この後でエミネムは、いわゆるマンブル・ラップと呼ばれる、発語があまりはっきりしない最近のラップ・スタイルへの違和感についてひとしきりリックにぶちまけている。しかしリックはその違和感がこの曲を駆り立てる勢いにもなったのだと次のように振り返っている。
エミネムにとってはある意味でカルチャー・ショックでもあったわけで、それは彼とはまったく違う新しいヒップホップのやり方が勃興してたからなんだ。
そのことをエミネムはぼくに話してくれたんだよ。そのことですごくフラストレーションを溜めているのがよくわかったよ。
また、エミネムはサウンドやトラックのきわめて細部にまでこだわってリリックを書くのだという。リックは以下のように話している。
エミネムにはほとんど狂信的なこだわりがあって、ディテールへのこだわりがほかの誰にも見たことのないレベルのものなんだ。音についてはあらゆる細部についてまで完璧な記憶力を誇っていて、その音に飛び込んで、そのトラックの強味や弱味に応じてライムを書いていくんだよ。
というのも、エミネムは自分の言葉が常にビートに対してある特定の撥ね方をするようにいつも工夫してるからね。
2Pac - Dear Mama
エミネム自身によると、こうしたアプローチは2パックを見習ってのものなのだという。
俺はずっとヒップホップから学んできただけの輩だし、ラップについてはずっと研究を続けてきてる。そういう意味で2パックについて思うのは、どうしていつもいつもあるコードに対してあんなドンピシャな言葉を持ってこられるんだろうってことなんだ。
たとえば、2パックは「My broken down TV show cartoons in my living room (俺の壊れたテレビがリビングでアニメを流してる)」ってくだりを“Unconditional Love”っていう曲で披露してるんだけど、「すげえ、これをもうちょっと前に、1小節前に繰り出してたらこんなに響かなかったぜ」って驚いたんだよね。
だけど、あえてここにこのリリックを持ってくるっていうね、ちょうどコードの響きが悲しく鳴り始めたとこに持ってきてるわけだよ。俺は2パックを研究し過ぎて、こういうことができるってことがどんなに天才的なことなのかがわかった。
2パックの場合には実際、コードを外したライムを繰り出したことがまるでない。“Dear Mama”がまさにそういうもんだよね。すべての要素が、すべての思いが、すべての言葉が、小節ごとにすべてが一番最良の形で収まってるんだ。
それはビートについて理解し過ぎてるくらい理解してたから可能だったわけで、2パックはだからこそいつも「自分の表現を“感じて”ほしい」と言ってたんだ。それはつまり、ただ聴いてるんじゃダメだってこと。感じようとしないとわからないんだよ。
そして最後に、“Walk on Water”のテーマについて次のように語る。
これは限界について歌った曲なんだ。限界があるということを認め、スーパーマンにはなれないというもので、毎回毎回自分にとっての最高傑作が書けないとしたらどうすればいいんだっていうね。