今クールの連ドラに出演している俳優陣の中で、一番の話題をさらっているのがムロツヨシだろう。なんと言っても『大恋愛〜僕を忘れる君と』での間宮真司役である。決して純然たる二枚目というわけではないけれど、女子のハートをガッチリつかんでしまった。ムロツヨシの新たな一面に視聴者は初め驚き、動揺もしたけれど、ドラマが第4話へと進もうかという今、ムロツヨシの株は上がりっぱなしだ。
いわゆるギャップ萌えというのとも違って、「うすうす気づいてはいたけれど」という感じ。何度も飲みに行く気軽な間柄で、恋愛感情とか意識したことなかったのに、ある日ふと「この人がいないと寂しい」とか、「この人といる時の自分が一番楽しい」みたいなことに気づいてしまった時の感覚というか。改めて、ムロツヨシに宿る「良い男」感に気づかされたドラマだ。そう、「いい男」というより「良い男」と書くほうがしっくりくる。
ムロツヨシのブレイクのきっかけは、2011年のドラマ『勇者ヨシヒコ』シリーズから。そこはかとない可笑しさを生む間、脇役ながら鮮烈に記憶に残り、それでいて主役を生かすことができる演技力。「なんだか気になる」存在になったのはこの頃から、という女子も多いはず。2013年からはNHK『LIFE!~人生に捧げるコント~』にも出演。ここで、ムロツヨシの「笑わせる演技」が炸裂し、彼を追っていれば必ず楽しませてくれるという「安心感」が刷り込まれた。この時点でムロツヨシという男の術中にはまっていたような気もする。
そもそもムロツヨシが役者としてずっと目指していたのは、観る人を笑わせられる演技。セリフや動きの間も、言い回しも、表情も、「笑わせる」ための演技は実は一番難しい。そこを目指して実践してきたムロツヨシだからこそ、二枚目役は実はそれほどハードルの高いものではないのかもしれない。とは言え、これまでのイメージとは一味も二味も違う役──視聴者が、北澤尚(戸田恵梨香)に感情移入し、間宮真司が「決まっていた婚約を破棄してまで愛したい男」であることに異論をはさませないような役作りは、かなりのプレッシャーだったのではないかとも思う。なんというか、そのフレッシュさもまたいいんだよなあ、みたいな目でドラマを観ている自分がいて、「うすうす気づいてはいたけれど」ムロツヨシという男が気になって仕方ないのだ。この時点で完全に陥落でしょう。
そんな恋心にも似た気持ちをニュートラルに戻してくれるのが、同じく今クールに放送されているドラマ『今日から俺は!!』の椋木先生役。なぜだろう、『今日から俺は!!』で椋木先生のあのビジュアルを観るとものすごくホッとする自分がいる。きっとムロツヨシ自身も、『大恋愛』があって『今日俺』もあるというのが、良きバランスとして成立しているんだと思う。同時期のオンエアでよかった。
それも含め、なぜだかムロツヨシのことを考えることが多い1週間なのである。特に『大恋愛』は続きが気になって、早く間宮真司に会いたくなってしまう。そう思わせたムロツヨシの勝利。完全に役を自分に引き寄せた。実際、間宮真司という役どころはムロツヨシ本人と重なる部分も多いと思う。演劇の世界で下積み時代の長かったムロツヨシは、売れなかった時代のことを間宮真司に重ねることもできるだろうし、そのかたわらでアルバイトをしながら生活をするということにやるせなさ(でもバイト仲間のありがたさ)も実際に知っているだろうし、間宮真司の切ない生い立ちにも、どこか共感できる部分があったりもするんじゃないかと思う(なのでキャスティングの勝利とも言える)。しばらくムロツヨシの「良い男」ぶりから目が離せない。(杉浦美恵)
今、なぜこんなにもムロツヨシなのか? 『大恋愛』までの歩みをたどる
2018.11.02 18:25