星野源が「雑談」から音楽の「本質」を掘り当てる『音楽の話をしよう』について

星野源が「雑談」から音楽の「本質」を掘り当てる『音楽の話をしよう』について - AERAMOOK『星野源 音楽の話をしよう』AERAMOOK『星野源 音楽の話をしよう』
星野源 音楽の話をしよう』はこれまでにありそうでなかった、星野源だからこそ実現した対談本になっている。この本を開いてすぐ、「はじめに」のページに星野は「雑談の中に本質があるのだと思います」と書いている。これは、星野が常々語ってきている言葉で、2014年に同じく対談連載をまとめた形で発売された『星野源雑談集1』の「はじめに」のページにも「『雑談の中に本質がある』そう言い切ってしまいたい」と書いている。お互いにかしこまって語り合う「対談」よりも、ラフに気負いなく普段のような感じで会話をする「雑談」の中にこそ、その人の本当の素顔が出てくる。この連載は星野が相手と喫茶店のカウンターで横並びになって会話をする、という形で収録されており、さらに、連載時には入りきらなかった会話もノーカットで加えられているので、「対談」と書かれてはいるが実質、今回の本も「雑談集」と括ってしまっていいだろう。

6月27日に発売されたこの本は雑誌『AERA』にて、2016年4月から2018年3月まで続いた星野の対談連載の最初の1年(2016年4月~2017年3月)を1冊にまとめたもので、まず目を引くのがその対談相手だ。星野の音楽歴を語るうえで欠かせない細野晴臣や、SAKEROCKにいち早く注目し星野とのデュエット曲もある吉野寿(eastern youth)などタイトル通り、活動をしていく中で親交を深めてきた音楽家たちはもちろん、俳優としての活動で出会ってきた古田新太、有村架純、脚本家の野木亜紀子、バナナマンの設楽統など人選は多種多様。設楽は「『音楽の話をしよう』って言っといて、2回目のゲストが俺で大丈夫?」と冗談交じりに尋ねているが、計12人のゲストの名前を見れば分かるように、この連載は決して音楽を仕事にしている人をゲストに呼ぶ連載ではない。自身の活動の幅が広いのもあるが、職種などで隔たりを作らず親交を深めてきた星野ならではの顔ぶれだろう。詳しくなくても音楽に愛があればOK、といった懐の深い空気が心地よい。

雑談の内容もまた、音楽に限らず、様々な方向に飛んでいく。仕事の話から幼少期の思い出話まで境目無く繰り広げられる。1人目のゲストである細野との一言目が星野の「この間、夜遅くまでやってる喫茶店を見つけた」という話から始まっているのが、まさしく「雑談」といった感じで最高だ。

もちろん、音楽の話も必ずゲストと繰り広げられる。この連載は「ゲストに1枚アルバムを持ってきてもらう」という決まりがあるのだが、音楽好きなら共感できるように、なかなか1枚を持ってくるのは難しく、ゲストは皆理由を付けてなんとか1枚を選んだり、部門ごとに選んで複数枚持って来たりしながらも、それぞれのカラーが出るチョイスになっていて興味深い。例えば、ゲストのディーン・フジオカが選んだ1枚はディアンジェロの『Voodoo』。このアルバムの話からブルーノ・マーズ、マイケルなどの話題でふたりがどんどん盛り上がっていく様子が文字で読んでも伝わってきて、読み応えがある。

全編通して、星野だからこそ出せたであろうゆるやかな空気感が紙面からもにじみ出ている。しかし、その中でもしっかり読むと、ゲストの他人には譲れない一本の芯のような考えがにじみ出ているのが、まさしく星野が伝えたかった「雑談」によって出てくる「本質」の部分だろう。例えば、設楽が話す「インディーズとメジャー」の話や、生田斗真が語った「ジャニーズ事務所で俳優をやる、どこにもハマらない寂しさ」など、ゲスト毎に「熱が入った」と読んでいて感じる部分があり、そこに星野も共感しながらしっかり受け止めるのでゲストもさらに深く語っていく。

それは星野自身にも言えることで、今まで他の著書や楽曲などを通して伝えてきた「本質」といえる仕事や日々の生活に対する考えが雑談の中に出てくる。1冊通して、子供のころからの音楽遍歴がこと細かにエピソードとして話されているのも、星野のファンとしてはこの本を手元に持っておきたくなる嬉しい部分だろう。星野の魅力を再確認しながら、終わりなくずっと読んでいたくなる、そんな雑談集になっている。(菊智太亮)
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