『OK コンピューター』誕生の年、1997年の特別さを示すUKの傑作アルバム10枚!

MOGWAI / モグワイ・ヤング・チーム

『OK コンピューター』誕生の年、1997年の特別さを示すUKの傑作アルバム10枚!

1997年のUKシーンで特筆すべき傾向として挙げられるのが、「地方の逆襲」とでも呼ぶべきローカル・バンドの躍進が目立ったことだ。それは大手レーベルが牛耳るロンドン中央集権型のブリットポップへの反逆であり、DIYな姿勢であり、アンチ・イングランドの気運でもあった。
その象徴的な一枚が、モグワイのデビュー・アルバムである本作だ。寄せては返す大波のような轟音と静寂のコントラストで生み出される彼らのポスト・ロックは、ブリットポップとあまりにも対照的だった。ちなみに1997年には同じくグラスゴーからこちらもエポックな一作、ベル・アンド・セバスチャンの『天使のため息』もリリースされている。

Mogwai - Like Herod | Live in Sydney | Moshcam


SUPER FURRY ANIMALS / ラジエイター

『OK コンピューター』誕生の年、1997年の特別さを示すUKの傑作アルバム10枚!

そんなグラスゴーのスコットランド勢に対して、ウェールズからの進撃となったのがスーパー・ファーリー・アニマルズのこのセカンド・アルバム。
デビュー・アルバム『ファジー・ロジック』(1996)の頃は「オアシスに続くクリエイションの大型新人」という触れ込みもあり、ブリットポップの枝葉的な捉え方もされていた彼らだが、プログレやサイケデリック、バロックにソフト・ロックと一気にごった煮な多様性と柔軟性を持ち合わせた本作は、彼らがまったく別の幹から伸びた枝であったことを証明した。ブリットポップが失った革新としての「ポップ」は、新たにここで花開いたのだ。

https://youtu.be/X7ppvVsELog
Super Furry Animals - Demons (Live 2009)


THE VERVE / アーバン・ヒムズ

『OK コンピューター』誕生の年、1997年の特別さを示すUKの傑作アルバム10枚!

ザ・ヴァーヴの本作は、いくつかの意味で「ズレた」傑作だった。ブリットポップ最盛期の1995年に解散し、ブリットポップ終焉の年に奇跡の大復活を遂げるという時代との逆行も凄いが、かつては破滅的ダーク・サイケの深淵で身投げしかかっていた彼らが、復活と同時にストリングスやピアノを大胆にフィーチャーして作り上げてしまったのが、ザ・ヴァーヴ史上最も、そして唯一のメロディ・オリエンテッドなポップ・アルバムである本作なのだ。
傍若無人に他人を突き飛ばしながらリチャード・アシュクロフトが独りズンズン歩く“Bitter Sweet Symphony”のMVも、回りのギター・バンドがバタバタ倒れる荒野でいきなり鳴った凱歌として完璧だった。

The Verve - Bitter Sweet Symphony


SPIRITUALIZED / 宇宙遊泳

『OK コンピューター』誕生の年、1997年の特別さを示すUKの傑作アルバム10枚!

もしスピリチュアライズドのこのアルバムが1995年にリリースされていたら、ここまで商業的にも批評的にも成功した作品にはならなかっただろう。祭りの後の喪失感と厭世感が漂い、そこに世紀末の影がじわじわ迫り始めていた1997年だからこそ生まれ、時代とマッチしたアルバムであり、その点で『OK コンピューター』に近い役割を果たした一作だと言える。
ドラッグとアルコールに頭の先まで浸かりきった狂人時代のジェイソン・ピアースが、失った愛を宇宙の彼方のサイケデリックと足下で歪み滲み出すブルース、そしてロックンロールに託し昇華した、まさに彼自身とUKシーンの終末期が生んだ最高傑作だ。

Spiritualized - Come Together


PORTISHEAD / ポーティスヘッド

『OK コンピューター』誕生の年、1997年の特別さを示すUKの傑作アルバム10枚!

ポーティスヘッドマッシヴ・アタックによるトリップホップは、1994年に最初のピークを迎えている。つまりそれはブリットポップと平行していたムーヴメントということで、たとえばカサビアンのサージが「俺はブリットポップで育った」と言うのも、オアシスとポーティスヘッドが共存していた刺激的な数年間としてブリットポップを捉えているからだ。
そしてトリップホップは1997年の本作によってさらに濃く、暗く深化し、極限の精神状態にあったという当時のベス・ギボンズの身を切るような声の切迫感が、トリッピーなムードの柔さを打ち消す肉体とリアリティを与えている。トリップホップが現在のポスト・ダブステップ、ベース・ミュージックまで脈々と受け継がれるエッセンスとなったのは、本作があってこそだ。

Portishead – Only You


SQUAREPUSHER / ハード・ノーマル・ダディ

『OK コンピューター』誕生の年、1997年の特別さを示すUKの傑作アルバム10枚!

最後に選んだスクエアプッシャーの本作は、上記の9枚のアルバムとは意味も、実際の聞こえ方もまったく異なる作品だ。ワープ移籍第一作、現在に至る彼の出発点と言ってもいい『ハード・ノーマル・ダディ』には、20年後の今聴いても「1997年」という時代性がどこにも見当たらない、まるでオーパーツのような「発見された未来」のアルバムだ。
ジャズとブレイクビーツを二本柱に、アナログの限界とデジタルの先入観に挑み続けるトーマス・ジェンキンソンの本作の方法論は、今も、いや今こそ、そこかしこで試されるスタンダードとなっている。でも、本作が1997年にリリースされていたからこそ、3年後に『キッドA』は生まれたのだ。

Squarepusher - Beep Street

(粉川しの)
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