音楽評論家、大鷹俊一による短期連載コラム第2回:ジミヘン 『エレクトリック・レディランド』50周年記念盤にさらに迫る!

音楽評論家、大鷹俊一による短期連載コラム第2回:ジミヘン 『エレクトリック・レディランド』50周年記念盤にさらに迫る!

1968年に発表されたザ・ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンス『エレクトリック・レディランド』の50周年記念盤が、11月9日にリリースされた(国内盤は11月21日発売)。

このリリースに合わせ、これまでにジミ・ヘンドリックスの国内盤CDのライナーノーツを数多く手掛け、ジミ・ヘンドリックスに関する著書も発表している音楽評論家、大鷹俊一氏による短期連載コラムが到着した。

第2回「未完成の魅力的な曲のスケッチ」は以下の通り。



第2回『未完成の魅力的な曲のスケッチ』

ジミ・ヘンドリックスといえば、これまで本当に数多くのスタジオ・レコーディング別テイクやデモ・ヴァージョンが出てきている。それもこれも完全主義で、貪欲にもっとよいヴァージョンを作りたいと演奏を繰り返したり、スタジオでアイデアを求めている間もテープを回しっぱなしにした結果でもあるが、今回の『エレクトリック・レディランド50周年記念盤』でもまたCD-Disc2「アット・ラスト・・・ザ・ビギニング:ザ・メイキング・オブ・エレクリック・レディランド:ジ・アーリー・テイクス」にたっぷりと収められている。

音楽評論家、大鷹俊一による短期連載コラム第2回:ジミヘン 『エレクトリック・レディランド』50周年記念盤にさらに迫る!

ディスクは、68年3月ニューヨークのドレイク・ホテルの一室でアコースティック・ギター1本で弾き語るトラックから始まるが、ここではなんと言ってもジミ後期を代表する名バラード“エンジェル”に泣かされる。前の年から“スウィート・エンジェル”のタイトルで何度かレコーディングにトライしているが、なぜか『エレクトリック・レディランド』には収められず、70年に入って再び取り組み、現在では『ファースト・レイズ・オブ・ザ・ニュー・ライジング・サン』に決定版が収められているが、このシンプルなデモはスッピン状態で、特別な魅力があるお宝だ。

その他のナンバーもアコースティック・ギターのおかげでカントリー・ブルーズ・シンガー、ジミの部屋に特別に招かれたような演奏を堪能することができる。

そしてかなりマニアックではあるが、最注目としたいのが、計5つのヴァージョンが入った“長く暑い夏の夜(Long Hot Summer Night)”だ。出て行った恋人への熱い思いと、クールな眼差しが交錯するナンバーで、本盤に入った完成ヴァージョンではジミがベースやバック・コーラスをすべて一人でやり、カラフルなサイケ感溢れるものに仕上げていたのだが、ここでは、まず最終形が想像も付かないようなカントリー・ブルーズ・スタイルの3パターンの弾き語りがしみじみと良い。さらにスタジオ・ヴァージョンが2つ入っているのだが、これがアル・クーパーのピアノとギターだけの演奏で、『エレクトリック・レディランド』レコーディングの主舞台となったスタジオ、レコード・プラントを初めて訪れたときのもの。最新のスタジオの機材の実力、環境を確かめるような演奏を聴いていると、まさに歴史が動く瞬間を目撃したような気分になるし、レコーディングが進み、インストのベースとなったトラックのデモも聴け、この曲が育っていく過程に触れられるのはダイナミックな体験となっている。

他にも“スノーボールズ・アット・マイ・ウィンドウ”や“僕の友達(My Friend)”といった曲たちのアコースティック・ヴァージョンも貴重だし、アルバムのオープナーのサイケデリックなトリップ・ナンバー“恋の神々(And The Gods Made Love)”の別ミックス「アット・ラスト…ザ・ビギニング」は、よりストレートかつ荒々しい過激なアプローチで、非常にスリリングなもの。これらによってスタジオでの試行錯誤も伝わってくる。

またジミ作のナンバーとして高い評価の“1983”も、“エンジェル・カテリーナ”と題された初期ヴァージョンや“1983...(A Merman I Should Turn To Be) ”とタイトルされた最初期のインストのデモ・テイクが収められ、微妙に歌詞が違っていたり、後者ではギターのアプローチへのアイデアを探る様子が聴かれたりと、興味深いことこの上ない。もちろんどちらも13分にも及ぶ発表ヴァージョンのような究極的な完成度とは違った耳で聴かなければならないが、それでも充分楽しめるのはジミならでは。

いつも発掘音源が出てくるたびに、どこにこんなものが、と思わされるが、今回もまた驚かされることになった。(大鷹俊一)



『エレクトリック・レディランド 50周年記念盤』の詳細は以下。



ジミ・ヘンドリックスの関連記事は現在発売中の『ロッキング・オン』12月号に掲載中です。
ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。

音楽評論家、大鷹俊一による短期連載コラム第2回:ジミヘン 『エレクトリック・レディランド』50周年記念盤にさらに迫る! - 『rockin'on』2018年12月号『rockin'on』2018年12月号
公式SNSアカウントをフォローする

人気記事

フォローする