米津玄師が『紅白歌合戦』で見せた“Lemon”という尊き「光」について

米津玄師が、2018年12月31日、『第69回NHK紅白歌合戦』に出演。“Lemon”を披露した。出演の経緯や“Lemon”という楽曲の背景についてはこちらの記事をご参照いただきたい(https://rockinon.com/news/detail/182701)。米津がテレビ番組で歌唱するのは今回が初。司会者の内村光良と櫻井翔による「米津さんが喋ってる!」、「初めて見た気がしますよね! ずーっとミュージックビデオで見てましたから」という興奮気味のやりとりにもこの状況が稀であるのだということがよく表れていた。

米津は、徳島県鳴門市にある大塚国際美術館内のシスティーナ・ホールから生中継で出演した。先に演出面に触れておくと、MVでも見られた「教会」、「ダンサー」、「祈る人々」、「光」などの要素を使用しながら、同様の世界観を、MVとはまた異なる形で再現しているようだった。舞台のシスティーナ・ホールは、バチカンのシスティーナ礼拝堂を原寸大に立体再現したもの。2番から登場したダンサーの菅原小春(振り付けは辻本知彦によるもの)は、悲しみに胸が引き裂かれた時の心情を体現するかのように、狂気をも感じさせる表現で魅せてくれた。また、終盤で米津の背後に登場した人々の、天へキャンドルを掲げるような動作も鮮烈な印象を残していった。

これら視覚芸術も表現者・米津玄師を語るうえでもはや欠かすことができなくなりつつある。しかし、それ以上に、とにかく歌が素晴らしかった。ミケランジェロ「最後の審判」の陶板名画を背に、キャンドルに囲まれながら歌う米津。抑制を効かせた前半では、米津の声の震わせ方と同じように、自分の心まで震えているように感じる。クライマックスでの高音域を張り上げるところでは、どうしてか目頭が熱くなってしまう。目を瞑りながら歌うその姿は祖父へ祈りを捧げているように見えたし、歌の中では、その他様々な感情も駆け巡っているように思える。その歌には、聴き手の胸の内に迫るような切実さがあった。

“Lemon”は米津曰く「あなたが居なくなって悲しい」という気持ちを吐露した楽曲で、その真ん中にあるのは彼自身のごく個人的な感情かもしれない。しかし予定調和的なことを言わず、悲しみを悲しみとして描くことに忠実な楽曲だからこそ、描くことのできる真の希望がそこには在る。2018年、多くの人の「光」となったであろうこの楽曲の力に、改めて思いを馳せずにいられなくなるような時間だった。(蜂須賀ちなみ)
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