MVは、アニメーターのはなぶしとヨツベの共作。主人公は一人の少女で、はなぶしのオリジナル作品『ピギーワン』のキャラクターも登場。SF風、RPG風、といった具合に数種類のテイストのアニメが一繋ぎにされている。映像のテイストに合わせて歌詞のフォントまで変わっていたりと、5分弱の映像のなかにこだわりがたくさん詰まっているのが楽しい。(ファンアートやカバー動画の投稿を含めた)SNS上でのリスナーの反応が盛り上がりをさらに拡大させているのはこれまでと同様だが、これまでと違うのは、そのなかに海外からの反応も見受けられること。近未来的でありながらちょっぴりレトロな、他国の言語では形容しがたい「かわいい」の要素が多くの人の心を掴んだと考えられる。
そしてこのMV、いわゆるメタ構造になっている。“お勉強しといてよ”はイントロ→1番(Aメロ→Bメロ→サビ)→2番(Aメロ→Bメロ→サビ)→Dメロ→ラスサビ→アウトロという構成。これはJ-POPの定型と言える構成だが、2番の途中で、映像のなかの少女が「これは1番と同じことを繰り返しているだけだ」と気づく。少女は決められた展開を変えようと動き出す。しかしそれは大きな手によって阻まれる。少女の頭をなでたり、手のひらのなかに少女を閉じ込めようとしたりするその手は、画面越しにMVを鑑賞している私たちの手だろう。少女は画面の外へ走り出すが、外に出ることは叶わない。なぜかというと、アウトロが始まってしまったから、曲の終わる時間が来てしまったからだ。しかし音が鳴り止んだあと、たくさん並んだテレビの前に少女に似たシルエットが現れる。それが何か始まりを予感させている。
これまで発表した曲を連想させるモチーフが映像内にいくつもあるのも象徴的だが、曲自体は、従来の音楽性を濃縮還元したような仕上がりになっている。ボーカルのACAねにしろ、MV・楽曲制作に携わったクリエイター陣にしろ、この曲が海外にまで波及するとは想像していなかったのでは?と一瞬思ったが、一方、このタイミングで「ずとまよとは?」という問いをさらに深めるような作品を発表していることは偶然ではないように感じる。すべては彼らの手の中に、ということなのだろうか。
先日発表されたように、これとはまた別の新曲“暗く黒く”が映画『さんかく窓の外側は夜』の主題歌に決定した(ずとまよにとって初の映画主題歌担当となる)ほか、幕張メッセでの単独公演を控えているずとまよ。さらに8月5日(水)には、“お勉強しといてよ”も収録される3rdミニアルバム『朗らかな皮膚とて不服』がリリースされる。怒涛の動きとともに加速していくであろうずとまよ現象から、ますます目が離せなくなりそうだ。(蜂須賀ちなみ)
現在発売中の『ROCKIN’ON JAPAN』2020年7月号にも“お勉強しといてよ”の徹底レビューが掲載
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