THE ORAL CIGARETTESの最新シングル曲“ワガママで誤魔化さないで”。去年の年末に同曲のミュージックビデオがアップされた際も、山中拓也(Vo・G)のダンスパフォーマンスやタンバリンを持ってのピンボーカル、ポップネス溢れるサウンドアプローチなどがリスナーからの話題をさらっていた。様々な意見が飛び交うのは、バンドが守りに入らず新しい表現を開拓しているからこそ起こる自然現象だ。
THE ORAL CIGARETTESは元来、自分たちがリスナーやシーンからどんなことを求められているかをしっかりと把握したうえで、自分たちはどうしていくべきかを考えられる、非常に頭の冴えたバンドだ。“ワガママで誤魔化さないで”はTVアニメ『revisions リヴィジョンズ』オープニングテーマの書き下ろしゆえ、その素養を生かした部分ももちろんあるが、「タイアップ曲の書き下ろしなら振り切ったことをしてみよう」というある種のエゴイズムに近い心情も影響していたように思う。
ドラムとタンバリンの軽快な表打ちのリズムセクションのイントロに山中の歌が重なると、バンドインとともに流れてくるのは華やかなホーン音。これまでよりもポップス的なアプローチという見方もできるが、さらにそこに踏み込んでみると、その実態は山中に色濃く根付いている歌謡メロのセンスにフォーカスした音作りとも言えるのではないだろうか。
メンバー全員の派手なプレイがぶつかり合うことで、4人の個性や音の迫力、スリルが生まれる――それは彼らにとっての「ロックバンドらしくあるための方法」だったようにも思う。次々と武器を身に着けるという足し算をつねにしてきた彼らが、“ワガママで誤魔化さないで”ではそのこだわりや縛りを解き放った。山中の歌を主軸にしたことで楽器隊の自由度は上がり、ホーンセクションや鍵盤といったうわものを大胆に盛り込む余裕も生まれた。もともと豪勢なオーラを持つバンドだ。妖艶なメロディに絡む規模の大きな華やかなアレンジメントは、バンドの本来の旨味を充分に引き出している。
この曲はフロアで大暴れしたい人間をさらに煽る着火力の高さよりも、平熱の人間すらも高揚へと誘う力が際立っている。それは転じて、より多くの人を巻き込む力があるということだ。新しいフェーズへと突入したTHE ORAL CIGARETTESのBKW=番狂わせ。それはこの先いったいどれほどまでの旋風を巻き起こすのだろうか。2019年の彼らが仕掛ける罠とその行方に期待したい。(沖さやこ)