【深聴き】ONE OK ROCK“Stand Out Fit In” MVと楽曲に込められたメッセージについて考える

【深聴き】ONE OK ROCK“Stand Out Fit In” MVと楽曲に込められたメッセージについて考える
公開されるなり、インターネット上にもさまざまな解釈が溢れかえるほどの反響を呼んだ、ONE OK ROCKの新曲ミュージックビデオ“Stand Out Fit In”。2019年2月13日(水)発売のニューアルバム『Eye of the Storm』収録曲であり、MV公開と同時に先行配信もスタートしている。幻想的なドラマでありながら強いメッセージを運ぶこのMVについて、いくつかのポイントに分けながらあらためて考えてみたい。


①「人種/文化の差異を背景にした物語になっているのはなぜか?」
実家が中華料理屋なので、主人公の少年は中国系ということになるだろうか。北米の学校で細い目を馬鹿にされ、豆腐料理の入ったお弁当に白い目を向けられ、実家の店は無銭飲食の被害にあっている。孤独の中で、人種/文化のアイデンティティに思い悩む日々。残酷な見方をすれば、決して珍しい風景ではないだろう。何かの差異を理由に、多数派は少数派を警戒し、恐怖心の裏返しとして阻害し攻撃し始める。マイノリティ問題も、我々が日々を生活する中で目の当たりにするいじめ問題も、構造は同じだ。ちなみに、MVの監督を務めたPeter Huangも東洋系カナダ人で、これまでにマーティン・ギャリックスアヴィーチーニッキー・ロメロ、ジェシー・レイエズらのMVを手がけている。

②「ミステリアスな仮面の人物は何者で、なぜ主人公は踊り出したか?」
時を経て主人公は、サンドイッチを頬張り、悪友とつるむティーンになった。環境に馴染む努力をしたのだろう。一丁前に、クラスメイトに悪戯をすることも心得ている。悪友と酒瓶片手にドライブへと洒落込んでいると、車はそこで交通事故を起こした。そこで見たのは幻覚か、中国の伝統的な舞踏のような仮面姿のダンサーに出会い、釣られるように主人公は自分のダンスを踊り始める。ダンスの中で黒髪は金髪に染まるのだけれど、彼は何かに衝き動かされ、解放されたように踊り続けた。彼はダンスに、それまで押し隠していた自我の解放を見たのかも知れない。

③「主人公は夢を見ていたのか?」
悪友たちに取り囲まれ、揉みくちゃにされた主人公は、いつしか孤独な少年の姿に戻っていた。微笑む母親を見つけて安心したのか、泣き出しそうな表情を見せる。あれは夢だったのか? もしかすると、彼は自分の未来の選択肢のひとつを見たのかも知れない。環境に馴染むこと。でも、彼は本当の自分を偽り、どこかに置き忘れていた。現実へと帰ってきた少年は今後、自分を偽って環境に馴染んでゆくだろうか。夢かもしれないけれど、彼はすでに自我の解放を「体験」してしまったのだ。

④「“Stand Out Fit In”の意味は?」
主人公が音楽プレーヤーで聴き始める、『Eye of the Storm』の“Stand Out Fit In”。ここで歌われているのは、ロックの本質そのものである。本当の自分を押し殺して環境に馴染むのではなく、本当の自分が解放される場所に出会うこと。そんな場所を作り上げること。ロックに限らず、すべての力を持った音楽は、本当のあなたを解放させるために鳴っている。あなたが初めて大好きになったロックと出会ったときの気持ちを、思い出してみればいい。

《はみだして なじめ》。この一撃必殺のパンチラインを掴み取ったTaka(Vo)は、ONE OK ROCKは本当にすごい。《男は泣くな/現実を見て 夢を持て》、《女は争わず/見た目もきちんと/心は白く美しく》。そんな口うるさい決まりごとを振り払った場所に、真の解放はある。それは幻のダンサーような存在に思えるかもしれないけれど、馴染むべき未知の体験は、必ずどこかに存在している。もしかしたらそれは、『Eye of the Storm』というアルバムの中で、あなたを待っているかも知れないのだ。(小池宏和)
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