【本日リリ-ス】新作『XXL』が証明した岡崎体育はまだまだデカくなるということ

【本日リリ-ス】新作『XXL』が証明した岡崎体育はまだまだデカくなるということ - 『XXL』通常盤『XXL』通常盤
“鴨川等間隔”である。2017年6月14日(水)にリリースされた、岡崎体育メジャー2作目のアルバム『XXL』について思うとき、どうしてもこの曲のことから書き出さなければならない。せっかくのニューアルバムだし、まっさらな新曲も収められているのになぜ? と思う人はたくさんいるだろう。というのも、この曲のオリジナルバージョンは彼のメジャー進出前から存在しており、2013年にはMVも公開された(現時点で80万PV以上を記録)、熱心なファンにとってはお馴染みであるはずの1曲だからだ。
本人がこうツイートしていたくらいなので、良しとしてもらいたい。恥の上塗りになることを承知で書くが、僕がこの曲の存在に気づいたのは今から1年ちょいぐらい前の話で、思いっきり胸を打たれてしまった。正確に言うとボロ泣きした。歌詞の言葉選びの巧みさ、価値観を明確に伝える自己表現の精度の高さ、そして秀逸な曲調に後押しされる感情の昂りまで、どこをとっても素晴らしいロックの名曲である。正義の味方でも伝説の勇者でも白馬に乗った王子様でもないやつがあなたを救う方法。ロックの名曲とはそういうものだ。

前作『BASIN TECHNO』に収録された“FRIENDS”でも明らかなように、岡崎体育はバンドという活動形態に対し、強い憧れとも、それを拗らせた結果のコンプレックスとも取れる、入り組んだ愛情を受け止めさせてきた。『XXL』というアルバムは、彼のそんなバンドへの愛が根底に流れている作品だ。アルバムに先がけてMVが公開されてきた“感情のピクセル”や“Natural Lips”は、岡崎体育らしい笑いのフィルター(ふざけないと恥ずかしいのだと思う)を通してはいるものの、彼の音楽の博識ぶりとソングライティングの確かさをバンドサウンドに近い形で発揮させていた。



雑食性豊かな盆地テクノ(BASIN TECHNO)の笑い泣き街道を突き進む『XXL』だが、後半の8曲目“観察日記”辺りから岡崎体育の隠しきれないウェットな情緒がむき出しになってくる。“Snack”と“鴨川等間隔”はいずれもインディーズ時代からの楽曲のリメイクで、ギターは長きにわたるコラボレーターのクズノ(the PARTYS/WEIRD)、ベースに向井真吾(NEVERLAND/WEIRD)、ドラムスにやまと(スノーマン)という奈良シーンの顔ぶれが参加するバンドサウンドとなった。

岡崎体育のバンドへの思いは計り知れないけれど、「もっといいものを作りたい。面白いものを作りたい」という表現姿勢の選択肢として今回のリメイクがあり、それを実現するためにはキャリアの成功が必要不可欠だった。“感情のピクセル”におけるPABLO(Pay money To my Pain)の参加、また“Natural Lips”でのレイ・パーカー・ジュニアやジェリー・バーンズといったファンク/フュージョン界の怪物たちによる驚愕の活躍に負けず劣らず、岡崎体育自身が大きな達成感を抱いているはずのリメイクなのである。


そして、アルバム『XXL』を締め括るのはリリース前夜にMVが公開された“式”。一口には語りきれない詩情を宿した美しいナンバーだ。それは想像力に満ち溢れ、とても哀しく、優しい。長い人生のブルースを見据えたこの曲の普遍性は、これまでのロックソングが救えなかった人々を救い得るものだ。才能を明らかにするために仕組まれた新作MVの三段落としも、見事というより他になかった。時折「おれ、芸人じゃないしなあ……」とボソリ呟いてきた彼の言葉の真意を、我々は今後も事あるごとに思い知らされるだろう。(小池宏和)

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