まふまふにEveなど、近年「歌ってみた」出身のアーティストの活躍がめざましい。かつてはネット上のクローズドな世界のみで認知されていた彼らの存在は、いよいよ音楽シーンのメインストリームへと大きく乗り出してきている。そう感じさせる役割を果たす一人が、Souだ。
Souは2013年からニコニコ動画に「歌ってみた」動画を投稿して人気を博し、2015年には『水奏レグルス』でメジャーデビュー。その後、ナユタン星人やはるまきごはん、Eveなどとの共作CDの発表を経て、着実に活躍の場を広げてきた。その魅力は、繊細な声音を駆使し、楽曲を咀嚼してSouならではの歌としてアウトプットしていく能力だろう。さらに、2019年には初の自身作詞作曲の“愚者のパレード”を発表。≪不完全で不安定な心で/最大の理想像を描いた/対照的な自分なんて/もう殺してしまえよ≫と歌うこの曲で社会と適合できない息苦しさを描き出し、どこか厭世的な独自の世界観を知らしめた。
そして今回Souは、8月19日(水)に全曲オリジナルのEP『Utopia』をリリース。神谷志龍&RUCCAと組んで作詞作編曲を手がけた2曲に加え、煮ル果実、A_Ⅱ、R Sound Design、あめのむらくもP、ピコンらクリエイターからの提供曲で構成されている。
「思い通りにいかないことばかりが続いて、何でもできるような夢の世界にでも逃げ出したい」――そんな思いから生まれたというこのEP。「理想郷」の意味を持つタイトルが冠されているが、楽曲を聴いてみると、理想郷そのものを描いたというよりも、そこに至ろうともがく姿にスポットが当たっている印象を受ける。
例えば、“クイニーアマンダ”では≪あと幾許年経てば僕は/思い描いてた理想の自分に成れる?≫と歌う。また、リード曲“ミスターフィクサー”では、ピアノのサウンドをメインに、焦燥感を煽るようなアップテンポなメロディで≪能動で生きているの? 生かされているの?≫と現状に揺さぶりをかけるような問いを投げかける。
理想と現実とのギャップが埋まらない葛藤については、Sou自身がインタビューで語っているところでもある。今回のEPは初の全曲オリジナル楽曲であり、Souのクリエイティビティがより開花するとともに、“愚者のパレード”から通底するテーマがより浮き彫りになった形だ。ジャケットに描かれた廃墟に佇む少年の姿も、まだ「理想郷」には至っておらず、殺伐としたさなかに身を置いている状況を感じさせる。
その一方で、“ユートピア”の≪焦がれた夢の全部が 正夢だと願って進んでいく≫からは、今歩いている道のりがいつか望む場所に繋がっているという手ごたえも感じ取ることができる。
今はまだ道半ばであること、けれども明るい方へ確信をもって踏み出したこと、それはSou自身の立ち位置とも重なるように思う。きっとアップデートされ続ける理想を追い求めるSouがどこまで連れていってくれるのか、この先まで楽しみを与えてくれる1枚だ。(満島エリオ)
Souの登場が照らす理想郷とは? 新EP『Utopia』が描く暗闇の中からの決意表明
2020.08.18 12:00