【コラム】銀杏BOYZ、ふたつの“生きたい”が描く峯田の「罪と罰」
2016.05.04 17:00
リリースから1ヵ月以上経つが、こんなライヴ映像作品観たことがない、という衝撃がまるで冷めることがない。初の公式ライヴ映像作品として3月16日にリリースされた『愛地獄』は、確かに銀杏BOYZの「ライヴ」を収めた作品ではあるのだが、衝動の化身の如き峯田和伸のエネルギーやメンバーの表情が「楽曲」や「音楽」を遥かに凌駕する速度と切迫感をもって頭と心を撃ち抜いてくるし、それと同じくらいカメラは泣き笑いに満ちたオーディエンスの情熱に正確にフォーカスを合わせている。ともすれば峯田の絶唱にも劣らない音量で観客の歌声と叫びが鳴り渡り、魂と魂がせめぎ合う怒濤の狂騒感……銀杏BOYZという唯一無二のバンドにしか描き出せない風景だけでできた世界が、DVD/Blu-rayの2枚組・4時間半にわたって収録されている、凄絶な作品だ。
ご存知の通り、2014年1月リリースのアルバム『光のなかに立っていてね』制作時にチン中村&安孫子真哉が、完成後に村井守が脱退、現状メンバーは峯田和伸ひとりとなってしまった銀杏BOYZ。「RISING SUN ROCK FESTIVAL」出演時の4人のステージ(2008年8月)、メンバー3人脱退後に福島・club SONICいわきで行われた峯田ひとりライヴ(2015年9月)、結果的に4人最後のライヴとなった「スメルズ・ライク・ア・ヴァージン・ツアー」の最終日=盛岡CLUB CHANGE WAVE公演(2011年7月)をそれぞれノーカットで収録している今作『愛地獄』に、ライヴ映像作品につきものの舞台裏密着的なドキュメンタリー映像が収められていないのも無理はない。燃え盛る激情を突き上げる観客の前で、銀杏BOYZが、峯田が持てる全精力を一瞬一瞬完全燃焼させる姿以上にリアルなドキュメントなど、到底成立させようがないからだ。
「この十何年の銀杏BOYZを取り巻く状況とか、自分たちのせいでもあるんですけど、お客さんから求められる、だからそこで力抜いちゃうと食われちゃうからこっちも気を張ってる。それが相乗効果になって、どんどん変なことになっていってるのはわかってたんですね。それはもちろん愛という名のもとに『好きだよ』っていうか、でも中心にいる俺らからするとそれがすごく苦しい時期もあって」
バンドを巡る熾烈な環境と『愛地獄』という題名について、峯田は『ROCKIN'ON JAPAN』5月号のインタヴューでそう語っていた。前作から実に9年の時を経て生まれたアルバム『光のなかに立っていてね』のリリース前に発表された、「今作品の完成を目前にして私は力尽きてしまい」(安孫子)、「銀杏BOYZでいるための力を使い果たしました」(中村)という驚くほど赤裸々なコメントからは、単に「銀杏BOYZの音楽を作り鳴らすこと」のみならず「銀杏BOYZへの途方もない愛を受け止めること」の重圧がまざまざと窺える。『愛地獄』に極厚ブックレットとして同梱されたファン1500人分のコメント=愛こそが、バンドを突き動かす原動力でもあり、同時にバンドを追い詰める業でもあった――という残酷な構図を思うと、堪え難く胸が苦しくなる。
そんな『愛地獄』の中で、ひときわ切実に、全身痺れるような緊迫感で観る者を捉えて離さないのが、峯田がたったひとりアコギ弾き語りで披露している“生きたい”――“人間”“光”に続く三部作の完結編として、去る4月13日にシングルとしてリリースされた、15分超のあの曲だ。《僕は罪のようなものを 感じるのです。/何もしていないと 言い聞かせても。》《僕は僕を罰しなければと。/「おまえは間違っている」。》……東日本大震災後の心情と空気感に峯田なりに向き合おうとした歌に、期せずして自分自身の状況が重なり合い、4年がかりで結実した“生きたい”。苦悶と慟哭と祈りが渾然一体となったような、悲壮なまでの迫力に満ちた言葉と波動が、フロアの熱気越しに観ている僕らの心をびりびりと震わせていく。
一方、シングル表題曲としてレコーディングされた“生きたい”。峯田の歌とアコギに加え、山本幹宗(G)/藤原寛(B)/後藤大樹(Dr)/川田瑠夏(Piano)/荒井優作(Prog)といったサポート陣によるアンサンブルを得て、美しく激しく厳粛な「うた」として、改めて己への断罪を具現化してみせている。
銀杏BOYZ - 生きたい(MV)
すべてを背負った上でなお、峯田は《生きたくってさ。/生きたくってさ。/生きたくってさ。/愛するもののために。愛するがゆえに。/そうやって生まれた罪に/こうやって歌うんです。》と「今」の想いを突き上げている。いや、彼がさらにその先へ進むために、自分自身が楽曲という形を与えた「罪と罰」とその果ての孤独を、新たなスタートラインとして自ら踏み越えていくことが不可欠だったのだろう。ここから峯田和伸は、まったく新しい銀杏BOYZの物語を紡いでいくに違いない――“生きたい”の狂おしくメロディアスな咆哮は、そんな予感を確かに伝えてくれる。(高橋智樹)