音楽評論家、大鷹俊一による短期連載コラム第3回:ジミヘン 『エレクトリック・レディランド』50周年記念盤にさらに迫る!

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1968年に発表されたザ・ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンス『エレクトリック・レディランド』の50周年記念盤が、11月9日にリリースされた(国内盤は11月21日発売)。

このリリースに合わせ、これまでにジミ・ヘンドリックスの国内盤CDのライナーノーツを数多く手掛け、ジミ・ヘンドリックスに関する著書も発表している音楽評論家、大鷹俊一氏による短期連載コラムが到着した。

第3回「1968年9月14日」は以下の通り。



第3回『1968年9月14日』

ジミ・ヘンドリックスといえばライヴ。

というわけで『エレクトリック・レディランド50周年記念盤』にもCD-Disc3<ライヴ・アット・ザ・ハリウッド・ボウル>が入っている。1968年9月14日、LAの名物ライヴ会場、ハリウッド・ボウルでのステージだ。以前からブートレグとして音は出回っていたもののオーディエンスが録ったソースで、音が遠かったり観客たちの声も大きく入ったりと残念なものだったが、ただ、そんな状態のものでも演奏は強烈なテンション高いプレイだとはマニアには知られていた。それのサウンドボード音源が最近見つかったとして、今回収録となったわけだ。

同年2月から始めた初めてとなる本格的な北米ツアーを敢行しながら、同時並行でニューヨークに戻ってはレコーディングを続け、さらにどんどんと思いつく新しいアイデアをステージで試したりといった緊張感溢れるスケジュールをこなしていたのが、この頃にはようやくレコーディングも完了。約1カ月後にはサードにして初の2枚組アルバム『エレクトリック・レディランド』が発売と、達成感と充実感がストレートに爆発するライヴとなっている。

聴きどころはなんといってもパフォーマンス1曲目の“アー・ユー・エクスペリエンスト?”から、まだ正式リリース前だった“ヴードゥー・チャイルド(スライト・リターン)”、そしてブルーズ・フィーリングを押し出しまくる“レッド・ハウス”と続く前半の長尺もの三連発で、とくに“ヴードゥー・チャイルド(スライト・リターン)”に入る前のMCでは“とてもファンキーな曲。ただファンクっていうものがどんなものか、まだ探っているところだ”なんて言葉が聞かれて、それと演奏が絡み合うと、大きな意味が広がっていく。演奏そのものも文句無く熱い。

ただし、残念ながら音質はお世辞にも良いとは言えなく、ドラムはダンゴ状態で、“フォクシー・レディ”は中盤で切れるし、テープを替えた為“ファイア”は途中から始まるといったお粗末ところもあるのだが、それを凌駕して演奏そのものは熱く、素晴らしい。

後半のクリーム最大のヒット曲“サンシャイン・オブ・ユア・ラヴ”の心を込めたカヴァーの後には興奮した観客たちが、ハリウッド・ボウル名物のステージ前のプールに入っていくのも納得だ。とはいえこの当時のステージ周りの電気系統関係の原始的な環境の中では、水がステージ周辺に来たり、水気のある観客が抱きついてきたり、ジミたちが危険を感じるのも当然で、ジミやノエル・レディング、ミッチ・ミッチェルたちが必死に、「落ち着け」「プールから上がれ」「下がれ」といって呼びかけるのが、じつに生々しいドキュメンタリーとなっている。

そんな観客の興奮がジミの炎を大きくしているのも事実で、いつも以上にスピード感がある“今日を生きられない”は聞きものだし、逆に癒すように歌われる“リトル・ウィング”などの流れは、音の悪さを忘れさせてくれるはず。

そしてウッドストックの演奏を誰もが連想する“星条旗”から“紫のけむり”へと展開するエクスペリエンス・ヴァージョンは、やはりプリミティヴな魅力に満ちているし、本来であればギター、ベース、ドラムスだけの最小限の音が描き出すイマジネイション溢れる空間のはずだが、音が悪いせいでさまざまなノイズ成分も一緒に襲いかかってくる。それもまた当時のジミヘン・ライヴの現実でもあり、そこには音の悪さを越える何かがあると総合的に判断がなされたのだろう。

単体のライヴ盤とするには厳しいが、しかしこのボックスにはふさわしく、1968年9月に生きるジミ・ヘンドリックスがここには詰まっている。(大鷹俊一)

音楽評論家、大鷹俊一による短期連載コラム第3回:ジミヘン 『エレクトリック・レディランド』50周年記念盤にさらに迫る!



『エレクトリック・レディランド 50周年記念盤』の詳細は以下。


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