特別企画! ロッキング・オンが選んだ「2010年代 究極の100枚」からTOP20を発表!(15日目)

特別企画! ロッキング・オンが選んだ「2010年代 究極の100枚」からTOP20を発表!(15日目)

2020年を迎えて早くも初夏に。パンデミックの影響で巣ごもりの時間が長引くなか、音楽を心の拠りどころにする人も多いことでしょう。そこで、ロッキング・オンが選んだ「2010年代のベスト・アルバム 究極の100枚(rockin’on 2020年3月号掲載)」の中から、さらに厳選した20枚を毎日1作品ずつ紹介していきます。

10年間の「究極の100枚」に選ばれた作品はこちら!


2010年
『ザ・サバーブス』
アーケイド・ファイア


特別企画! ロッキング・オンが選んだ「2010年代 究極の100枚」からTOP20を発表!(15日目)

喪失直前のイノセント

2010年代の始まりに発表され、なんとグラミーのアルバム賞まで受賞してしまった『ザ・サバーブス』。インディ・ロック・バンドとして例えばR.E.M.以来の成功を勝ち得たと言われるアーケイド・ファイアの金字塔と言えるのがこの作品だ。ブッシュ政権の暗黒時代にデビューし、『フューネラル』では、死をテーマにアンセムをかき鳴らした彼ら。続く『ネオン・バイブル』では閉塞的な世の中の宗教や権威を検証し、それに対する非常にヘヴィな回答を出した。両作品とも世界の緊迫を表現し、警鐘を鳴らしながら、若者を牽引するかのような強烈なリズム主体のアルバムだった。

しかしオバマ政権の誕生とともに、彼らが辿り着いた先は、莫大なアメリカン・ドリームの果てだった。このアルバムの舞台となったのは、ウィンとウィル・バトラーの地元である巨大ショッピング・モールやゴルフ・コースで有名なテキサス州ヒューストン郊外。そこで、大人になっていった少年達のイノセントとその喪失を、ニール・ヤングを彷彿とさせるサウンドで、壮大にメランコリックに描いてみせたのだ。ヘヴィな前作に比べ少し軽やかになっているし、そのテンポも急激に変化を遂げている。ダンス・サウンドすら取り入れて、その後の彼らの変貌の始まりを告げる最も野心的な作品ともなった。

デビュー当時比べられたブルース・スプリングスティーンのように車がキーのひとつとなり、ジャケットに象徴的に描かれている。しかし現状から脱出しようと車を疾走させるブルースの曲に比べると、彼らの車には運転手の姿もなくただ行き止まりを見つめているだけだ。希望があるはずなのに、夢があるはずなのに、このアルバムに漂うのは、漠然とした焦燥感と諦め。そして胸を締め付けられるような哀しみだ。《なぜ若いうちに娘が欲しいのかというと/ダメージを受ける前に、娘の手を取り、美を見せておきたいからなんだ》と彼らは歌う。

興味深いのは、この作品では、「郊外からの手紙」として若者達が感じていた何かの終焉、イノセントな青春時代の喪失が普遍的に描かれていたが、2010年代が終わる頃までには、彼らが漠然と予感していた地球の「ダメージ」が目前に迫ってしまったということ。このアルバムは期せずして、青春時代のイノセントの喪失を、もっと巨大なものが奪われる直前に封じ込めた奇跡的なアルバムとなった。(中村明美)
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