「まあ、心中するならバラードとでしょうね」――back number清水依与吏が明かす「絶対にバラード」の理由とは?

「まあ、心中するならバラードとでしょうね」――back number清水依与吏が明かす「絶対にバラード」の理由とは? - photo by 森嶋夕貴photo by 森嶋夕貴

もう死ぬよ、最後に1曲何書く?って言われたら、たぶんバラードを書きますね。

――“ハッピーエンド”、またしても名バラードができました。

「ありがとうございます」

――ここのところバラードがシングルとしては続いてますね。

「言うても注文を受けて、受注生産みたいなとこありますからね」

――それ、ずっと言ってるね(笑)。

「はい。だから受けたものに対してのカウンターアタック感はやっぱ強いんですけど、今回は今の自分がやりたいことを結構やった感じですね。カウンターアタックじゃなくて、なるべく今の自分たちが、あえて言うなら今の自分がやりたいと思えることを突き進めるから、そこに乗っかってもらいたいっていう意識が強かった気がします。やっぱり『シャンデリア』っていうアルバムは自分の中で小さいことじゃないみたいで。大きな影響があったんですよね。それにひと通り翻弄されて。落ち着いて音楽のことだけを考えた時に、そういう自我がすごい残ってて、じゃあそれをどの方向に向けるかみたいな。ものすごい振りかざすこともできるなと思ったんですよ、ここまでくると。ある種、横暴にっていうか、レコード会社にも、制作チームにも――」

――まあ、それだけのものをやってきたっていう自負もあるし。

「そう。でもやっぱそれダサいって思ってる自分がいたんで、だったらもう自分が思うかっこいいことをもう1回やろうよって。1回ガンッてそこに直球を投げるだけのエネルギーが必要だぞって。だから今までのタイアップのものとはまたちょっと違うんです。同じことやりたいと思えないんで、もう」

――「受注生産」という形で“クリスマスソング”も“僕の名前を”とか“SISTER”も生まれて。でもそれも結果的にその時々の清水依与吏やback numberを表すものになっていたわけだけれども。そうじゃなくて、今回はもうちょっと自分の中にあるものを積極的に――。

「そうですね。特に歌詞かな。歌詞は自分と向き合うことになるんで。すっげえ失恋の曲やりたかったんだと思うんですよね(笑)。結構久しぶりですよ、ゴリゴリの失恋をシングルにするのなんて」

――“ハッピーエンド”にはback numberの本当の意味での王道が詰まっていて。バラードであり、女性目線であり、失恋の歌でありっていう。すごく本質的な曲ですよね。

「確かに」

――そういうタイミングなので、今日は改めて清水依与吏にとってバラードとは何なのか、もっと言えばなぜ清水依与吏はバラードにすべてを懸けるのか、ということを訊きたいと思います。バラードは好きですか?

「まあ、もし心中するならバラードとでしょうね。アップテンポの曲とは死ねないっすよね。俺の中でテンポが速い曲って、お客さんがいないと成立しないっていうか。でもバラードは誰も聴いていなくても、ひとりでも成立するみたいな――吐き出すのに一番体が動かないから、本当に心が震えてないと誰にも届かない。もう死ぬよ、最後に1曲何書く?って言われたら、たぶんバラードを書きますね」

――バラードは誰も聴いてなくても成立するって言ったけど、back numberのバラードに出てくる主人公はことごとく「ひとり」だよね。

「ああ、そうですねえ。俺できないんですよ、バラードで幸せ者っていうのが。“僕の名前を”とかがギリですね。あれもでも、結局ふたりでいるって感じじゃないし」

――そうだよね。だからバラードって何かというと、すごく独り言というか。壮大な独り言(笑)。

「そうですね、壮大なサウンドに乗せてお送りする愚痴、みたいな(笑)」

――back numberのバラードということで“ハッピーエンド”を聴いてまず思い浮かんだのが“fish”なんですけど、あの曲には「さよなら」っていうのがキーワードとしてありましたね。でも最後に《あなたがここに帰ってきますように》って歌ってる。さよならできてないじゃないかっていう。

「グッズグズにもう――すごい好きですからね。あの曲で言いたいのは、さよならじゃないんです、好きだってことなんですよ(笑)」

――そうそう。“ハッピーエンド”でも主人公は「さよなら」って言うじゃないですか。最初はそれが言えなくて「ありがとう」と言うんだけど、最後にようやく「さよなら」って言う。でもその前には「嘘だよ」って言葉がつく。《今すぐに抱きしめて》《もう離さないで》《なんてね 嘘だよ さよなら》。“fish”とは逆に、自分の気持ちに蓋をしていくっていう。

「そうですね。それが俺自身かどうかはわからないですけど、寂しい成長の仕方はしたというか。強さとか優しさみたいなものを履き違えてるわけじゃないんだけど、主人公に対してこんな強がり方しなくていいのにとか、それって誰に対しての優しさなんだろうって聴いた人たちがそう思う気がするんですよね。俺自身もそう思うんで。“fish”の時より年齢が少し高くなって処世術を覚えてしまった、だからこその寂しさとか悲しさがあるなあと」


『シャンデリア』で息切れした感じになっちゃうのが自分の中で嫌で。自分にもう1回売れたいと思って欲しいって思ったんですよ。

――12月に出るベスト盤を挟んで、back numberがどこに行くのかっていうのも非常に気になるんだけれども。この必殺技をこの強さでぶっ放せるっていうのは、ある種の黄金時代みたいなものがその先に待っているのではないかって感じがしますよね。

「そうですね。『シャンデリア』で息切れした感じになっちゃうのが自分の中で嫌で。あえて言葉を選ばないんだったら、自分にもう1回売れたいと思って欲しいって思ったんですよ。売れたいと思ってくれねえかな、俺っていう。だけど全然思ってねえっていう(笑)。だいたいアルバムとか枚数がいくと、かかりがちの流行り病だと思うんですけど。でももう、今普通に――いつぐらいのメンタルなんだろう? 『ラブストーリー』の時のメンタルじゃないっすね。もっと本当にインディーズ、メジャーデビューの時ぐらいの、売れてえーっていう感じがあって」

――そういう意味でも、レベルアップした必殺技としての“ハッピーエンド”だと思います。素晴らしいと思います。

「いやあ、嬉しいっすわ。この3曲は自分でも忘れられないシングルになると思いますよ。このタイミングでこれが書けたっていうのはプライドとの戦いでもあったんで。ベスト前のシングルなんて誰が買うんだ選手権の」

――はははは!

「ベストが出るってわかってて大ファンの人しか買わないかもしれないし、誰も聴いてくれないかもしれないけど、でもそこで自己ベストを出すっていう美学というか」

――いや、まあ売れると思うけどね。

「この1、2、3曲は鬼ルーティーンで大丈夫ですね、自分の中で。同世代の奴らと相まみえる時に、誰々いいねって思ったり、応援してるよって握手するときって、おめえらなんかより俺たちのほうがかっこいいぞって思ってないと、笑えない気がするんですよ。負けたくないし。でも、誰に負けたくないっていったら、やっぱり一番は自分の感覚。これでしょっていうものを出せないっていう時に、負けたなって思いますから。そういうものが書けるんで、このタイミングですごいやれたのは良かったです」


テキスト=小川智宏

『ROCKIN'ON JAPAN』2016年12月号より一部抜粋
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