宇宙まお『永遠のロストモーメント』が描いた変わりゆく都会の風景と「かっこいい」生活へのあこがれについて

  • 宇宙まお『永遠のロストモーメント』が描いた変わりゆく都会の風景と「かっこいい」生活へのあこがれについて - 『永遠のロストモーメント』

    『永遠のロストモーメント』

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宇宙まおが1月8日にリリースした最新ミニアルバム『永遠のロストモーメント』が素晴らしい。どこまでも独創的なメロディメーカーでありストーリーテラー、しかもリスナーの琴線に引っかかって揺さぶる作品を生み出し続けてきた彼女の、最高傑作と呼ぶべきミニアルバムだ。以前から交流のある久保田光太郎(peridots)全面プロデュースのもと、レコーディングに参加した辣腕ミュージシャンたちの技術とアイデアもふんだんに盛り込まれ、音と物語が奔放に、活き活きと躍動している。

おもしろいのは例えば、アンダーグラウンドで燻るダンサーのぼやきが、胸をヒリヒリとさせる硬派な物語とグルーヴィーにスウィングするロックの中で描かれた“もう踊れない”。「かっこいい」と「かっこわるい」の境目からエモーショナルに迸る歌だ。また、“ピザとコーラ”はワウギターとオルガンの音色が効いたファンキーなロックチューンであり、物憂げな暮らしを音楽や映画で彩らせ、どうにか生活に変化を加えながら生きようとする物語が浮かび上がっている。

2ndフルアルバム『ベッド・シッティング・ルーム』に収録されていた“ヘアカラー”や、4thミニアルバム『電子レンジアワー』収録の“涙色ランジェリー(& 矢井田瞳)”では、憂鬱な日々に変化を加えようとする傷心女子の健気でキュートなマインドが彩り豊かなポップサウンドと共に綴られていたけれども、新作の“もう踊れない”や“ピザとコーラ”が描いているのは、「かっこいい」を目指してどうにか生活に変化を加えようと日々足掻いている、間抜けで滑稽な我々の姿そのものである。最高にクールなロックサウンドと相まって、「なぜロックはかっこよくならなければならないか」という本質的な疑問を突きつけてくる楽曲たちだ。

「かっこいい」に辿り着くまでのプロセスは、多くの場合決してスマートなものではない。陽の当たらない場所で燻りながら、様々なカルチャーに触れて気取ってみせたりしながら、我々は変化を欲して「かっこいい」を目指してしまうものだ。そんな必死な姿はスマートでも何でもないけれど、強烈なエネルギーが渦巻いていることは確かなのである。その過程にある無数の「かっこわるい」に焦点を当て、宇宙まおは膨大なエネルギーの根源に触れようとしている。


そしてやはり白眉なのは、ミュージックビデオが公開され楽曲の先行配信も行われている“東京”だ。生まれ育った故郷の、急激に変わりゆく街並みに触れ、宇宙まおは次々に失われゆく風景に思いを馳せている。

《怪獣映画で 踏まれてた/街はいつ 元に戻るんだろう》

映画『シン・ゴジラ』には、「スクラップ&ビルドでこの国はのし上がってきた」という台詞があったけれど、21世紀の東京は街をスクラップにするような戦争も大災害も経験していない。無数の人々の夢や希望、「かっこいい」を目指す思いを吸い上げてきたはずの街の変化。それはあまりにも自身の暮らしとはかけ離れた事柄のようで、彼女は《東京 もっと感じたい》と痛ましく歌っている。クリエイティビティとは何か。コミュニケーションとは何か。歌の中に答えは見つからないが、宇宙まおの音楽は渾身の力をもってリスナーの想像力に働きかけ、問いかけてくるのである。(小池宏和)
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