日を生きる勇気をくれるような、いつものでんぱ組.incらしい力強い楽曲なのかな、と。

浅野いにおは作詞を手がけるにあたって、事前にメンバーにインタヴューをしている。そこで出てきた回答から、メンバーのソロパートも含め、できあがったのがこの曲の歌詞だという。その中に、「明日もし地球が粉々になるとしたらどうする?」という項目もあり、りさちー(相沢梨紗)とピンキー!(藤咲彩音)は想像したとおり「ライヴをしたい」と回答(B.L.T.10月号に掲載のでんぱ組.incインタヴュー参照)。それを踏まえても、「逆境でも最後まで前を向いて生きる」というようなポジティヴな楽曲を想像するのは、至極当然かと思う。しかし。

浅野いにおの作品に触れたことのある人ならわかると思うが、人間の、ある一面だけに照明を当てるような描き方は絶対にしない作家である。他人に見えている自分、他人に見せない自分、自分ひとりで抱える感情、自分でさえも持て余す感情、それらがないまぜになって、人生はやりきれないことの連続だったり、時に理由のわからない選択をして激しく後悔したりする。いま、浅野いにおの漫画作品が性別、年齢に関わらず多くの人の心を捉えるのは、そんな複雑な感情の上に成り立っている日常を驚くほどリアルに描いているからだと思う。でんぱ組.incメンバーへのインタヴューにしても、きっと、その受け答えのウラにいろいろなものを感じ取ったはずで、メンバーそれぞれが持つパーソナリティーは、大いに浅野いにおの創作意欲をかき立てたはずだ。前向きな強い意志の裏にある臆病さ、強い光を放つほど自分の中に濃くなる影。でんぱ組.incの中に見え隠れする、そうした危うさこそがこのグループの魅力であり、ファンはそこに共感する。つまり、オモテには表れにくい、できれば隠しておきたい部分。浅野いにおの描く世界とでんぱ組.incが共鳴するのはそこなのだと思う。

できあがった楽曲は、予想していたようなストレートにパワフルな曲ではなかった。しかし、私は、彼女たちの過去最高の作品、いまでんぱ組.incにしか表現できない最高のポップソングに仕上がっていると思う。

《「ここへおいで/君がいるなら/たとえ世界が終わる日も/理不尽も矛盾も抱きしめて/最高のステージ見せてやる/360°あおぞらに浮かんで/たゆたって宇宙船つかまえにいこう/きっと約束だよ/約束だよお願い」》

一見、予想した通りのいじらしくキュートな歌詞だが、《約束だよ》と念を押さなければ自分が不安でダメになってしまう、そんなすごく微妙で繊細な気持ちは、この両者のコラボでなければ表現できなかったものだろう。最後の《お願い》のリフレイン。この儚さ。ぜひ、すべての歌詞をじっくり堪能してほしい(ジャケットも!)(杉浦美恵)
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