西野カナが「恋愛ソングのカリスマ」を超えて新作『LOVE it』で描いた、日常に宿る大きな愛とは?
2017.11.16 17:30
そしてだからこそ、さらに新たな種類の「LOVE」がこのアルバムから聴こえてきている。それは冒頭に挙げた彼女の言葉を振り返ればすぐお察しいただけると思うが、ファンへの「LOVE」だ。
それを特に感じたのは、「西野カナ、ついにこのタイトルの曲を作ったか!」と多くのリスナーに思わせただろう“LOVE”。《つい最近まで普通に見てた顔が/世界で一番カッコよく見えるなんて/どうかしてるわ》という歌い出しにしろ、ハッピーなコードを奏でるキーボード&星の瞬きのようなグロッケンの音色にしろ、一聴するとピンク色の多幸感の花がふわっと咲きこぼれている恋愛ソングだ。でも、《君が笑うだけで/世界がキラキラする/君のためならどんなことだって/頑張れるよ/oh LOVE》というサビのフレーズを聴いた時、「これ、絶対ファンのこと歌ってるでしょ……」と直感で察し、勝手に感動してしまった。正直、ちょっと泣きそうにもなった。
恋愛のことを歌いながら実は音楽やファンに向けても「LOVE」を放っているというのは、前述の“手をつなぐ理由”で自身が明らかにしているし、個人的に東京ドーム公演でもそう思う瞬間があった。たぶん、“LOVE”もそれと同じ類だ。それを証明する確かな理由なんてないけれど、でも彼女は私たちの笑顔のために頑張ってくれているし、ライブで《どんな場所だって/飛んで》きてくれるし、彼女の音楽は《嬉しい日も楽しい日も/ちょっと元気がない時も/気がつけばいつも側に》いてくれる――。そう、“LOVE”で描かれているのは、西野カナと私たちの関係でもあるのだ。だから“LOVE”は、ふたりきりの世界を描く「恋愛ソング」という枠には決して収まらない、もっとたくさんの人たちのために歌われている、文字通りの「LOVE」ソングなのである。……もしかしたら今作のテーマが「日常」になったのも、彼女が歌い手として愛し愛される日々を送り、それゆえに心が満たされているからなのかもしれない(超勝手な思い込みだけど)。
耳から入ったじんわりと温かい流動体が、そのまま心へダイレクトに流れ込んでいく感じ。私が『LOVE it』を聴いて最初に抱いたのは、そんな感覚だった。それをもたらしてくれたのは、生音を駆使した芳醇かつ繊細なサウンド(今作は音にもぜひ聴き惚れてほしい。“君が好き Rearrange ver.”のピアノとアコギが織り成す音色は真珠のような穏やかな輝きを放っているし、“Liar”、“MEOW”のミュージカル風の作り込みはとても新鮮)と、日常を楽しく生きるためのコツと強さを教えてくれて、同時に「どんなときもそばにいるよ」と優しく伝えてくれる、西野カナの歌であることに間違いない。
『LOVE it』の「it」が示すもの。それは酸いも甘いもそれ以外もすべてある私たちの日常と、その日常を生き抜くために互いにパワーを送り合う、彼女と私たちの絆だ。(笠原瑛里)