ダークな世界に煌めく、ピュアすぎるプロフェッショナリズム
文=木津毅胸が張り裂けそうになる映画だ。ビリー・アイリッシュと彼女の表現を愛している人ほど、その痛みは増すにちがいない。
このドキュメンタリーは2018年からすさまじい勢いでスターダムを駆け上がっていくビリーの姿を約2年間克明にとらえたもので、そこでは人気と名声が彼女を混乱に陥れ、ボロボロになるまで傷つけたことが映されているからだ。しかも、状況分析的にナレーターやインタビューを挿しこむことで客観性を高めることなく、基本的にカメラをビリーのそばに置くだけというスタイルを採っているため、彼女がそのときどきに抱いた痛みや孤独感がすべて生々しく伝わってくる。
2時間20分、観る者はビリー・アイリッシュその人が苦しむ姿を、固唾を呑んで見届けるしかない。(以下、本誌記事に続く)
2021年、いま語られるべき新たな「オルタナティブ」の意味
文=小熊俊哉ビリー・アイリッシュがボンド映画の主題歌“ノー・タイム・トゥ・ダイ”で、《死に身を委ねている暇などない》と歌うのは示唆的だった。デイヴ・グロールは彼女について「観客との繋がり方が1991年のニルヴァーナと同じ。ロックンロールは死んじゃいない」と語っているが、「錆び付くよりは燃え尽きたほうがいい」と遺書に記したカート・コバーンと今を生きるビリーはある部分で決定的に違う。
『ビリー・アイリッシュ:世界は少しぼやけている』という題は、規格外のスピードで社会現象を巻き起こした彼女の「戸惑い」を代弁しているようにも映る。2018年から2020年初頭にかけて、自宅からツアー先まで密着。そこで撮りためた膨大なアーカイブを軸に、パフォーマンス映像やホーム・ビデオも織り交ぜ、神格化されてきたビリーの裏側を描き出すことに成功した。
2時間20分ものボリュームとなった本作には、成功までの背景とともに、膨れ上がったプレッシャーと格闘する姿も収められている。(以下、本誌記事に続く)
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