弱さを肯定するところからこの曲は始まりました
――“平行線”は『クズの本懐』のアニメとドラマのエンディングテーマではあるんですけど、さユりさんが突き詰めていきたいテーマを自分自身で言い当てたような曲でもある気がして。
「はい」
――この曲はどういうふうに生まれていったんですか?
「『平行線』っていう言葉というかモチーフは、ずいぶん前から私の中に大切なキーワードとしてあったんですけど。それが今回のお話をいただいて、うまく繋がって、書き進めていったっていう感じですね。《平行線で交わろう》っていうのは、自分が歌う上で大事な言葉だなって思いながら作りました」
――最終的にはほぼ平行のまま永遠に交わらないっていうグラフを思い出すんですけど。そういう理屈すらも《太陽系を抜け出して》っていうイメージの力で越えていく、みたいなスケール感がある曲ですよね。
「《太陽系を抜け出して》っていうのは――平行線っていうのが自分の中で好きだったので、何かのサイトか記事かで調べていたんだと思うんですけど。平行線が交わらないっていうのは太陽系の中での話で。その外に行けばその概念だってなくなる、っていうのを見て『ああ、そうか』って思って。自分の中で新しい視点ができて、すごく感動したというか。あとは無限遠点っていう――平行線も、ものすごい遠いところに点を置いたらそこで交わるっていう説があるらしくて。そういうのって面白いなと思って。希望が持てたというか……それなら平行線のままでもいいじゃないかって思ったし、弱い自分を肯定する言葉にもなったし。自分の中で大きな発見でしたね」
――《君の唇から零れだす 言葉になりたい》っていうフレーズは、今の気分の核心を突いてる気がするんですよね。自分の歌を聴いてほしいだけではなくて、その歌った言葉が聴いてくれる人の中で生きてほしいっていう。
「嬉しいです。そこはすごく、自分の中でも大切な1行です。自分の肉体がなくても、言った言葉が人に伝わって、伝わって――それって生きることだなって思って。だから、いろんなところに行けるっていうか。それこそ太陽系も抜け出せるんじゃないかとか……前に“アノニマス”の時にも言ったんですけど、巡り巡っていく感じが大切だなって思って」
――この曲ができた時は、ご自身でも手応えがあったんじゃないかと思うんですけども。
「そうですね、手応え……かっこいい曲できたなって思いました(笑)。でも、ものすごくわかりやすいわけじゃないから――アニメがあることで、いい形で言葉が伝わりやすくなったのかなっていう、そういう部分での手応えはありました」
――これまでの曲も含めて、「自分の気持ちを言い切れた」みたいな達成感っていうものはあるんですか?
「歌詞に関してはあまり……その時その瞬間の達成感はなくて。メロディとかに関しては、『あ、今のはすごく好きなメロディだ!』って一瞬一瞬嬉しいんですけど、歌詞は意外と、時間が経って冷静になってから『あ、いいかも』って思ったりしますね」
――ソングライターとしての達成感、満足感はあるけど、そこに託した言葉に関してはある意味、お客さんに届いてひとりひとりの中に「入った」っていう実感があって初めて、そこで完成するのかもしれないですね。
「それはありますね。ひとりだったら、口にする必要がないから。届いて初めて『あ、ちゃんと伝わる言葉なんだ』って思えたりしますね」
――《勇気がないのは時代のせいにしてしまえばいい》の部分が、2コーラス目では《勇気がないのは電子のせいにしてしまえばいい》っていう。
「(笑)。電子って、何を想像します?」
――えーと……一番イメージしやすいのは「電子機器」ですけどね。
「ああ、そっち派が多いですね(笑)。身体を構成する物質の中の電子を想像して書きました」
――なるほどね。勇気がないのは人間としての弱さによるものじゃなくて、もともと身体に備わっているものなんだよっていう。
「そうです」
――それはすごいメッセージだし、新しいですよね。「電子のせいに」っていうのはするっと出てきた言葉ですか?
「するっと……そうですね。『何のせいにしようかな』って、いくつか候補はあったんですけど。『そうか、電子だ』って思って(笑)。身体って本来、傷つきたくないようにできてるから、当たり前なんだよって――きっとそういう言葉を言ってほしかったのかな、って思ったりして」
最近、「酸欠」っていう言葉がお守りみたいになってたりするのかな
――「歌で救いになっていく」存在になりつつあるんだなあっていうのを、この“平行線”は確かに感じさせる曲ですよね。さユりさんの歌を必要としてる人はまだまだたくさんいるはずだなあと思いますね。
「安心します。未知なところもあるので、どこまで届く言葉をこれから歌っていけるのかっていう――でも、意志はもちろんあって。みんなはどうなんだろう?っていうのを探りながら、っていう感じですね。同世代に届いてほしいのはもちろんですけど、でも、そういうことじゃなくて。学生、主婦、会社員……どんな場所にいる人にでも、どんなものを信じてる人にでも届いてほしいっていうのはすごくあるし。でも最近、ファンの方が苦しい時に、その時の状態のことを『酸欠』って言ってるのを見て、それもちょっといいのかなって思いました。そういう時って、もしかしたら『死にたい』っていう言葉を使う場面なのかもしれないですけど、そこに『酸欠』っていう言葉があることで、ちょっとライトになったり、それがお守りみたいになってたりするのかなって……酸欠少女でよかったと思いました。自分にしか歌えない歌が、言葉がもう少しあるのかなって。でも、それは最近ですね。少しずつわかってきた気がします。自分が経験してきたことが無駄にならないように、誰かの言葉になるように、歌にしていきたいなって――最近ようやく言語化できました」
――デビュー曲の『ミカヅキ』くらいまではまだ必死にもがいてた感じ?
「その先のこととか、それが誰かに何かをもたらすっていうことまでは、そんなに考えてはなかったけど……メジャーデビューして、聴いてもらえて、さっき言った《言葉になりたい》っていうところで――言葉がどんどん伝わっていくって素敵じゃん、って」
――《醜い星の子ミカヅキ》って歌ってたその頃だったら、《君の苦しみを切り裂ける光になりたい》っていう強いフレーズは出てこなかったでしょうからね。でも、そうやってもがいている姿そのものが、聴いてる人の希望であり光になっていくんだっていうことが、だんだんわかってきたんだろうなあと思うんですけどね。
「そうですね。そんなふうに客観的に見たことはなかったし。でも、苦しんでいる姿が、それだけでもいつか誰かの救いになるっていうことがわかったから。いつかすべてに意味が生まれるっていうことは、大きく伝えたいメッセージだなって思ってます。同じように苦しんでる子たちとかファンの方とか、『なんのために苦しむんだろう?』って悩んでるのを見て――きっといつか意味が生まれるし、生きてることだけで、いつか遠いところで、もしかしたら誰かが救われることがある、っていうことがわかったっていうか」
――アルバムで「世界観を作っていく」ことに対しての想いはありますか?
「ありますね。アルバムって今まで作ったことないんで、すごくやってみたいって思ってます。音楽が好きなんだなって、最近すごく痛感したんですけど……好きであるがゆえに、自分の技量が追いつかない苦しさもあるんで。でも、それがあるっていうことは、たぶんもっといろんな曲を作れると思うし。苦しいけど、どこまで行けるのかなっていうのは楽しみたいですね。今は必死すぎて、目の前のことしか見えてないんですけど、未来があるんだっていうことが、やっと最近わかったっていうか。『ああ、ちゃんと未来あるじゃん』って思って。なので――最近はすごく、未来を描きます」
――その変化は大きいですね。
「大きいです。あと、自分の声をどう使っていこうかなみたいなところを……ずっと私、自分の声にひとつも特徴がないって思っていて。“フラレガイガール”で『声が個性的』って褒めてもらえることがあって……『あ、全然客観視できてなかったんだ』って恥ずかしながら思って。自分の声ともうちょっと向き合って、どんな表現ができるのかっていうのは、ちょっとずつ考えていこうかなと思っているところですね」
インタビュー=高橋智樹、撮影=中川麻梨花
『ROCKIN'ON JAPAN』2017年4月号より一部抜粋