今の星野源が、Apple Musicで配信中の『Pop Virus Radio』を聴くとこんなにもわかる!

8月30日。全ディスコグラフィのストリーミングサービス解放と同時に、Apple MusicのBeats1にて日本人初のホストを務めた星野源。『Pop Virus Radio』と冠した番組では、星野自身の楽曲はもちろん、彼のフェイバリットナンバーを続々と紹介した。番組冒頭でJ・ディラとディアンジェロの名前を挙げ、「大好きだから、彼らの真似をしたくなる。しかし彼らにはなれないし、真似をするのではなく、自分の魂と彼らの魂をどう共鳴させるか」と語った星野。オープニングにかけたJ・ディラの“Welcome to the Show”、 ディアンジェロの“I Found My Smile Again”をプレイし、そこから“肌”(『POP VIRUS』収録)へ。ヒップホップ、ネオソウルからの影響を現行のビートミュージックの解釈で、しかも生音の温もりに貫かれたものへ昇華し、さらにはそのビートと歌謡曲から連なるJ-POPのメロディの親和性を指摘するような構造を、言葉で説明するよりも音の地図として広げて見せた。

「この曲を作っているときはダンスミュージックを作りたいと思っていたので、ディスコクラシックみたいな――ミディアムテンポをイメージしていたんだけど、なんかしっくりこなかった。そのなかでメロディも詞もできてきていたけど、なんか違うなと思っていた。そこで、アナログレコードの再生スピードを間違えた感じでテンポを速くしようと思ったら、聴いたことのない感じのダンスミュージックになったんです。でも、聴いたことのないものなんだけど、ちょっと覚えがあるぞと。高校生のときに民族舞踊部に入っていて、そこで踊った七頭舞という東北の庶民たちの伝統的な踊りを踊ったことがあったんです。だから、その日本人特有のダンスミュージックっていうものが体に染み付いていて。ダンスミュージックを作るとなると、どうしてもディスコクラシック、ソウル、R&Bになるけど、そこに自分の国のダンスミュージック……七頭舞も阿波踊りも踊れるような、自分の国のダンスミュージックにもなるようなものにしたいと思って、この曲を完成させました」

今や国民的ダンスナンバーとなった“恋”をそう紹介した星野は、立て続けにYMOの“Mad Pierrot”、ルイス・コール“After The Load Is Blown”を紹介。エキゾチカ、テクノ、R&B、ビートミュージック――日本と海外を縦横無尽に行き来しながら線にして、聴き進めるほどにその間の「線」がなくなっていく。その感覚はすべて、ここで紹介される楽曲の「リズム」へと没入していくからだ。特にLAのインディーレーベル・BRAINFEEDERから飛び出したルイス・コールのようにソングライティングからビートまでをひとりで手がけるプレイヤーをプレゼンテーションするのも、星野が楽曲の端々まで自分の血を行き届かせようとする姿勢とのリンクを感じているからこそだろう。さらにはBRAINFEEDERがLAを出自にしてディバーシティへ寛容であり続け、だからこそそこでは音楽同士の越境が自由に起こっているという点も、あらゆるダンスミュージックを咀嚼したうえで自身が生きてきた環境・国・景色へと帰結させていく星野の音楽自身が持っている独自性と共鳴する点だろう。

番組後半では、トラップ以降のビートと譜割を主軸にゴスペルを注ぎ込んだ自身の楽曲“Nothing”をプレイ。ゆったりとした曲だがトラックの表情がクルクルと変わったり、自在にギターがリズムに回る場面が多々あったりと、大仰さのないなかで雄大なドラマを描いていく楽曲だ。そこからビッグ・ショーンへとシームレスに繋げる選曲には感動を覚えるものだった。オルタナティブヒップホップのビート感だけでなく、R&Bやソウルと融け合った歌唱としても、星野はその血肉にして聴かせているのが『POP VIRUS』なのだと理解できた。

『POP VIRUS』の中で躍動する、色とりどりのリズム。それはただ現行のビートミュージックやトラップ以降を咀嚼することだけの賜物と言えるものではなく、彼が常々「イエローミュージック」と掲げる通り、世界の人間と自分が生きてきた場所との共通項、世界にある音とビートとの互換性を日々の実験の繰り返しで発見してきた歴史として鳴らされているから「ヤバい」のである。日本という(文化的にも構図的にも)閉ざされた島国に対しての、「ガラパゴスと言われればその通りだが、見方を変えれば純粋培養された独自性を多く持っている」という視座。豊かなものがまだあるのだと信じて、それを持ったまま世界との間にある殻を破っていこうとする姿勢。そうして殻を破り続ける勇気は、彼がギター1本携えて自身の声で歌おうと決めた時から貫かれているものだろう。その変わらない信念と勇気、そうして踏み出した瞬間に広がった世界と接続するために自分にしかないものを探し続ける執念。その両方が言葉と音から伝わる番組だった。今ここでしか生まれ得なかった音楽が、世界でどう鳴り響くか。ワールドツアーも楽しみだ。(矢島大地)
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