約2年半前、前身バンド「WARS iN CLOSET」時代のマイにインタビューしたことがある。新生・水曜日のカンパネラの初楽曲“バッキンガム”のミュージックビデオを監督したのが彼女で、詩羽とともに取材させてもらったのだが、その時からマイは自分を奮い立たせるエネルギーや創作にかける熱量が凄まじい人だと感じていた。
CLAN QUEENが緻密に創る物語は、現代人が心の奥で抱えている虚無感を掬い上げているように思う。作詞作曲はすべてAOiが担当。《電子回路奴隷》(“ヘルファイアクラブ”)な私たちは、SNSは滑稽だとわかっているのにそこから抜け出すことができない。誹謗中傷はダメだと言いながら、そういった言葉を悪意なく書き込んでしまう。愛についてわかったふりをしても振り回されるし、悟った気でいても社会の構造からは逃れられない──そんなふうに、理解できない「あなた」や「天使と悪魔」は、自分の中にいることをCLAN QUEENの曲は映し出す。人間とは絶望の先で渇望する生き物だが、yowaの歌声はそんな人間的な行動や心情を巧みに表現してみせる。
拡声器で叫ぶ歌と鬼気迫る演奏の“プルートー”、J-POP的なアレンジが光る“天使と悪魔”、ホーンが華やかな“踊楽園”、チルな夜が浮かぶ“ファンデーション”など、各曲のアレンジにバンドの自由さが表れているところもいい。
そしてミュージックビデオはすべてマイが担当。音を際立たせる画作りや曲に深みを持たせる脚本は、メンバーだからできるクオリティ。さらに、同じ言葉を歌ってもパートごとにその意味を変えることのできるyowaの表現力が、各曲の物語をよりドラマチックに彩っていく。しかも曲・歌詞・映像・ジャケットなどに伏線がちりばめられていて、新たな作品に触れるたび、私たちはCLAN QUEENの物語へと引きずり込まれてしまうのだ。
文=矢島由佳子
(『ROCKIN'ON JAPAN』2024年6月号より抜粋)
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