CHAIは「かわいい」の概念を本気で覆しうる――彗星の如く現れた「NEOかわいいバンド」について思うこと

CHAIは「かわいい」の概念を本気で覆しうる――彗星の如く現れた「NEOかわいいバンド」について思うこと
最近多くの音楽ファンが目にしているであろう、ピンク色の4人組。最近多くの音楽ファンが耳にしているであろう、「NEOかわいい」というワード。最近多くの音楽ファンが口にしているであろう、「CHAIヤバい」という言葉。

今年の冒頭から「SXSW」出演&全米8都市ツアー開催をやり遂げ、その後「FUJI ROCK FESTIVAL '17」の「ROOKIE A GO-GO」に出演。そして秋冬にはワンマン公演即完のリリースツアーを行い、スピッツのレギュラーイベント「新木場サンセット」に参加――。活動開始からまもなくして、いきなり大舞台に立つ存在となった、恐るべき実力と人気を誇る「NEO - ニュー・エキサイト・オンナバンド」。それがCHAIだ。


マナ(Vo・Key)とカナ(Vo・G)の双子に、ユウキ(B・Cho)、ユナ(Dr・Cho)のリズム隊が加わったこの4人組バンドは、「NEOかわいい」、「コンプレックスはアートなり」というコンセプトを掲げて音楽活動を行っている。これらの言葉が意味するところは、「『かわいい』の概念をひっくり返す」ということだ。

一重まぶたよりも二重まぶたの方がいい、太っている体型より痩せている体型の方がいい……女性はいつの時代からか、勝手に構築されていた「かわいい」の枠に無理矢理その心身を当てはめようとし、その枠から外れた部分を「コンプレックス」と呼んできた。CHAIはその固定観念の存在自体を疑問に思い、音楽という武器を手に、それをぶち壊そうとしている。


たとえば上に挙げた新曲“N.E.O.”では、「全部同じ顔なんて変、そのままが誰よりもかわいい!」、「目がちっちゃくても鼻が低くてもくびれてなくても脚が太くてもナイスバディ!」という旨のリリックが乱射されている。「なんでみんな一種類の『かわいい』ばかり目指してしまうの? 『かわいい』はその人の分だけあるのに」――おそらくCHAIが訴えたいのは、そんなピュアな疑問と、「自分が持っているものに気づけよ!」という思いなのだろう。彼女たちにしてみれば、かわいいは「つくれる」ものではなく、「(みんなすでに)なっている」ものなのだ。

しかしそのコンセプトや思想を叫ぶだけだったら、彼女たちはこれほどまでのポピュラリティと注目を獲得できなかったと思う。CHAIがここまでのステータスを駆け上がれたのは、その理念を裏付ける強い説得力――すなわち高い演奏力を身に着けていたからだ。


個人的なことで大変恐縮だが、筆者は先日彼女たちのライブを観て、「最高」という意味でボコボコに打ちのめされた。
まず驚かされたのは、リズム隊の素晴らしき手腕。ユウキのリズミカルかつメロディアスなベースの低音は、聴き手の心身をダイレクトに揺らしにかかる極上のサウンドだし、ユナの抜群にキレのいいドラムは、単に聴き心地がいいだけでなく、絶妙なフィルを織り成し聴き手のテンションをガンッと上げていく。ユウキ、ユナによるこの屈強かつ技巧が凝らされた基盤があるからこそエッジの効いたギターソロがより映えるし、マナのスウィートボイスで繰り出されるリリックにアタック力がもたらされるのだ。

そしてもう一つ目を見開かされたのは、マナ、カナの双子によるボーカル&コーラスワークだ。筆者が観たライブでは、そのふたりがアカペラで“We Are The World”のサビを披露するシーンがあったのだが、これがまたとんでもない御馳走だった。主旋律を歌うマナと、ハモリを入れるカナ。似通ったふたつの愛らしい歌声は、ピッチや息継ぎのタイミングも完全にピッタリで、まるで2本の筆で流星の軌道を描いているかのように美しい。もしかしたら本人たちはほんの箸休め的な感じで披露したのかもしれないが、しかしそのたった数十秒が本当に感動的で、魔法的だった。なんだか双子の神秘のようなものが、その短い短いフレーズの中に宿っているように思えた。


そのほか、マナが話した英語をユウキが即座に訳すMCや、それぞれのキャラが炸裂した物販の宣伝MCなど、コミカルなシーンもたくさんあった。その場にいた観客も、彼女たちが繰り出す言葉や音や歌にいちいち沸き立ち、熱狂的な歓声を4人に浴びせ続けていた。

そんな光景を観て、ふとこんなことを思った。CHAIのライブは、コンプレックスがアドバンテージになるということを、目の前で証明してくれる空間なのかもしれない――と。冒頭にも述べたが、CHAIは「コンプレックスはアート」というテーマの楽曲を中心に演奏しているバンドであり、4人もそれぞれ劣等感を抱いている。でもそんな彼女たちでも、自らのコンプレックスを思いっきり歌詞に乗せ、ステージに立って堂々と奏であげれば、多くの観客を沸かせることができる。その一連の下剋上ストーリーを眼前で展開してくれるのが、CHAIのライブなのだ。
聴き手と親密になるためのほどよいコミカルさと、確固たる信条と、それを音楽に昇華できるスキル。彼女たちは自分たちしか持ち得ないその三種の神器を使って、誰も置いていかない音楽を高らかに鳴らしているのである。

素晴らしきプレイヤビリティとドキュメント性、そして自らのコンプレックスをもって「かわいい」の概念を覆していこうとするCHAI。誰かを救いうるかもしれない彼女たちの勇敢なスタンスは、誰の目からしてもカッコよくて、ドラマチックで、たくましくて、美しい――すなわち、「NEOかわいい」ものとして映るだろう。(笠原瑛里)

最新ブログ

フォローする