メニュー




まだ日は沈んでいないけど、辺りは急激に涼しくなってきた。湖から吹きつける風も、さらに強くなってきた。個人的には、レイク・ステージのこの時間帯が一番好きだったりする。フェスのどこまでも開放的な祝祭ムードに、さらにもう一歩、深い意味が付け加えられていく時間がこの夕暮れ時だと思うから。次第にクールダウンしていく身体と反比例するように、「フェス体験」だけじゃなく、もっともっと「音楽的体験」を欲してしまう貪欲な自分に気づく時間だと思うから。そして今日この日のグレイプバインは、まさにそんな完璧な音楽的体験をもたらしてくれたバンドだった。

「ヘイッ! ヘイッ! ヘッ! ヘッ! ヘィッ!」 まるで原始の儀式の開始を告げるかのような田中和将の雄たけびと共に、オープニング・ナンバー“Suffer the child”、スタート。そして、凶器と化したピアノの高速連打を合図に、一気にピースフルなフェスの護符が解かれてしまった――な、なんじゃこりゃーっ! こりゃもう、ストーンズの“悪魔を憐れむ歌”級の呪術ロックンロールだよ。禍々しい「タブー」としてのロックンロールの突如出現。田中和将のヴォーカルにも何かが「憑いて」しまったとしか思えない。巻き舌ロール、コブシ、咆哮、そのすべてが未知の獣のそれだ。やばい。殺られそうだ。グレイプバインのロックンロールに、殺されそうだ。
続く“ミスフライハイ”も極太ベース・ラインがイントロからして既に暴力だ。きついカーブを減速一切なしで爆走していくような、制御不能のグルーヴ。目の前で繰り広げられている事の意味に、正直、オーディエンスは呆然としている。
「新曲!」。そう田中が叫び、“Metamorphose”へ。ミドル・テンポで進むブルージーなロック・ナンバーだ。そして、ドラムロールに先導されて“覚醒”。焼けつく灼熱から体温の暖かさへ。メロディが肢体の隅々まで行き渡っていく充足感。ようやく、ピンと張り詰めた神経が緩んでいった。逆に言えば、ここまでの3曲のテンションが尋常じゃなかったということだろう。

はっと我に返れば、レイク・ステージはシート・ゾーンまでぎっしり黒山の人で埋め尽くされている。「今年もレイク・ステージでやらせてもらってうれしいです。でも、たまにはグラスにも出させろっちゅうねん。しかもこの時間、グラスはとってもオイシイわけで(岡村ちゃんのことでしょう)、君たち、よくぞ来てくれました。というわけで、まったりしていきます」。そんな田中和将の言葉どおり、今日一番の、いや、今日唯一のまったりメロディ・オリエンテッドなナンバー、“風待ち”。一語一語をかみしめるように歌う田中、そして西川弘剛のギター・ソロでは拍手が巻き起こる

ラストは“here”のノイズ・コラージュのアウトロからそのまま“豚の皿”へ突入だ。そして、またもやいったん緩んだムードが再びスタート当初のテンションに逆戻りしていく。断崖絶壁から垂直にダイヴするかのような、とんでもない絶望と暴力のカタルシス・ナンバー。しかも地上で粉々に打ち砕かれる寸前で、掟破りの特大ブレイクと共に一気に空高く舞い上っていくポジティヴで力強いパフォーマンス。この意識の下降と上昇のジェットコースターの繰り返しに、完全に頭を吹っ飛ばされる。すごい。こんな風景にオーディエンスを置き去りにしたアクトがこの3日間で他にいたか? 終演後、フィールドを包んだのは歓声よりむしろどよめきだった。 もう一度言わせて。すごい!(粉川しの)


1. Suffer the child
2. ミスフライハイ
3. Metamorphose
4. 覚醒
5. 風待ち
6. here
7. 豚の皿