星野源が“アイデア”のMVで伝えたかったこと――『ANN』で語られた秘密

星野源“アイデア”のMVは8月20日にYouTubeで公開され、9月10日の時点で950万回再生を突破。先日、音楽アワード「MTV VMAJ 2018」で2冠を獲得するなど、多方面で大きな話題を呼んでいる。

このMVは語りたくなる要素がとても多い。なぜなら、「これまでの星野源」が各所に散りばめられているからだ。9月4日深夜に放送された『星野源のオールナイトニッポン』で星野自身が解説していたので、そこでの発言を紹介しながらこのMVに込められた意味を考えてみたい。

まず、イントロのマリンバを俯瞰で映したショット。星野が番組でも語ったが、これはSAKEROCK“Emerald Music”のMVに同じ構図のものがある。


この時点で、「いままでの僕のアイデアの供養、そして再生」というこのMVの裏テーマがすでに隠されている。思えば、“Emerald Music”のMV自体も、SAKEROCK初のベストアルバムに収録される新録音源ということもあってか、過去のライブの様子や舞台裏などを挟み込んでいく映像になっている。“アイデア”のMVも過去の映像こそ出てこないものの、これまでの活動が振り返られているという点で通じるものがあり、“Emerald Music”と同じショットから始まるのにはそうした理由もあるのではないだろうか。

マリンバの映像から次に星野の姿が映されると、バックには2015年発売の星野のアルバム『YELLOW DANCER』のカラーである赤色が。そのあと、移動しながら『恋』の黄、『Family Song』のピンク、『ドラえもん』の青、とリリースした順番に背景の色が変わっていく。
1番を歌い終えると、星野は「ツービート IN 横浜アリーナ」でのステージ移動を思い出させるセグウェイに乗って、MPCを叩くSTUTSのもとへ。2番のサビでは、バックが赤と白のストライプになるのだが、これは今回のMVでアートディレクションを担当している吉田ユニが決めたそう。間奏でダンサーが出てくると、色素が消される照明によって、派手やかだった赤・白が黒・白の鯨幕になる。ここで、はっきりと「葬式」ということが分かる演出にしたそう。最初に赤・白に決めたのはこういった理由からだったのかもしれないが、おそらく『NHK紅白歌合戦』の意味も持ち合わせているだろう。《笑顔の裏側の景色》を歌っている2番は星野の療養期間も思わせるし、《生きてただ生きていて/踏まれ潰れた花のように》と歌うシーンには「31」と書かれた紙が正面に映るようにカメラに貼られており、これは星野がくも膜下出血で倒れたときの年齢だ。そこから、一気に明るい赤・白のバックでサビを歌う姿には、考えすぎかもしれないが、2015年に『紅白』に初出場し、“SUN”を歌った星野の姿を思い出した。

三浦大知が振り付けをしたことでも話題の間奏のダンスに関しても、驚くべき解説がされた。星野からMVのコンセプトがこれまでのアイデアの供養、葬式であることを聞き、ダンサーの踊りに隠し要素として「香典を出す、お焼香、出棺、火葬場に棺を入れる、骨を拾う」という流れを分からないように組み込んでいるという。これを踏まえて、一つ一つの動きに注目してダンスを見ると、またさらに面白くMVが観れるだろう。

以上のようなすべてが71台のカメラによるワンテイクで撮影されている。これは監督の関和亮との打ち合わせで思いついた、星野の提案だそう。隅々まで見ると、カメラマンなどのスタッフが映り込んでいたりするし、セットチェンジも人力。バンドメンバーとダンサーとで一緒に歌っている最後のサビのシーンを現場で見た時に、「なんて良いんだ」と「ちょっと泣きそうになってしまった」という。葬式というコンセプトではありながらも、終わりではなく始まりの祝祭感があって感動した、と語った。


「この人が居なかったら、多分いろいろできなかった」と星野が語っていた吉田ユニの手によって、隅っこに置いてあるものにまで色などが計算され尽くしていたり、まさしく、大勢のスタッフによる「力」で作り上げた“アイデア”のMV。番組でも星野が何度もスタッフへの感謝を話していたのが印象的だった。音楽家としての自身の作品を総合的にプロデュースしてきた星野は、MVへのこだわりも度々発言しており、自身が共同で監督としてクレジットされている作品も多い。“Crazy Crazy”や“恋”などのMVでは、一部、自分で編集まで手掛けている。常に新しいものを作ろうとした結果、星野と吉田をはじめとしたスタッフのアイデアが見事に交ざりあった今作は現時点での「星野源のMV」の一つの到達点といえるのでないだろうか。(菊智太亮)
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