スピッツの『SONGS』に結成32年目の優しい絆を見た

スピッツの『SONGS』に結成32年目の優しい絆を見た
「和やかだなあ! スピッツに入りたいな」
番組責任者=大泉洋が思わずそう口にするほど、スピッツの4人の「優しい世界」ぶりが、バンドの32年間の歩みと“優しいあの子”に通底する唯一無二のロックマジックを、実にくっきりと伝えていたのが印象的だった。

実に9年ぶりにNHK『SONGS』に出演したスピッツ。大泉洋が真っ先にメインの話題に据えたのは当然ながら、朝の連続テレビ小説『なつぞら』の主題歌として半年間にわたってオンエアされた“優しいあの子”だった。
この曲を書くために実際に作品の舞台となった北海道・十勝を巡ったと語り、「《優しいあの子にも教えたい》っていうところのメロディと歌詞は、わりと同時に出てきた感じです」と制作秘話を明かす草野マサムネ(Vo・G)。そして、『なつぞら』出演者からのコメント映像が続く。

《重い扉を押し開けたら 暗い道が続いてて/めげずに歩いたその先に 知らなかった世界》の歌詞について「『開拓者精神』という重要なテーマにものすごく寄り添ってくださっている」と分析していた吉沢亮。「もう北海道って言ったらこの曲しかないですよね。大げさに言うと、魂ですよね。心ですよね。(“優しいあの子”が)僕らの中にいつもいつも流れてますし」と手放しで絶賛する草刈正雄。「『なつぞら』っていう世界観の雰囲気に、一番色をつけてくれるのが音楽なので。はじめて音楽を聴いて『この空気感の中で私が演じるなつという女の子のイメージを作りたいな』って思いました」と広瀬すず。雄大な景色にも心の機微にも自然と溶け合う、スピッツの歌と楽曲の包容力。スタジオ演奏で披露された“優しいあの子”が、『なつぞら』の感激をも確かに呼び起こしながら、音楽の神秘そのもののような透明感とともに響いていった。

この日は最新アルバム『見っけ』からもう二曲、“ありがとさん”と“ヤマブキ”を披露したスピッツ。「昔から草野マサムネが作る楽曲に惚れ込んでいる?」の大泉の問いには、三輪テツヤ(G)/田村明浩(B)/﨑山龍男(Dr)が「うん」と即答。

「それがスピッツだもんね、真ん中にあるのが」(田村)

「俺にしてみても、このメンバーじゃないと作れなかったなって思うんですよ」(草野)

さらに突っ込む大泉の「結成からの32年間で変わったところは?」の問いに「メンバー同士の『くん』付けが『呼び捨て』に変わったくらい」と答え、「『もっとちゃんと弾けよ』とかないんですか? 失敗したら?」と続ける大泉に対しては「失敗しても『まあまあ、まあまあ』って。それが良かったんじゃないですかね、長く続けられたのはね」と答える草野。冒頭の大泉の「スピッツに入りたいな」発言は、そんな草野の言葉を受けてのものだ。

メンバー同士のエゴとプライドのせめぎ合いからロックのスリルを引きずり出すのとは別の次元で、リアルとファンタジーを独自の質感のロックへと編み上げてきたスピッツ。そんな奇跡的なバンドの在り方を、この日の『SONGS』はアルバム『見っけ』とはひと味違う角度から浮かび上がらせていた。(高橋智樹)
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