go!go!vanillasのロックンロールはその熱い音楽愛を解剖すればするほど気持ちいい

go!go!vanillasのロックンロールはその熱い音楽愛を解剖すればするほど気持ちいい
go!go!vanillasの音楽を聴くと、ライブハウスで観客が大盛り上がりしている風景を想像できるのはもちろんなのだが、不思議とレコード屋の店内の様子も思い浮かぶのが面白い。様々な時代の作品が雑多に並べられていて、海外盤もたくさん扱っていて、古いジャケット特有の、何処か湿り気を感じる紙ジャケットの匂いが漂っているような中古レコード屋の様子をありありとイメージさせられるのが、このバンドの独特さだ。ある程度の期間、音楽に夢中になったことがある人ならば身に覚えがあると思うが、音楽との出会いは、求めれば求めるほど新たな出会いを無限に呼び寄せる。大好きなミュージシャンがルーツとして挙げたアーティストを試しに聴いたのをきっかけとして、新譜専門の店ではなかなか手に入らない作品を扱っている中古レコード屋に足繁く通うようになり、インターネットも活用しつついろいろ探し続けている内に、幅広い時代、多彩な国籍の音楽の素晴らしさを自ずと吸収してしまった――というような軌跡が垣間見えるのが、go!go!vanillasなのだ。

無数の音楽への憧れが背景にある彼らの作風を簡潔に紹介するのは、実はなかなか難しい。ざっくり言うならば「ロックンロールバンド」であり、「ザ・ビートルズは好きに決まっている」というくらいは躊躇なく明言できるのだが、「でも、それだけじゃないよね?」という部分をどんどん思いつくことができるのが、このバンドの奥深さ、かけがえのなさだと言えよう。まず、彼らについて語る上での起点とするべきなのは、先述のザ・ビートルズの他、ザ・フーザ・ローリング・ストーンズザ・キンクスといった、60年代に登場した偉大な先人たちであるのは、改めて強調するまでもないだろう。しかし、そこにさらに70年代後半に起こったパンクムーブメントの立役者だったセックス・ピストルズザ・ダムドザ・クラッシュラモーンズなどの野趣、強靭なビートも取り入れているのを感じるし、オアシスブラーに代表されるような90年代のブリットポップの香りも帯びているし、00年代のガレージロック、ロックンロールリバイバルの衝撃も喰らっていないはずないからザ・リバティーンズザ・ストロークスアークティック・モンキーズも大好きだろうし、ザ・ホワイト・ストライプスザ・ヴァインズカイザー・チーフスジェットザ・クークスとかにも刺激を受けたはずだし、おそらくスウェーデンのザ・ハイヴスマンドゥ・ディアオにも夢中になったよね?……といった具合で、背景にあると思われる存在を挙げると、本当にキリがない。まあとにかく、わかりやすくザックリと表現するならば、go!go!vanillasの背骨となっているのは、「様々なミュージシャンによって生み出され、継承され、進化を遂げてきたロックンロール」ということだ。

彼らが鳴らすロックンロールについて付け加えるならば、「ダンスミュージックとしての面を大切にしているのを感じる」という点も指摘できる。爆音で得られる昂揚感、酩酊感を誘う音像の構築など、多様な方向性を持ち得るロックンロールだが、その出発点は、R&B(リズムアンドブルース)をルーツとしたダンスミュージックだ。フロア上で優雅に円を描いて踊るワルツや、スウィングしたくなるジャズなどとはまた別の形の踊る快楽を人々に与えたロックンロールの刺激を端的に表現するならば、「腰をクネクネさせたくなる感じ」ということになるだろうか。艶めかしく腰をクネらせて踊りたくなるグルーヴのフィーリングは、“エマ”、“ナイトピクニック”、“サイシンサイコウ”などにまさしく表れている。


そして、ロックンロール以外のエッセンスも、彼らの音楽からは感じ取ることができる。ここまでで述べてきたように、このバンドの背景の大部分は、イギリスやアメリカの音楽に代表される、所謂「洋楽」だが、日本の70年代辺りのフォークや、日本語ロック黎明期のバンドに通ずるものも、歌詞の言葉の響きやメロディに宿らせている。シングルのカップリングで吉田拓郎泉谷しげるなどの曲をカバーしたことがある点も示している通り、この頃の日本の音楽の要素も絶妙に採り入れているからこそ、彼らは幅広いリスナー層の心を捉えることができているのだと思う。また、海外のロックを熱心に聴いている内に、自ずと触れることになるブリティッシュトラッド、アイリッシュフォーク、ケルトミュージックの息吹も、go!go!vanillasの音楽の粋なスパイスとなることが度々ある。そういえば、牧達弥(Vo・G)が、フェアポート・コンヴェンションについて語っているのを聞いたことがある。このようなバンドに対してもアンテナを張っているからこそ、“ラバーズ”、“ツインズ”、“Hey My Bro.”といった曲が醸し出す郷愁感も生まれているのだろう。

go!go!vanillasの音楽は、耳を凝らせば凝らすほど、いろいろ素敵な発見をすることができる。彼らの胸の内にある音楽リスナーとしての素朴なトキメキを鳴り響いている音を通じて感じ取れた瞬間、我々が抱く各々の曲に対する愛着は劇的に増していく。興味が湧いた人には、彼らのルーツを積極的に辿ることをお勧めしておきたい。このコラム内で挙げた様々なバンド、アーティストの他、メンバーたちがインタビュー記事などで名前を挙げた作品を実際に聴いてみれば、たくさんの美しい音楽と出会えるはずだ。自分たちの作品を手に取ってくれるファンたちが、「音楽」という無数のワクワクを抱ける広大な世界全体も深く愛することは、go!go!vanillasの4人にとっても大きな喜びとなるに違いない。(田中大)
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