【コラム】尾崎豊を「受け継ぐ」――天性の声を持つ尾崎裕哉の新曲を聴いた

【コラム】尾崎豊を「受け継ぐ」――天性の声を持つ尾崎裕哉の新曲を聴いた

尾崎裕哉を語る時、亡き父・尾崎豊の名を避けて語ることはできないだろう。今年7月、テレビの音楽番組で尾崎豊の絶対的名曲“I LOVE YOU”のカバーを披露した時、その父親ゆずりの力強く繊細な歌唱力に誰もが驚いたことだろう。彼が父と同じく表現者としての道を選んだこと、それと同時に、自身の歌に父の存在を重ねられるであろうことを忌避も否定もせず受け入れた、その堂々たる佇まいに、尾崎豊を愛してやまない多くの音楽ファンは感嘆の声を上げたのだ。

実は、尾崎裕哉は2004年、彼がまだ14歳の時に、尾崎豊のトリビュートアルバム『BLUE』に、Crouching Boysなるユニット名で参加、“15の夜”を披露している。しかしここでは、原曲は新たな解釈で再構築され、裕哉は英語のポエトリーリーディングという形を取った(非常に実験的なこのカバー、機会があればぜひ聴いてみてほしい)。そして2016年の現在、父の楽曲に正面から向き合う尾崎裕哉がいる。もちろんそこに至るまでの逡巡や葛藤は我々の想像以上であったはずだ。しかし彼はすべてを受け入れた。

初の音源リリースとなった“始まりの街”は、父の不在と、不在であるがゆえにその存在の大きさに向き合うことをあらかじめ定められてしまった彼の人生が、ずっと母とともにあったことを歌にしている。《僕は幸せさ/これまでもこれからも》と、多くの思いが通り過ぎた後に残るごく純粋な感情を、これ以上はないほど率直な言葉で綴るところにも、切ないラブソングに“I LOVE YOU”というシンプルで剥き出しの言葉を選んだ尾崎豊の面影が重なる。作詞・作曲はもちろん本人の手によるもの。そして編曲を担当したTOMI YOは、先に挙げたCrouching Boys時代からの裕哉の盟友でもある。そのアレンジはシンガー・尾崎裕哉としてのスタートをセレブレイトするかのように温かくシンプルに美しい。

それにつけても、彼のボーカル、天性の声の魅力である。やはり尾崎豊の声によく似ている。「似ている」というよりも、「受け継いだ」と言っていいだろう。それを本人が自覚し、そこから逃げることなく向き合ったからこそ、この歌は強い。何ひとつ飾ることのない言葉で、彼だけが伝えられる思いがあることを彼は悟ったのだ。

《遠い空から見守っている きっと》と結ばれるエンディングは、父への呼びかけのようにも響く。その歌声は気高く、どこまでも深い肯定感に満ち溢れている。(杉浦美恵)

(ROCKIN'ON JAPAN 2016年11月号より転載)
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