そして同時に、今作を「もう手の届かない10年前の過去の出来事」としてではなく、「今と未来に続く道程の途中」として振り返ることができるのは、フジファブリックが彼の楽曲のバトンを受け継ぎながらも、新たな音楽の扉を開きながら走り続けているからに他ならない――ということを、改めて思い起こさせてくれる作品でもある。
スウェーデンに赴いての初海外レコーディングを経て生まれた全15曲のアルバム『CHRONICLE』を5月にリリースした後、6月からはアルバムのリリースツアー、さらに9〜10月には「デビュー5周年ツアーGoGoGoGoGoooood!!!!!」……と精力的に駆け巡った2009年のフジファブリック。
今回リリースされる『FAB BOX III』に収められているふたつのライブ映像作品=『Official Bootleg Live & Documentary Movies of “CHRONICLE TOUR”』&『Official Bootleg Movies of “デビュー5周年ツアーGoGoGoGoGoooood!!!!!”』は、まだ全員20代の蒼さと力強さが入り交じる当時のバンドの空気感をつぶさに伝えるものだ。
なお、両作品とも「Official Bootleg」と銘打たれているのは、ここに収録されている映像はカメラクルーの手によるものではなく、PA卓や舞台袖といったスタッフエリアから、あくまで記録用として撮影されたものだったからだ。
しかし、「作品」にするつもりがなかった映像だからこそ、あたかもフロアからステージを見上げた景色そのままのような、生々しいくらいに無防備でリアルな4人の姿を観ることができる、という映像作品でもある。
「フジファブリックは正直言うと、メンバーに助けられてる部分がとてもあって、いつも支えられてやってきたんですけど。それも素晴らしいんですけど……スタートするきっかけは僕が作らないとそろそろいけないなと思って。ひとりでメロディをしっかりと作れるようなプロミュージシャンになろうかなっていうのは一番大きかったので」
『CHRONICLE』スウェーデンレコーディングのオフショット映像で「フジファブリック新次元」への想いを語るそんな志村の言葉が、やがて山内総一郎・金澤ダイスケ・加藤慎一の3人とともにひとつひとつ現実になって、ライブという肉体性を獲得していく――。そんな2009年の4人の熱量を、今作からは確かに感じることができる。
文字通りフジファブリックで音楽を生み出すことに心血を注ぎ尽くしてきた志村。逆に言えば、フジファブリックというバンドは、志村の情熱を理解し共有してきた、言わば「志村正彦の音楽が最大限に鳴り響くことのできる場所」である。
そして――僕らは今でもフジファブリックの音楽に触れることができる。3人が積み重ねてきた色彩豊かな楽曲群も、志村のポップな妖気が光る曲たちも、そのすべてが僕らの今日と明日を彩るフジファブリックそのものだ。(高橋智樹)