SHE’Sの音楽はなぜ私たちの「心」と「世界」を繋ぐのか? 井上竜馬の音楽世界を4枚のフルアルバムから紐解く

SHE’Sの音楽はなぜ私たちの「心」と「世界」を繋ぐのか? 井上竜馬の音楽世界を4枚のフルアルバムから紐解く
SHE’Sが5月13日(水)、4thフルアルバム『Tragicomedy』をリリースする。「Tragicomedy」とは和訳すると「悲喜劇」であり、このアルバムは「心」をテーマに制作したとのこと。今回のみならず、SHE’Sはこれまでのアルバムでもそれぞれテーマを設定している。

1stフルアルバム『プルーストと花束』(2017年1月)のテーマは「記憶」。タイトルにある「プルースト」とは、五感で捉えた感覚を通じて過去の記憶が呼び覚まされる現象「プルースト効果」から取ったもの。バンドのソングライター・井上竜馬(Vo・Key)は、メロディの断片や歌詞に登場する言葉に導かれながら、自身の記憶の中に眠っていた光景を蘇らせることで曲を書き上げたという。

必然的にパーソナルな内容となったこのアルバムには、井上の実体験を基にした曲が多い。例えば“Freedom”は井上が18~19歳の頃を思い返して書いた曲だし、“グッド・ウェディング”で描かれている内容も実話。“Running Out”にある《Five years has already gone》は、SHE’Sが結成から5年経過したことを指している。

また、目で見た景色や耳で聞いた音、肌が触れた時の感触と一人称の内省が呼応し合っていることを表したフレーズが多い。とはいえ、これは『プルースト~』収録曲以外にも共通するポイントであり、井上のソングライターとしての特長といえるだろう。こういった描写における井上の言葉選びの美しさには特筆するものがある。文字として歌詞カード等に並んだ時の見栄えも美しく、日本のバンドとしての矜持を感じる。

《道に迷ったら 月の影と重なり/水面に映った僕を見つめる》(“Stars”)
《夢は燦々と煌めいて/何でもない僕らを攫って 走り去った/波は淡々と寄せ返し/何でもない日々だって綺麗だ》(“海岸の煌めき”)
《その十字路は荒れ果てて/目の前で響く銃声/風塵が視界を遮って/胸の憂いは繰り返す》(“パレードが終わる頃”)
《波が僕の足を呑み込んで/泡の中に消えてしまったら/履き潰した靴の底に/やりきれない想いを隠していた》(“Ghost”)

2ndフルアルバム『Wandering』(2017年12月)のテーマは「放浪」。この「放浪」とは、変化を恐れず進化を志すバンドの姿勢、新たな表現領域に繰り出していく冒険心を象徴するワードとして用いられている。初の外部プロデューサーとしてGREAT3の片寄明人を迎えて制作されたこのアルバムでは、メンバー4人のルーツである洋楽(UKロック、ポップパンク etc.)のエッセンスが前作よりも分かりやすい形で取り入れられているのだ。歌詞に関して言うと、やはりリード曲“White”のインパクトが強い。サビで《まるで最初のような/最後の恋をしよう/僕らならうまくやっていけるよ》と歌うこの曲は、洋楽のラブソングのように直球である。「愛してる」という単語を使わずに如何に愛情を表現するか、ということに心を砕く傾向にある日本のラブソングとは異なる温度感だ。

3rdフルアルバム『Now & Then』(2019年2月)のテーマは「二面性」。井上がリリース時に「常に変化を求めて音楽を作り続けている今のSHE'Sと、昔から変わらないSHE'Sの二面性をたっぷり味わえる楽曲達が揃ったのでこのタイトルを付けました」とコメントしているように、新境地的な要素と従来の美点が共存する作品となった。

歌詞に目を向けてみると、例えば“The Everglow”における《あの頃》と《今》、“歓びの陽”における《僕の哀しみ》と《(あなたの)嬉しそうなその笑顔》、“Set a Fire”における《未来》と《過去》、および《高く飛んだ鳥》と《地に着いた足》のように、対照(対称)的なモチーフが登場する曲が多い。また、逆さまを意味する“Upside Down”という曲のタイトルや、“Dance With Me”にある《裏腹》というワードは「二面性」を連想させるものだ。

個人的に好きなのは、シングル『The Everglow』のカップリング曲でもある“月は美しく”。詩のような構成をしたこの曲で歌われているのは、密かに相手を想う気持ちとそれを口にすることが叶わない現状。多くの人にとって心当たりがあるであろう最も普遍的な「二面性」を綴った、シンプルだが奥深い曲だ。

《あなたに会いたい/言葉に出来ずに/この歌を唄うのです》
《近くにいるのに遥か遠く/互いに想いも伝えずに/知ってゆくことしか出来ないけど/それだけで良いと/虚勢を張るのです》

そして4thフルアルバム『Tragicomedy』。繰り返しになるが、本作のテーマは「心」。『Tricolor EP』にも収録された“Masquerade”、“Letter”、“Your Song”の3曲、そして“Unforgive”では、(これまでのSHE’Sの曲もそうであったように)喜怒哀楽様々な心模様が描かれていた。さらにこれら4曲の中では、自分の内なる声に耳を傾けること――そのうえで他者を「別の思考を持つ生き物」として認め、お互いが幸せになれるような落としどころを探すことの大切さと難しさも歌われていた。加えて興味深いのは、表題曲“Tragicomedy”が「心」そのものについて歌った曲であること。歌い出しは《どんな魔法でも 思うようにならない/僕らが胸に飼う 天使のような悪魔は》である。

丁寧な歌詞表現と鮮やかなバンドサウンドで色とりどりの心模様を表現してきたSHE’Sだが、先行リリース済みの『Tragicomedy』収録曲には、そこから一歩奥に踏み込んだような手応えがある。ということは、『Tragicomedy』はかなり核心的な作品になっているのでは?と推測することができるし、根を写したアートワークも示唆的だ。来たる5月13日(水)、アルバムの全貌が明らかになる日を楽しみにしていたい。(蜂須賀ちなみ)

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